- 深海の魚が光るのは、生き抜くための戦略
- チョウチンアンコウやヒカリキンメダイは、発光バクテリアと共生し、光で『命のつながり』を保っている
- そんな深海の『光る命』を実際に観察できる貴重な体験ができる水族館がある。

深海の闇に漂う光る魚たち。
真っ暗な深海で、生き物たちは光を頼りに生きています。つまりその光は、美しさのためではなく、生きるために生まれたものということを知っていますか?
捕食や仲間との合図、敵から身を守るためなど、それぞれが独自の『光の使い方』をしているのです。
今回は、深海の中で生きるチョウチンアンコウとヒカリキンメダイという、二つの深海に息づく命の知恵を紐解いていきます。
光る理由は『生き抜くため』発光の3つの目的

※画像はイメージです
太陽の光が届かない深海では、視界は常に真っ暗です。
そんな環境の中で『光る』という能力は、命をつなぐための大切な手段であり、深海魚の多くが発光するのは、生き抜くための戦略です。
そして、その目的は主に3つに分けられると考えられています。
光の使い道① 【捕食】
チョウチンアンコウは、頭の先にある『チョウチン』のような突起(エスカ)を光らせ、獲物をおびき寄せます。ヒカリキンメダイも、同様に目の下にある発光器で獲物を誘い出します。
深海では、光がまるで『疑似エサ』のような役割を果たしているのです。
光の使い道②【防御】
敵から身を守るために光を使う魚もいます。
深海で捕食者は、海上からの光を頼りに水面に反射する黒い影を探します。そんな『影』を消してしまうのが、光を防ぐために使う『カウンターイルミネーション』と呼ばれる方法です。
例えば腹部に発光器を備えた深海魚は、お腹をほんのり光らせて背中から見たときに「海面の薄い光があるのかな?」と思わせ、影を浮かび上がらせません。体の下側を光らせて、上から見たときに海面の光と同化させることで、自分の影を消すのです。
また、発光によって「近づかないで」という警告サインとして機能する魚もいます。たとえば、背びれや体の一部を光らせて「私は毒があるかも」「捕まえにくいよ」と示すことで、捕食者に接近を躊躇させる効果も報告されています。
つまり、深海の魚たちは『明るく見えることで逆に見つかりにくくする』という逆転の発想を使って、自分の体を守っているのです。
光の使い道③ 【交信・求愛】
深海はほとんど光が届かないため、音や色でのコミュニケーションが難しい環境です。そんな中で魚たちは『光』を言葉のように使って、仲間や異性にメッセージを送っています。
たとえばヒカリキンメダイは、目の下にある発光器を点滅させて仲間と意思疎通をしています。発光のリズムや強さが、それぞれの『個体のサイン』になっていると考えられており、まるでモールス信号のように「ここにいるよ」「敵が近い」などを伝えているそうです。
また、チョウチンアンコウのように求愛に光を使う魚もいます。
深海では相手に出会える確率が非常に低いため、光を目印にしてオスがメスを探します。発光の色や位置が『同じ種』であることを示すサインになっており、偶然出会えた相手を見逃さないための工夫なのです。
『ランタン』を掲げる深海の狩人【チョウチンアンコウ】
深海の闇に、ふわりと浮かぶ小さな光。
チョウチンアンコウのメスは、頭の先にある発光器の『エスカ』をゆらめかせて獲物を誘います。
この光は発光バクテリアとの共生によって生まれるもので、青白く幻想的に輝くと言われています。そして、その光に引き寄せられた魚を、大きな口で一気に丸のみにするその姿は、まるで暗闇の中で釣りをしているかのようです。
オスは『寄生』して生きる!究極の『共生関係』
深海では、出会いそのものが奇跡といわれます。
チョウチンアンコウが光を発するのはメスだけで、オスは光を頼りにメスを見つけます。広大な暗闇の中で一度巡り会った相手を逃さないよう、オスは見つけたメスの体にかじりつき、やがて血管がつながって栄養をもらいながら生きるのです。
その結果、最終的にはオスの体が退化し、メスと一体化します。メスの体にはオスの精巣だけが残り、メスに精子を提供し続けるのだとか。個体によっては1体のメスに複数のオスが寄生することもあり、これも少ない出会いを最大限に活かすための戦略といえそうです。
まさに『命を共有するパートナー』として、厳しい環境の中で確実に次の命をつないでいるのです。
メスだけが放つ『愛のサイン』光る宝石【ヒカリキンメダイ】
ヒカリキンメダイは生息水深が200〜1,000mと深く、漁で偶然にしか捕獲されないことから『幻の光魚』とも呼ばれています。
そんな幻の魚が、沼津深海魚水族館でまれに展示されることがあり、薄暗い展示室の中で光る姿は暗闇の中で小さく光るホタルのようです。
名前の通り、金色に輝く瞳のような発光器
眼の下に半月板の発光器を保有する、ヒカリキンメダイ。目の下がほのかに青白く光る姿はまるで『光る宝石』にもみえます。
深海でほのかに光るその姿から『光る金目鯛』と呼ばれることもありますが、実は金目鯛とはまったく別の魚です。
金目鯛はスズキ目キンメダイ科に属するのに対し、ヒカリキンメダイはアシロ目ヒカリキンメダイ科に分類されます。名前に『キンメダイ』とついていますが、系統的にはかなり離れた存在なのです。
見た目も、金目鯛のように赤く輝く鱗ではなく、深海魚らしい暗い体色に青白く光る発光器を持っています。この光も、発光バクテリアとの共生によって生まれます。
その発光器はメスのみにあり、エサをおびき寄せると同時に、オスへの『愛のサイン』にもなるといわれています。
『深海の光』はどんなしくみで生まれる?

