【獣医師が語る】舌をチョロチョロするのはなぜ?知られざるヘビの生態

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まとめ
  • ヘビは手足・瞼・耳を持たない爬虫類
  • 世界中で4100種ほどだが新種が次々に発見されている
  • 舌をチョロチョロさせているのは臭いを嗅いでいるから
  • ヘビは世界的な獣医師のシンボルマークになっている

ヘビというと、怖い、不気味というイメージがある一方、脱皮の抜け殻がお守りにされたり、白ヘビを筆頭に縁起が良い動物だとされることもあります。

身近でありながら、謎も多いヘビ。今回は、普段からヘビの飼育や診療を行う筆者が「そうだったんだ!」と思ってもらえる内容をたくさん盛り込み、ヘビの分類や体の仕組み、不思議な生態について紹介します。

目次

ヘビの生物学的な分類と代表的なヘビの種類

ヘビが爬虫類だということを知っている人は多いでしょう。ここでは、さらにもう少し詳しい分類とヘビの種類について解説します。

爬虫類のなかで手足・瞼・耳が無い動物がヘビに分類される

ヘビの分類を生物学的に解説すると、脊椎動物門-爬虫綱-有鱗目(ゆうりんもく)となります。

有鱗目にはヘビの仲間とトカゲの仲間が属します。その他の爬虫綱(爬虫類)にはカメ目・ワニ目・ムカシトカゲ目があります。

 爬虫類全体の特徴として、鱗を持つことと、体内で熱を産生できない変温動物であることがあげられます。大部分が卵を産みますが、ヘビの中には幼体を産む種もいます。

 爬虫類のなかでも、ヘビとトカゲは同じ有隣目で、比較的近い動物だと考えられています。ただし、トカゲとは異なり、ヘビには手足・瞼・耳がありません

代表的なヘビの種類と特徴を紹介

ヘビは現在、世界中で4100種ほどが確認されていますが、新種が次々に発見されており、分類に関しても議論が続いています。

今回は、特によく知られているヘビを中心に、代表的なヘビの分類について解説します。

日本で一番身近なヘビが属するナミヘビ科

日本で最も身近なヘビであるアオダイショウやヤマカガシが属するのがナミヘビ科です。

ヘビ全体の半数~3分の2ほどを占めると言われており、ヘビの中で最大の科です。生息地は幅広く、南極大陸以外のすべての地域に分布します。

ナミヘビ科のヘビの特徴として、頭に大きなプレートのような鱗を持つことがあげられます。

毒を持つ種も多数いますが、ハブやコブラの仲間とは異なり、毒牙は口の奥の方にあるため『後牙類(こうがるい)』と呼ばれます。

頭が三角形の毒ヘビグループであるクサリヘビ科

日本の毒ヘビと言えば、マムシの仲間とハブの仲間です。これらが属する毒ヘビグループがクサリヘビ科です。

クサリヘビ科のヘビは頭が大きく三角形なので、毒ヘビは頭が三角形だと説明されることもあります。しかしクサリヘビ科以外にも毒ヘビはたくさんいるので、正しい解釈とは言えません。

マムシの仲間は、目と鼻の間に『ピット器官』という熱探索器官を持ち、獲物や敵を熱によって素早く察知できる能力を持っています。

日本にはいませんが、ガラガラヘビの仲間もクサリヘビ科に属します。

首の後ろのフードと毒が特徴のコブラ科

インドコブラやブラックマンバなど、最も恐れられているのがコブラの仲間です。コブラと言うと、首の後ろのフードを広げる姿が有名ですが、フードを広げるのは一部の種で、敵を威嚇するための動きです。

コブラ科にはコブラの仲間の他に、ウミヘビ亜科がいて、日本にはコブラ亜科、ウミヘビ亜科ともに少数ですが生息しています。

大蛇と言えばニシキヘビ科&ボア科

動物園などで見ることができるインパクトのある大きなヘビは、だいたいニシキヘビ科かボア科のヘビです。動きはゆっくりなことが多いですが、締めつける力は強靭です。

繁殖に特徴を持つものが多く、ボア科のヘビの多くは、卵ではなく幼体を産みます。

また、一般的にヘビは卵や幼体を産んだあと、母親はすぐにその場を離れますが、ニシキヘビの仲間の中には、卵を温め孵化した幼体を母親がとぐろの中に囲う「子育て」をすることが確認されている種もいます。

ヘビの中でも特にユニーク。ミミズのようなメクラヘビ科

メクラヘビ科のヘビは地中で生活する小型のヘビです。捕食者のイメージが強いヘビですが、これらのヘビはミミズのようにモグラなどに食べられてしまいます。

メクラヘビ科に属するブラーミニメクラヘビというヘビは、雄が目撃されたことがなく、単為生殖のみによって繁殖する唯一のヘビだと考えられています。

ヘビの不思議な生殖について解説しているこちらの記事も!

ヘビの感覚器官。目・鼻・舌・耳について

ヘビというと、瞬きをせず目を見開いたまま、舌をチョロチョロ出し入れしている姿が思い浮かびませんか?

