冬眠だけじゃない?動物たちが見せる冬を越すときのメカニズム

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まとめ
  • 『冬眠』は動物たちが冬を乗り切る戦略
  • 恒温動物と変温動物で異なるメカニズム
  • 体温や代謝などを調整してエネルギー消費を抑えるしくみ

冬になると、森や池で動物の姿を見かけなくなることがあります。どこへ行ったのか不思議に思うかもしれませんが、実はそれぞれの動物が自分なりの方法で冬を過ごしているのです。

クマは巣穴で体を休め、ハムスターは周囲の温度が下がると小さく丸まって動かなくなる。メダカやカメは水の底でじっと静かに春を待ちます。これらは、寒さや食べ物の少ない季節を生き抜くための体の変化

この記事では、野生動物たちがどんなしくみで冬を乗り越えているのかを紹介します。『冬眠』と『冬越し』似ているようで少し違うその秘密を、一緒に見ていきましょう。

目次

そもそも動物の『冬眠』『冬越し』とは?

冬になると、寒さや餌不足の季節を乗り切るために一部の動物たちは『冬眠』や『冬越し』という特別なモードに入ります。

『冬眠』は、主にクマなどの恒温動物が、自ら体温や代謝を下げて活動を止める状態を指します。一方の『冬越し』は、メダカやカメといった変温動物に起きる現象で、気温や水温の低下に合わせて代謝が自然に下がり、動きが鈍くなることをいいます。

実は、変温動物に対して『冬眠する』と表現することもありますが、正確には体温を能動的に下げているわけではなく、環境に合わせて代謝が落ち、結果的に活動が止まっている状態をさしています。

どちらにも共通しているのは、エネルギーの消費を最小限に抑え、命をつなぐという目的。冬眠や冬越しは、寒さやエサ不足による飢え、外敵からのリスクが高まる冬を乗り越えるために進化した、自然の知恵だといえます。

クマの冬眠!動かない時間に秘められた生命のしくみ

冬の森では、クマたちの姿がすっかり見えなくなります。それは、寒さと飢えの季節を乗り切るために『冬眠モード』に入っているから。活動を止め、わずかなエネルギーで体の機能を維持する冬眠は、自然が生んだ究極の省エネ術です。

クマが選んだ『省エネ』な生き方。寒い森で命をつなぐ

クマにとって冬は、生きるための資源が最も乏しくなる時期です。冬の森では、エサとなる木の実や果実も見つからず、活動を続けても『得られるエネルギー』より『使うエネルギー』の方が多くなってしまいます。

そのため、秋のうちにドングリやクリ、果実などをたくさん食べて脂肪をため込み、冬の断食に備える準備期間を過ごします。こうしてクマは食べず・飲まず・排泄もせずに、体のなかに蓄えられた脂肪を少しずつ燃やして生きるのです。

また、ツキノワグマのメスは、冬眠中に出産を行います。母グマは深い眠りのなかで赤ちゃんを産み、春先の目覚めまで、体のぬくもりで小さな命を守り続けるのです。動きを止めることが、次の世代へ命をつなぐための大切な時間にもなっています。

クマの冬眠のしくみをのぞいてみよう!

クマの冬眠は『眠る』というよりも、体を省エネモードに切り替える精密な生理現象です。

体温はおよそ33〜36℃と、想像するほど極端には下がりませんが、代謝を通常の25%以下に抑えています。心拍数は安静時の半分ほどにまで減り、呼吸もゆっくりとしたペースで続きます。

なんとクマは、長期間寝たきりのような状態でも筋肉や骨が衰えません。体内で筋タンパク質の合成と分解を同時に抑制し、バランスを保つ仕組みが働いているためと考えられています。

また、排泄ができない間は尿素を再利用し、老廃物を体内で栄養に変えるという循環システムも備えています。冬眠から目覚めるタイミングは、気温の上昇や日照時間の変化・体脂肪量など、さまざまな要素が関わるとされています。

ハムスターは『冬眠』する?その本当の姿

クマのように長期間じっと過ごす動物がいる一方で、もう少し短いサイクルで冬をやり過ごす生きものもいます。その代表がハムスターです。寒い季節になると、ハムスターの動きが鈍くなり、まるで眠っているように見えることがあります。

