・小型犬は骨が細く、活発な性格や高所からの落下で骨折しやすい
・骨折時には、足を引きずる・腫れ・痛み・動かないなどの症状がある
・普段から定期的に健康診断を受け、骨の健康状態を把握しておく

近年、小型犬を飼育する家庭が増えています。小型犬は抱きやすく室内飼いにも適している一方、骨が細くデリケートで、骨折のリスクが比較的高い傾向があります。
もし愛犬が骨折してしまったら、飼主としてはできるだけ早く適切な処置を行い、回復へと導いてあげたいものです。
本記事では、小型犬の骨折の原因や見分け方・治療方法を中心に、骨折予防のポイントやリハビリ・アフターケアまでを詳しく解説します。飼主さん自身が基礎知識を身につけ、万が一に備えられるよう、ぜひ参考にしてください。
監修者

園田 開(そのだ かい)医師
日本橋動物病院の院長を務め、年間10,000匹以上の犬猫やその他の動物を診療している。動物病院での臨床経験は25年以上で、現在は皇居の警察犬担当獣医師としても活躍中。
小型犬が骨折しやすい理由

小型犬が骨折しやすいのは、主に以下のような要因が関係しています。
骨の細さと軽量な体重
小型犬は体格が小さいため、骨の太さも相対的に細くなりがちです。骨が細いということは、外部からの強い力や衝撃に対して抵抗力が弱いことを意味します。
さらに体重が軽いことで大きな負荷がかかりにくい反面、飛び降りなどで強い衝撃が加わると骨折に直結する可能性が高まります。
活発な性格
小型犬の中にはチワワやトイプードル・ポメラニアン・ヨークシャーテリアなど、好奇心旺盛で活発に動き回る犬種が少なくありません。
活発に動く中でジャンプや急な方向転換を繰り返すことが多く、骨や関節に常に負荷がかかるため、思わぬ拍子に骨折してしまうリスクが高まります。
遺伝的背景や生まれつきの骨の弱さ
犬種によっては遺伝的に関節が弱かったり、骨の発育過程に問題があったりする場合があります。特に小型犬は膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)やレッグ・ペルテス病など、後ろ足の障害が起きやすい傾向があります。
飼育環境や生活習慣
- フローリングなどの滑りやすい床で走り回る
- ソファやベッドなど高い場所から飛び降りる
- 人に抱っこされた状態から、犬が暴れるなどして落下する
このような日常の動作が、骨折に直結するケースもあります。
小型犬の飼主の多くは、室内飼いをメインとすることが多いでしょう。しかし、室内環境を整えないまま放置していると足腰に無理な負荷がかかりやすく、骨折リスクを高める一因となってしまうのです。
犬が骨折する主な原因

小型犬に限らず、犬が骨折を起こす原因は多岐にわたります。ここでは代表的な例をいくつかあげてみましょう。
転倒や落下による衝撃
ソファやベッドなどからの落下や、抱っこしているときに飼主の腕から誤って落としてしまうケースがよく見られます。小型犬は骨が細いため、わずかな高さでも骨折してしまう恐れがあるので注意が必要です。
交通事故
室内飼いが多くなっているとはいえ、外出中にリードが外れたり、突然飛び出してしまったりすると車やバイクと接触して骨折することがあります。交通事故は骨折だけでなく内臓損傷など命に関わる大ケガの原因にもなるため、外出時は特に注意が必要です。
他の動物とのトラブル
他の犬との喧嘩や、猫などの動物とのトラブルが原因で噛み合いやもみ合いとなり、骨折してしまう場合もあります。ドッグランや公園などで他の動物と交流させる際は、必ず目を離さないようにし、犬同士が上手に遊んでいるか観察することが大切です。
スポーツや運動での負荷
近年は犬と一緒に楽しむアジリティ競技や、フライボールなどのドッグスポーツが人気です。無理な運動や、不適切なトレーニングを行うと関節や骨への負担が増え、骨折リスクが高まる可能性があります。
特に子犬やシニア犬は骨や関節が未発達・衰弱している場合があり、慎重な運動管理が求められます。
老化や骨の病気
骨粗しょう症など骨の強度が低下していると、小さな衝撃でも骨折しやすくなります。
先天性・後天性の骨の疾患(骨軟化症・栄養不良による骨の脆弱化など)を抱えている場合もあります。また、重度の歯肉炎・歯槽の疾患がある場合には特に顎の骨折が起こりやすくなります。
骨折の種類と分類

