- ムササビは日本固有の哺乳類
- 『飛ぶ』のではなく、飛膜を使って『滑空』する
- モモンガとは体格・顔つきに違いがある

森のなかを滑空するムササビは、日本に生息するユニークな野生動物です。かわいらしい見た目から注目されがちですが、その暮らしぶりや体の仕組みには、森林で生き抜くための工夫が詰まっています。
ムササビの生態や滑空の仕組み、よく似た動物『モモンガ』との違いをわかりやすく解説。野生動物としての向き合い方にもふれながら、ムササビの奥深い魅力を紹介します。
ムササビはどんな動物?空を飛ぶ仕組みとは

ムササビは、日本の森林に生息するリスの仲間で、夜の森を滑空する姿が特徴的な哺乳類です。体長はおよそ25〜40cm、尾の長さも同程度あり、日本に生息する滑空性哺乳類のなかでは最大級の体格です。
日本の固有種で、本州や四国・九州の広い地域に分布し、主に森林をすみかとしています。地上に降りることは少なく、生活のほとんどを樹上で過ごすため、移動手段として発達したのが『滑空』です。
鳥のように羽ばたいて『飛ぶ』のではなく、高い場所から低い場所へ向かって滑るように移動します。この滑空を可能にしているのが、前肢と後肢の間に張られた『飛膜(ひまく)』と呼ばれる皮ふの膜。
飛膜を大きく広げて空気を受け止めることで、方向を調整しながら安定した滑空ができます。滑空の目的は、効率的な移動や天敵から身を守るための回避行動など、さまざまです。調査によっては、50〜100m以上の距離を一度に滑空した例も報告されています。
どんなふうに暮らしている?食性と巣の秘密

ムササビは夜に活動し、日中は巣穴で眠る完全な夜行性です。エサや子育ての方法にも特徴があり、森林生態系と深く関わっています。そんなムササビの暮らしぶりを具体的に紹介します。
葉・芽・果実…ムササビの食べ物と季節変化
ムササビは主に植物を食べる哺乳類で、葉や樹皮・果実・花芽などを季節に応じて食べ分けています。春は、若葉や新芽・花芽といった柔らかい植物が中心です。夏は、青葉に加えて果実も多く食べます。
秋になると、エネルギー効率の高いドングリをはじめとした堅果類や果実、樹皮を食べます。冬は、食資源が限られるため樹皮や冬芽への依存が高まるのです。ムササビは一年を通して森の植物資源を幅広く活用します。
木の穴が家になる!ムササビの巣づくりの秘密
ムササビは、古木にある樹洞(じゅどう)をすみかとしています。自然の樹洞が少ない場所では巣箱を利用することも。樹洞は外敵から身を守りやすく、内部の温度が安定しているため、休息や子育てに適した環境です。
巣のなかには落ち葉や樹皮、苔などを集めて敷き詰め、保温性の高い寝床をつくります。繁殖は年に1〜2回で、春と秋にピークを迎え、1回で1〜2匹の子を出産します。こうした巣の使い方や子育ての様子は、巣箱の調査によって少しずつ明らかになってきました。
ムササビとモモンガの違いって?サイズや顔つきの比較

よく似た動物としてあげられるモモンガですが、実はムササビとは体格や体色も大きく異なります。見分けるポイントを押さえておくと、生態観察がより楽しくなります。
ムササビの方が大きい!サイズや体格の違い
ムササビは体長25〜40cm、体重は700g前後と、滑空性哺乳類の中でも大柄な体格をしています。一方、モモンガは体長14〜20cmほど、体重も150g前後と小型で、全体的に軽やかな印象です。
ムササビは体格がしっかりしており、筋肉量も多いのが特徴。体格は、滑空にも影響し、ムササビは遠くまで安定して滑空します。それに対してモモンガは、体の軽さを武器に樹上を素早く移動したり、短い距離を小刻みに滑空したりするのが得意です。
ムササビの顔はリスに近い?顔つきや毛色の違い
見た目の違いでわかりやすいのが、顔つきと体色です。ムササビは丸みのある顔立ちで、全体的にリスに近い印象を受けます。体色は茶色から赤褐色で、尻尾がふさふさで長く、体と同じ色合いです。落ち着いた茶色で森の大木に溶け込む色をしています。
一方のモモンガは、黒目がちで大きな目が特徴的で、可愛らしい印象が強い動物。体色は灰色から薄茶色で、腹側は白く、全体的に明るくコントラストのはっきりした見た目をしています。
地域で呼び分けられる。ムササビとモモンガの種類

