- ヌートリアは特定外来生物で、西日本を中心に住み着いている
- カピバラとよく似ているが、見分けるポイントは尻尾
- ヌートリアを見つけても近づかず、触らない!
- 夜行性で家族単位の社会的な暮らしをする

最近、西日本の水辺で見かけることが増えているヌートリア。丸い体とつぶらな瞳がかわいらしく、一見するとカピバラのようにも見えます。しかし実は、南米原産の特定外来生物として日本に定着している動物です。
その見た目の愛らしさからSNSで話題になる一方、農作物への被害や生態系への影響も懸念されています。この記事では、ヌートリアとカピバラの見分け方や見つけたときの正しい対応、そして意外と知られていないヌートリアの生態について紹介します。
ヌートリアって何者?カピバラと見た目がそっくり

ヌートリアは、ネズミの仲間に分類される動物です。原産は南アメリカで、1930年代に毛皮用として日本へ輸入されました。戦後の混乱期に野外へ放たれ、現在は岡山県・広島県・滋賀県・兵庫県など、西日本を中心に定着しています。
体長は40〜60cm、体重は5〜9kgほど。尻尾が長いのが特徴です。ヌートリアの寿命はおよそ6〜10年とされ、環境への適応力が高いことでも知られています。半水生で泳ぐことが得意で、草や農作物を食べます。
とくに岡山・滋賀・兵庫などの地域では、農作物を食べたり、水辺の土手を掘ったりする被害が多く報告されており、県ごとに防除対策が進められています。一方で、寒さに弱いため、関東以北ではほとんど野生個体が確認されていません。
日本では、こうした被害の拡大を受けて特定外来生物に指定されました。かわいらしい見た目でSNSなどでも話題になりますが、捕獲や飼育は法律で禁止されています。
見つけたらどうする?ヌートリア発見時の対処ガイド

ヌートリアを見かけたとき、つい「近づいて写真を撮りたい!」と思う人もいるかもしれません。ですが、彼らはあくまで野生動物。
かわいらしい見た目に反して臆病で、ちょっとした人の気配でもすぐに水へ飛び込みます。見つけたときは慌てず、安全な距離を保って観察・記録することが大切です。
まずは観察と記録!近づかずに確認を
ヌートリアはとても臆病な性格で、人が近づくと水に逃げ込んでしまいます。追いかけたり、無理に写真を撮ろうとしたりすると、強いストレスを与えたり、思わぬケガを負わせてしまうこともあります。
また、小さなお子さんと一緒にいる場合は、とくに距離を保つように気をつけて、静かにその場を離れましょう。観察したい場合は、双眼鏡やカメラのズーム機能を使うのがおすすめです。野生の姿を『そっと見守る』くらいの気持ちがちょうどいい距離感です。
通報・相談は自治体に。個人での捕獲はNG
ヌートリアを個人的に捕まえたり、駆除したりするのは法律で禁止されています。見つけたときは、無闇に手を出さずに、まずは自治体へ連絡しましょう。市町村の『環境課』や『農林課』が窓口になることが多く、担当部署が確認や対応をしてくれます。
地域によっては、環境省の報告アプリから簡単に情報を送ることも可能です。写真を添えて報告すれば、位置情報をもとに調査や防除が進められます。駆除作業は専門機関が行うため、一般の人は発見情報を伝えるだけで十分です。
農作物への被害が出ている地域では、住民と自治体が協力してモニタリングを行うケースも増えています。
かわいいと思っても触らない・近づかない
ヌートリアは見た目が愛らしいため、つい『触ってみたい』『エサをあげたい』と思う人もいますが、非常に危険です。ヌートリアは野生動物であり、感染症や寄生虫を媒介する可能性があります。体や尻尾に寄生虫が付いていることもあるため、直接ふれるのは絶対に避けましょう。
また、SNSに写真を投稿する際も注意が必要です。位置情報をつけたまま投稿すると、人が集まりすぎてトラブルになったり、ヌートリアが不必要に追われる原因にもなります。投稿するなら位置情報を消し、観察の記録としてシェアするようにしましょう。
知っておくと面白い!ヌートリアの生態と日本での歩み