ヘビは瞼を持たないため、瞬きができないのです。その代わり、アイキャップと呼ばれる透明な膜が目を保護しています。

視力に関しては不明な部分も多いですが、視力に頼っているヘビ、そうでないヘビなどさまざまです。昼間に活動するヘビは瞳孔が丸いことが多く、夜行性のへビは瞳孔が猫のようにスリット型のことが多いです。

ヘビの嗅覚は鋭敏です。なんと、鼻だけでなく、舌も使って臭いを取り込むのです。

ヘビは舌をチョロチョロさせて周囲の化学物質の分子を集め、口の中にある『ヤコブソン器官』で認識します。

ヘビが舌をチョロチョロしているのは、一生懸命周囲の臭いを嗅いでいるからです。

筆者は病気のヘビを診察することがありますが、ヘビは食欲や元気を失うと舌をチョロチョロさせなくなってしまいます。ちなみに、ヘビには耳がなく、音を聞くことはできません。

どうやって動いているの?ヘビの代表的な2つの動きを解説

ヘビとトカゲは近い種だとお伝えしましたが、四肢を持っているトカゲとは異なり、ヘビは手足のある爬虫類から分化して手足を退化させました。

手足の代わりに多数の脊椎と肋骨を持ち、全てを上下左右に動かすことができます。

骨に沿って筋肉も細かく配置され、鱗で少しの凹凸をグリップして、全身の骨と筋肉を自由に動かすことで移動します。

ヘビの動き方にはさまざまなものがありますが、ここでは代表的な動き2つを紹介します。

名前の通りヘビが進む動き【蛇行】

アオダイショウなどの身近なヘビが移動している時は、たいていこの『蛇行』を行っています。道の凹凸に、体の横の部分を左右かわるがわる押し付けてくねって進む動きです。木登りや泳ぐときも蛇行によって進みます。

縮んだり伸びたりして進む【アコーディオン運動】

全身を縮めたのちに、頭を伸ばして前方を固定します。その後、尾を引きつける動きを繰り返すのがアコーディオン運動です。この動きはあまりスピードが出ませんが、体の重い大蛇などが移動する際にみられます。

ヘビの不思議な生態3つ

ヘビには不思議がいっぱいです。ここでは筆者がヘビについて特に興味深いと感じる3つの生態を紹介します。

とぐろを巻く理由

干支にちなんでヘビの置物もたくさん見かけますが、たいていはとぐろを巻いています。ヘビはなぜとぐろを巻くのでしょうか。

とぐろは、ヘビにとってはリラックスできるうえ、敵からの防御や獲物の狩りに有利な姿勢です。とぐろの中心に頭を置けば、周囲にまんべんなく注意を払うことができます。

そのうえで、すぐに逃げたい、もしくは飛びかかりたい、どちらの場合も、地面に接した体を支えに頭を素早く動かすことができるのです。

ヘビの生殖。雌雄判別と交尾について

ほとんどのヘビの雌雄判別は、外観から行うことができません。体の大きさは少し違う種もいますが、体の色や形などに雌雄差を持たないヘビが多いからです。

雄は、ヘミペニスと呼ばれる二股の生殖器を持ちますが、交尾の時以外は体内に格納されています。雄の精子はこのヘミペニスの表面を伝って雌に送り込まれます。

 ヘビの精子の輸送には時間がかかるため、交尾も長時間に及びます。アオダイショウなどで数時間ほど、大蛇の中には24時間以上続く種もいます。

ひとつなぎにするりと脱ぎ捨てる脱皮について

ヘビと言えば、靴下を脱ぐようにひとつなぎの脱皮を行うのが特徴です。トカゲも脱皮を行いますが、ヘビとは異なり、バラバラだったり部位ごとに脱げるスタイルです。

脱皮は体の成長のために必要ですが、表皮の傷を治癒したり、老廃物の排出作用もあります。

多くのヘビは、脱皮の前に目が白くなり、体がくすみます。これは、脱皮のための体液が古い鱗と新しい鱗の間を流れるためです。

脱皮の周期は多くの種で1~2ヶ月に一度で、若いヘビほどたくさんの脱皮を繰り返します。

ヘビが獣医師のシンボルマーク?ヘビと獣医師の意外な関係

ヘビは、獣医師にとっては患者になることもある一方で、ペットの犬などを咬むなど加害者になる動物でもあります。

患者としてのヘビも診察が難しい動物ですが、ヘビによってなんらかのダメージを負った動物の治療も難しいものです。

それ以外にも、獣医師とヘビには深い関わりがあります。

動物病院の獣医師が着ている制服の胸などに、杖に巻き付いたヘビのマークを見かけたことはないですか?

これは世界的な獣医師のシンボルです。獣医師全員がこのシンボルを身に着けなければならない決まりはありませんが、このマークのある制服を着ている獣医師は少なくありません。

まだまだ奥深いヘビの世界。興味を持ったら是非ヘビを観察できる施設へ!

今回は、ヘビの分類や生態について紹介しました。嫌われ者になることも多いヘビですが、のんびり日向ぼっこをしている姿は見ていて微笑ましいものです。

舌をチョロチョロさせている姿も、一生懸命まわりの臭いを集めているのだと知れば、なんだかかわいく思えませんか?

この記事を通して、少しでもヘビに興味を持ってもらえたら、ぜひ動物園などに出かけてヘビを観察してみてください。

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動物園勤務の獣医師ライター。正しい情報発信を心がけています。家族は夫とクサガメで、我が家の合言葉は「亀ファースト」。

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