- ハムスターの多頭飼育崩壊は一般の飼主が起こすことが多い
- ハムスターを保護したら、まず食べやすいものを食べさせる
- ハムスターは2〜3日食べられないと命に関わることも
- 自分のハムスターが迷子になった際の対策を頭に入れておく
ハムスターという小さな生き物を保護して7年になるハムメディア。活動してきた7年の間にはいろいろなハムスター保護の現場があったのだそうです。
ハムスター保護の現実と、万が一自分のハムスターが迷子になってしまったときの対策について、ハムメディア代表理事のナシオさんに解説してもらいました。
◆取材・監修:一般社団法人ハムメディア
犬・猫の保護団体の行う譲渡会や運営のサポートを経験。縁あってハムスターをお迎えしたことをきっかけに、ハムスターの魅力に目覚める。行き場を失ったハムスターの味方になるべく、2017年にハムメディアを発足。ハムスターの保護・譲渡活動や、飼育情報の発信をおこなう。
ケースによって対応はさまざま!ハムスター保護の現場
ハムスターの保護とは、どのように行われているのでしょうか?
お話を聞くと、想像しても思いつけないようなケースもあることがわかりました。ハムスター保護の現場について、ナシオさんに解説してもらいました。
一般の飼主が多頭飼育崩壊を引き起こすケースも多い
多頭飼育崩壊と聞くと、犬や猫の場合はブリーダーを想像します。しかしハムスターの場合、ごく普通の一般の飼主も多頭飼育崩壊を起こすリスクがあるのだとナシオさんは話します。どのようにして多頭飼育崩壊は起こるのでしょうか?
ハムスターの場合、ちょっとしたことが繁殖につながりやすいという点を忘れないでほしいです。
オスとメスの2匹を一緒にすると、20日くらいで赤ちゃんが生まれます。多ければ1回に8匹くらい生まれるので、それだけでパニックになってしまう飼主も多いと思います。
驚くほど早く生まれて、数も多いことに改めてびっくりです。まさに『ネズミ算』なんですね……。
普段は個別にケージに入れて飼育していても、部屋んぽ(※1)させた少しのスキに……なんてことも。メスは4日に1回発情期が来るので油断は禁物です。
2023年には世田谷の同じ公園で3回もハムスターの遺棄事案がありました。人に飼われているハムスターは外では生きていけません。遺棄は殺すことと同義なんです。
※1:ハムスターをケージから出して部屋の中で遊ばせる(お散歩させる)こと
世田谷の事案では、ハムメディアさんで8匹のハムスターを保護したそうです。そのほかにも愛好家が4匹を保護、それ以外にも保護してくれた人がいるのではないかとナシオさんは話します。
3回の遺棄事案はすべてゴールデンハムスターだったこともあり、同じ人が遺棄したのではないかとナシオさんは危惧します。
飼えなくなってしまった個人からの依頼も
ハムメディアの発足から7年が経過し、ハムスターの引き取りを依頼されるケースも増えてきたのだそうです。
ハムスターの移動リスクを考慮し、基本的に東京からの近隣県を対象にしていますが、九州などの遠方からの保護依頼が来ることもあります。その場合は引き取りは難しいので、SNSで里親探しの協力をしています。
遠方での里親探しが難航した場合の最終手段としては、東京駅まで連れてきていただければ、引き取りも可能です。
九州から!インターネットで検索するとエリア関係なく、ハムメディアさんが検索結果に出てきますよね。すべてに対応するのは大変ですね……。
それでも相談してもらえれば何らかの手を打つことができます。何もせずに遺棄されてしまうのが一番怖いので、相談してもらえたら方法を考えるようにしています。
遺棄は命を奪う行為ですから、それだけは何としても避けたいんです。
警察や近年では弁護士からの依頼も増えている
ハムメディアにくるハムスター保護の依頼の中には、警察や弁護士からの依頼もあるのだそうです。「弁護士?なんで弁護士からハムスター?」と思ってしまいますが、弁護士からの依頼の実情について聞きました。
警察から連絡がくる場合は、外にいるハムスターを保護した人が警察に通報して、拾得物として警察に預けられるケースですね。警察には預かり施設がないため、ハムメディアに連絡が来るんです。
最近増えているのは弁護士から依頼が来るケースですね。
弁護士?それはどんなケースなのでしょうか?
飼主がなんらかの事情で、警察に拘留されたケースです。
ハムスターは2〜3日食べられないと、体にガスがたまって体調が悪くなってしまうと動物病院で聞いたことがあります。寿命も3年くらいの生き物なので、飼主がそういう状態になった場合に弁護士から連絡がきます。
いわれてみればたしかにその通り!ですが、それは想像がつきませんでした。寒さや暑さにも弱い生き物ですし、数日放置されたら命に関わってしまいますよね。
そんなハムスターの行き先を心配してくれる弁護士さんもいるんですね。ちょっと心が暖かくなりました。
SNSなどを通じて通報を受けてからの保護
世田谷の事案のように、外でハムスターを見かけたという人からの通報を受けて捕獲に乗り出すこともあるのだそう。そんなときのハムスター保護はどのように行なわれるのでしょうか。
ハムスターはすばしっこく、逃げるのがとても上手な生き物です。1人で1匹のハムスターを捕まえるのは難しいため、何人かで協力して捕獲します。
現地のハムスター愛好家さんと協力することや、虫取り網を使ったり、食べ物で釣ったりすることもあります。
ゴールデンハムスターはやや大型で体重およそ130g・体長およそ20cmですが、それ以外の種類だと体重30〜50g・体長10cmに満たない小さな生き物です。
ケガをさせないように、手の届かないような狭いところに逃げ込ませないように、細心の注意をしながら捕獲作業を行うのだとナシオさんは話してくれました。
ハムスターを保護したら、まず何が必要?