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生き物が自ら光を出す現象は『生物発光』と呼ばれています。
これは、ルシフェリンという物質と、ルシフェラーゼという酵素が反応することで生まれる光です。この反応は熱をほとんど出さないため『冷たい光』とも呼ばれます。
発光の仕組みには、大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは、ホタルイカなどのように、自分の体内で発光物質をつくるタイプ。もうひとつは、チョウチンアンコウやヒカリキンメダイなど発光バクテリアと共生して光るタイプです。
どちらも、光の届かない深海で生き抜くための進化の結果といえます。
水族館で会える『深海の光る魚』

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人間は深海まではいけないですが、深海まで行かなくても、日本各地の水族館で光る魚たちに出会うことができます。展示は季節や個体の状態によって変わるため、訪れる前に公式サイトで確認しておくのがおすすめです。
ヒカリキンメダイ
メスだけが光る『深海の宝石魚』。沼津深海魚水族館で展示されることがあります。
チョウチンアンコウ
頭のランタンで獲物を誘う『深海の釣り名人』。沼津深海魚水族館や葛西臨海水族園で特別展示されることもあります。
ホタルイカ
青白く発光する胴体が特徴。春の富山湾では群れで光る姿が見られ、富山県ほたるいかミュージアムでも展示されています。
オニキンメ
体表が金属のように輝く『反射魚』。八景島シーパラダイスで観察できることがあります。
光る魚たちを実際に見ると、写真では伝わらない繊細な輝きと、生き物ならではの『呼吸する光』を感じられるのでおすすめです!機会があればぜひ足を運んでみてください!
深海の光が教えてくれること。『生きる』とは、見えない中で光ること

深海魚の発する光には、獲物を誘うため、防御のため、仲間と出会うためといった、さまざまな意味が込められています。
暗闇の中で自ら光を生み出す姿を見ると『どんな環境でも生きる工夫を重ねること』が、生命の本質なのだと感じさせられます。
水族館で光る魚たちに出会ったときは、ぜひその一瞬の光の裏にある『生きる理由』に思いを馳せてみてください。