ヌートリアは、見た目のかわいさだけでなく、その暮らしぶりにも多くの魅力が隠れています。夜行性でありながら家族との絆が強く、環境への順応力も非常に高い動物です。
日本へ渡って約90年。気候や環境の変化に合わせて生き抜いてきたその知恵は、人と自然の共存を考えるヒントにもなります。
夜行性で意外と社交的?ヌートリアの暮らし
ヌートリアは主に夕方から夜にかけて活動します。昼間は岸辺の巣穴や草むらで休み、外敵の少ない夜にエサを探します。一匹で行動することもありますが、水辺には複数の巣穴を持ち、家族単位で生活することが多いのが特徴です。
鳴き声は「キュッ」「グルル」と高く、親子や仲間とのコミュニケーションに使われます。泳ぐだけでなく地上でも軽快に歩き、地面には後ろ足の水かき跡が残るため、足跡での判別も可能です。
ほかの個体と程よい距離を保ちながら共に暮らす社会性の高さは、日本で定着した理由のひとつと考えられています。
子育て上手で、成長スピードも早い
ヌートリアの妊娠期間は約4ヶ月。1回の出産で3〜5匹ほどの子を産みます。生まれた子どもはすぐに泳げるようになり、わずか生後2ヶ月ほどで独立行動を始めるといわれています。
興味深いのは、オスも子育てに関わる点。巣穴の見張りや外敵への警戒を行う姿が観察されており、意外にも家族思いな一面を持っています。研究によると、親子間では鳴き声を使った『呼びかけ』が確認されており、コミュニケーション能力の高さがうかがえます。
驚きの順応力!日本の気候にもすっかり慣れた
ヌートリアは、もともと温暖な南米出身ですが、冬でも活動を続けられる強さを持っています。雪の少ない地域では通年で繁殖でき、エサが減る冬場は木の根や水草を食べて生き延びます。また、巣穴を掘る際には土の質を見極め、崩れにくい場所を選ぶという報告も。
人の生活圏にも柔軟に適応し『人が近くにいる環境でも繁殖成功率が高い』という研究データもあります。近年では都市近郊や公園の池などで見かけることも増えており、その順応力の高さに驚かされます。
「カピバラかも?」のとき!見分けポイント早見表

水辺で丸い茶色の動物を見かけたとき「カピバラ?」と思う人も多いはず。実はそれ、ヌートリアの可能性が高いんです。
見た目がよく似ている両者ですが、尻尾の有無や顔つき、行動の違いを知れば見分けは意外と簡単。写真を撮るときやSNSで見かけたときに役立つ識別ポイントを紹介します。
| 見分けポイント | ヌートリア | カピバラ |
| 尾 | 細くて長い(30cm前後) | ほぼ見えない |
| 体型 | やや小柄でずんぐり | 大きく丸みがある |
| 顔立ち | 鼻が尖り気味 | 鼻が丸く、おっとり |
| 体長 | 約40〜60cm | 約100〜130cm |
| 歯 | オレンジ色が濃い | やや淡いオレンジ色 |
カピバラはぬいぐるみのような丸顔で、ヌートリアはネズミに近い顔つきをしています。尻尾が見えるかどうかが、最も分かりやすい判断材料です。
暮らし方で見分ける!出会う場所と行動の違い
まず注目したいのは、出会う場所と行動パターンです。カピバラはもともと南米の動物で、日本では主に動物園や保護施設で飼育されています。
野生のカピバラが日本で見られることはありません。一方のヌートリアは、田んぼや用水路、小川など、人里近くの水辺に住みついています。
生息場所
ヌートリア:田んぼ・用水路・小川などの自然水辺
カピバラ:動物園・展示施設・保護施設(野生は南米のみ)
行動パターン
ヌートリア:単独〜小規模な家族単位で生活
カピバラ:10匹以上の群れで、のんびり日向ぼっこ
泳ぎ方
ヌートリア:水中をすばやく移動し、尾を使ってバランスを取る
カピバラ:水面に浮かびながら、ゆったりと泳ぐ
もし複数の個体が集まって日向ぼっこをしているようなら、それはカピバラの可能性が高いでしょう。逆に、単独で動き回っている水辺の動物なら、ヌートリアである可能性がぐっと上がります。
写真で判断するときのポイント
SNSやニュースなどで「野生のカピバラを見た!」という投稿を見かけることがありますが、実際にはヌートリアのケースが少なくありません。
写真から判断する際は、次の3つのポイントをチェックしてみましょう。これらを意識して観察すると、写真や映像でもかなりの確率で見分けがつきます。
尾が見えるかどうか
カピバラにはほとんど尾がありませんが、ヌートリアは30cmほどの長い尾があります。写真に尾が写っていれば、ヌートリアの可能性が高いです。
周囲の環境を見る
背景が田んぼや河川ならヌートリア、温泉や動物園の展示エリアならカピバラ。生息地の違いで見分けやすくなります。
大きさを比較する
草や人、建物などと一緒に写っている写真では、大きさの違いも判断材料になります。ヌートリアは体長40〜60cmほどとコンパクト。カピバラは1m以上あり、ずっしりとした印象です。
ヌートリアを見つけても不用意に触らない

ヌートリアは、かわいく見えても特定外来生物に指定されている動物です。『危険』『駆除対象』としてだけでなく、生態や日本に定着した背景を知ることで、より深い理解につながります。
野生で見かけても「近づかず・触らず・記録だけ」が基本です。通報や報告を行い、対応は自治体などの専門機関に任せましょう。正しい知識を持つことが、自分自身と自然を守ることにつながります。
「カピバラみたい!」と感じたその瞬間が、生きものへの理解を深める入口になるかもしれません。ヌートリアを通じて、人と自然のつながりを見つめ直すきっかけになれば幸いです。