ムササビやモモンガは、見た目が似ているだけでなく、地域や分布によって異なる呼び方や種類があります。ムササビとモモンガそれぞれの種類について、日本での呼び分けや特徴を整理して紹介します。
ムササビ|ニッコウ・ワカヤマ・キュウシュウの3タイプ
ムササビは学術的には、一つの種として扱われていますが、地域差や見た目の特徴に着目し『ニッコウムササビ』『ワカヤマムササビ』『キュウシュウムササビ』と呼び分けられることがあります。
ニッコウムササビは本州中部から関東北部にかけて、ワカヤマムササビは紀伊半島周辺、キュウシュウムササビは九州に分布する個体群を指す名称です。
体色や毛並み、顔つきにわずかな違いが見られることから、地域名で呼ばれることもありますが、同じムササビとしてまとめて扱われています。
モモンガ|ニホンモモンガとエゾモモンガ

日本に生息するモモンガは『ニホンモモンガ』と『エゾモモンガ』の2種類に分けられます。ニホンモモンガは本州と四国に分布し、小柄で黒目がちの顔立ちが特徴。一方、エゾモモンガは北海道に生息し、寒冷な環境に適応したやや大きめの体つきをしています。
どちらも滑空能力を持つ夜行性の哺乳類ですが、生息地や体格の違いから、それぞれ異なる特徴があります。
ムササビは飼えない!値段や法律の中身

ムササビは見た目のかわいらしさから「飼いたい!」と思われがちですが、日本では野生動物として法律で保護されています。ムササビが飼育できない理由や関係する法律、ムササビに近い見た目を持つ動物についても紹介します。
飼育禁止の理由とは?

ムササビは鳥獣保護管理法(鳥獣保護法)の保護対象となっている野生動物です。この法律により、許可なく捕獲することは禁止されており、同様に飼うことや売買・譲渡・輸送も認められていません。
環境省のレッドリストには掲載されていないものの、都道府県レベルでは準絶滅危惧種として扱われている地域もあり、保全の観点からも飼育は認められていません。
たとえ保護目的であっても、個人が勝手に飼育することはできない仕組みです。こうした規制の背景には、ムササビの生息環境が減少していることや、森林生態系の中で果実や種子を利用する役割を担っている点があります。
また、夜行性でストレスに弱く、樹洞に近い環境を再現しなければならないなど、飼育そのものが難しい動物でもあります。
国内ではムササビの売買不可!仲間を紹介

ムササビは国内での売買が禁止されているため、市場に流通しておらず、値段という概念自体が存在しません。
一方で、ムササビに似た見た目の動物として知られているのがフクロモモンガです。フクロモモンガは、ムササビとは分類が異なる有袋類。国内でも飼育は合法で、ペットショップでも流通しており、価格は2〜5万円前後が一般的です。
また、滑空はしないものの、体型が似ている動物としてリスやシマリスなどのリス類もあげられます。国内で飼育可能な場合がありますが、野生個体数が減少している種もあり、入手や飼育には注意が必要でしょう。
野生で観察するには?森で出会うためのポイント

ムササビは完全な夜行性で、しかも樹上を中心に行動するため、野生で姿を見るのは簡単ではありません。しかし、行動の特徴や環境を知っておくことで、観察できる可能性は高まります。
まず意識したいのが観察する時間帯。ムササビは日没後に活動を始めることが多く、夕方から夜にかけてが観察のチャンスとされています。
場所選びも重要です。太く成長した広葉樹が多い森林や、古木に樹洞が残るエリアは、ムササビが暮らしやすい環境です。木と木の間に適度な距離と高低差がある場所では、滑空する姿が見られることもあります。
また、樹皮をかじった跡や、樹洞のまわりに落ち葉がたまっているなどの痕跡があれば、その周辺に生息している可能性があります。
観察の際は、強いライトやフラッシュの使用は避け、できるだけ静かに待つことが大切です。ムササビは音や光に敏感なため、驚かせてしまうと姿を見せなくなってしまいます。距離を保ち、自然のなかでそっと見守る姿勢が、野生動物観察の基本といえるでしょう。
かわいいだけじゃない。ムササビという野生動物の奥深さ

ムササビは、愛らしい見た目だけでなく、広い飛膜を使って森を滑空する高い運動能力や、日本最大級の滑空性哺乳類としての体格など、多くの魅力を持つ動物です。
季節ごとに食べ物を変え、樹洞を利用して子育てをするなど、その生態は森林環境と密接につながっています。また、モモンガとの違いを知ることで、体の大きさや行動、顔つきといった特徴にも目が向き、観察の楽しさは一層広がります。
ムササビは法律で守られた野生動物であり、人の都合で近づきすぎてよい存在ではありません。適切な距離を保ち、そっと見守ることが、この奥深い生きものと共存するために大切な姿勢といえるでしょう。