ハムスターの捕獲から関わることもあるというハムメディア。実際にハムスターを保護した際に、必ずすることがあるのだそうです。どんなところをチェックして、何をケアするのでしょうか。
警察への届出は大前提として、健康状態の確認と、まずは食べさせることから
ハムスターは数日食事が取れないと体調を崩してしまうのだとナシオさんは言います。
また、保護された季節にもよって対応は変わるため、保護した後の対応はきめ細やかに行うのだとか。どんな場合でも必ず行うのは『食べさせること』なのだそうです。
先程も述べたように、ハムスターは2〜3日食べられないと体にガスが溜まって危ない状態になると聞いています。症状が進んでしまうと助けられなくなってしまうため、保護したらまず、食べさせます。
ゼリーやミルク、ハチミツをお湯で溶いたものなど、栄養があって食べやすいものをあげるようにしています。
まず、食べさせることがとても重要なんですね!
ほかに気をつけていることはありますか?
次に気をつけるのは温度管理です。とくに冬の場合18℃を下回ると、擬似冬眠してしまいます。ハムスターの種類にもよりますが、擬似冬眠してしまうと、回復しないことが多いんです。
温度は20〜25℃、老齢の場合は23〜25℃に保って、冬眠させないことが大切です。
妊娠が発覚することも!?必ず病院を受診する
保護したらまずご飯を食べさせ、適温に温度を調整できたら、病院を受診して獣医師に健康状態のチェックをしてもらうのだとナシオさんは話してくれました。
病院を受診することで意外なことがわかることもあるのだそうで……。
保護したハムスターを病院に連れて行き、ケガはないか・脱水していないか・病気にかかっていないか・年齢はどれくらいかなどをチェックしてもらいます。
歯が折れていて、食べられるものが限られる場合なども確認します。
このとき、妊娠している場合もあるので診てもらいます。
なんと!保護したハムスターが妊娠していたなんてケースもあるんですか!?
ありますよ。
今まで保護してきた中で2〜3回あったと思います。
保護した翌日に出産、なんてこともありました(笑)
1匹保護したつもりが翌日には5匹に増えた、なんてことも冗談ではないんですね……。
知っておきたいハムスターが迷子になったときの対応策
今まで数十匹のハムスターを保護してきたハムメディアだからこそわかる、自分の飼っているハムスターが迷子になってしまったときに有効な対応策について、ナシオさんに聞きました。
今までに1度、警察からの連絡でハムメディアに来た子の飼主が見つかったケースがありました。
ハムスターを迷子にしてしまったら、警察のHPや迷子HPをチェックしてみると見つかることがあります。
迷子にしてしまった飼主向けのWebサイトもあるので、万が一のために覚えておくのはおすすめです。
ハムスターが迷子になってしまった飼主向けに、ハムメディアさんではビラ用のテンプレートを公式HPに掲載されてますよね?
周囲にビラを配るのは有効なんですよ。周辺の人から情報がもらえるケースもありますから。迷子探しのためのWebサイトに載せるのもいい方法だと思います。
ハムスターは放置すると数日で命に関わる状態になるので、できるだけ早く手が打てるように、迷子ハムスターのページを作っています。
使わないで済めばそれが一番ですが。
細かいところまで行き届いたハムスター愛には、本当に頭が下がります……。
↓こちらが迷子ハムスター用のビラのサンプルです。
小さな命を守るために、できる限りの手を尽くす
小さなハムスターの命を守るために、努力を惜しまないというハムメディアさんの取り組み姿勢には驚くばかりです。
一般のハムスターを飼育する家庭でも、多頭飼育崩壊が容易に起きてしまうという事実や、故意にハムスターを遺棄する人がいるということも、取材で知った衝撃の現実でした。
- 部屋んぽは必ず1匹ずつ行うこと
- オスとメスを同時にケージから出す時間を作らないこと
- 1匹1ケージにすること
この3つが、意図しない繁殖を避けるために重要だとナシオさんは話します。
飼主のほんの少しの油断が、新しい命を危険にさらすことにつながるかもしれません。自分の手で守れる範囲で動物の生活環境作りを徹底し、自分も動物も甘やかしすぎないことが、結果的に命を大切にすることにつながります。
かわいいだけでは終わらない、動物と一緒に生活するために必要な心構えについて、もう一度考えてみることも必要かもしれません。
以下の記事では、ハムメディア発足の背景や保護の実情を紹介しています。