実は、クマのような長期的な冬眠とは少し異なり、短い時間だけ体温と代謝を下げて休む『休眠(トーパ)』という現象なのです。

寒さに負けないために!ハムスターが休眠するワケ

ハムスターは小さな体ゆえ、外気の影響を受けやすく、体温を保つために多くのエネルギーを使います。野生のハムスターの場合は、冬場に気温が下がりエサが少なくなると、活動を続けるよりも体を休ませた方が生き延びる確率が高まります。

そのため、気温が10℃以下に下がり、日照時間が短くなると、ハムスターの体は自然と省エネモードへ切り替わるのです。この状態では体温が20℃を下回ることもあり、心拍数や呼吸数は平常時の1/10ほどに。

見た目は眠っているようですが、完全に意識を失っているわけではなく、外の刺激に反応して再び目覚めることもあります。室内で飼育されているハムスターでも、気温が低い部屋で飼育すると休眠するケースがあるため、注意が必要です。

飼育下での冬眠は、そのまま亡くなるケースも少なくないため、基本的に冬眠はさせないように、室温の低下には十分に気をつけて飼育しましょう。

ハムスターの体のなかで何が起こっている?

ハムスターの体内では、脂肪組織の働きが大きく変化します。白色脂肪が『蓄える脂肪』から『燃やして体温を保つ脂肪』へと性質を変え、短時間でも低温に耐えられるようになるのです。

さらに興味深いのは、ハムスターが周期的に目覚めと休眠を繰り返すこと。1〜2日ほど体温を下げて代謝を落とし、数時間だけ目を覚まして体をリセットしたのち、また眠りにつくというサイクルを冬のあいだ何度も繰り返します。

この短い覚醒のあいだに、脳や心臓の働きを整え、代謝物を処理していると考えられています。こうしたリズムは、脳の視床下部や体内時計、代謝を調整する遺伝子によって精密に制御されていることが近年の研究で明らかになっているのです。

変温動物の冬越し。メダカとカメが見せる適応力

水辺の生きものたちも、寒さの訪れとともに静かな時間を過ごします。メダカやカメなどの変温動物は外気や水温の影響を受けやすく、寒くなると自然と代謝が下がり、動きが鈍くなっていきます。

メダカはどう冬を越す?動かないけど生きている!

水温が10℃を下回る頃、メダカは水槽や池の底でほとんど動かなくなります。エサを食べることも少なく、呼吸や消化の働きもゆっくりになります。それでも完全に眠っているわけではなく、外の光や水の流れにわずかに反応しています。

自然環境では群れで底に集まりながら春の暖かさを待ち、体内では代謝を大幅に抑えて『エネルギーを使わない生き方』を選んでいます。飼育下でも水深を確保して氷点下を避ければ自然に冬を越せますが、急激な温度変化や酸素不足は命に関わるため注意が必要です。

カメの冬越しは、生きるリズムも冬仕様に

ニホンイシガメやクサガメなども、11月頃になると活動を止め、冬眠ならぬ『冬越し』の準備に入ります。自然下では池や川の泥のなか、落ち葉の下などに潜り込み、外気の寒さから身を守ります。

呼吸はほとんどせず、皮ふや肛門から少しずつ酸素を取り入れるという驚くほど効率的な方法です。ただし、飼育下の幼体や病気のカメは低温に耐えられないため、室内で加温飼育する必要があります。

水が凍結しないようにし、酸素を十分に供給することがポイントです。寒さのなかで静かに息をひそめる姿は、一見活動していないように見えても、自然のリズムに合わせて体のペースを調整しています。

冬眠・冬越しから学ぶ、自然のサバイバル戦略

冬眠や冬越しは、動物たちが長い時間をかけて磨き上げてきた、生きるための戦略。寒さや飢えを避けるために動きを止めているそのときも、環境に合わせて生きるための知恵が凝縮されています。

自然のリズムに耳を傾け、立ち止まる時間を持つことが、結果的に前へ進む力になるのかもしれません。春の訪れとともに再び動き出す動物たちのように、私たちもそれぞれのペースでリズムを整えながら、次の季節を迎えていきたいですね。

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ゆかりーぬ

ゆかりーぬ

レオパとニシアフを飼っている爬虫類好きライター。実家ではチワワ2匹と生活していた。
動物や神社仏閣などニッチなジャンルの記事執筆から、インタビューや飲食店取材も行う。好奇心くすぐる記事をお届けします。

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