骨折と一口に言っても、骨がどのように折れているのかによって分類が異なります。犬における代表的な骨折の種類を理解しておくと、症状の把握や獣医師とのコミュニケーションに役立つでしょう。
不完全骨折(ひび)
骨の一部にひびが入っている状態で、完全に骨が離れていないものを指します。軽度のものは歩行困難まではいかないケースもありますが、放置すると悪化する恐れがあります。
完全骨折
骨が完全に2つ以上に折れている状態です。横骨折・斜骨折・螺旋骨折などさまざまなパターンがあります。完全骨折の場合は強い痛みが伴い、歩行が困難になることがほとんどです。
粉砕骨折
骨が3つ以上に粉々に砕けている状態です。粉砕骨折は治療が難しく、手術による固定や長期のリハビリが必要となるケースが多いです。
開放骨折(複雑骨折)
骨が皮膚を突き破り外に飛び出している骨折で、細菌感染のリスクが非常に高く、早急な処置が求められます。痛みも強く、ショック状態に陥ることもあるため、一刻を争う対応が必要です。
関節内骨折
骨折が関節部分に及んでいる状態です。関節機能の低下につながりやすく、変形性関節症や関節炎など、二次的な疾患を引き起こすリスクも高いです。
犬が骨折したかどうかを見分けるポイント

小型犬は骨折しやすいものの、痛みを我慢したり、飼主に元気な様子を見せようと無理に動いたりすることもあります。次のような症状や行動が見られた場合は、骨折を疑いましょう。
足を引きずる・体重をかけたがらない
骨折した足に体重をかけることができず、足を浮かせて歩こうとする場合があります。歩き方が明らかに不自然だったり、片足を地面につけずに歩いたりしている場合は、要注意です。
患部にふれると痛がる
骨折している部位を触るとうなる、噛もうとする、悲鳴を上げるといった反応を示すことがあります。普段触っても大丈夫な部位にふれただけで強く痛がる場合は、骨折や捻挫などのケガが疑われます。
腫れや変形が見られる
骨折した部位が腫れている、熱を帯びている場合や、骨の変形が外からでも明らかに分かる場合は早急に動物病院を受診すべきです。特に変形がある場合は、骨折が深刻な状態にある可能性があります。
痛みから動かなくなる・食欲が落ちる
犬は痛みを感じると、防御反応で動かなくなることがあります。また、痛みやストレスが原因で食欲不振に陥ることもあるため、急に元気がなくなったり食欲が落ちたりする場合も、骨折を含むケガや病気の兆候を疑いましょう。
血がにじむ・出血がある
開放骨折の場合は皮膚が裂けて出血していることがあります。血が見られない場合でも、被毛に血が付着していたり、犬が傷口を頻繁に舐めていたりする場合は念のためチェックが必要です。
骨折してしまった犬の応急処置

愛犬が骨折した疑いがある場合、まずは飼主が落ち着いて行動することが大切です。以下のような応急処置を行い、できるだけ早く獣医師の診察を受けましょう。
動物病院で仮固定を施されると、手術の日まで安全に過ごすことができます。
犬を安静に保つ
走り回ったり暴れたりすると、骨折箇所への負担が大きくなり症状が悪化する可能性があります。まずは落ち着いた声をかけ、犬が動き回らないようそっと抱えて安全な場所へ移動させましょう。
無理に患部を触らない・固定しようとしない
専門的な知識や器具がない状態で患部を無理に固定すると、かえって傷口や骨の状態を悪化させてしまう恐れがあります。どうしても移動が必要な場合は、タオルや布で犬の体を包むようにして患部への負担を最小限に抑えましょう。
患部が血で汚れている場合は清潔に保つ
開放骨折などで傷口が見える場合は、感染症を防ぐために清潔なガーゼやタオルで軽く覆う程度に留めます。市販の消毒薬を直接かけると犬の痛みが増すことがあるため、応急処置としては出血を抑えつつ覆うだけにしましょう。
病院へ連絡し、受診の準備をする
骨折が疑われるときは、できるだけ早急に動物病院へ連れて行くことが最善です。休日や夜間などでかかりつけの病院が閉まっている場合は、夜間診療可能な病院や救急動物病院を探して電話連絡をし、指示を仰ぎましょう。
搬送時はキャリーケースに入れるか、車の座席にタオルやクッションを敷いて犬の身体を安定させた状態で、揺れや衝撃をできるだけ少なくしてあげることが重要です。
獣医師による検査と診断

動物病院へ到着したら、まずは獣医師が視診と触診を行い、骨折が疑われる部位をチェックします。その後、正確な部位や骨折の程度を特定するために以下のような検査が行われます。
レントゲン検査
レントゲン画像から骨の状態を確認します。骨折している部位が複数ある場合や、異なる角度から撮影する必要があるため、何枚か撮影することが一般的です。
CT検査・MRI検査
骨だけでなく軟部組織(筋肉・靭帯など)の損傷が疑われる場合や、レントゲン検査でははっきりと判断できないような複雑な骨折が疑われる場合に行われます。CTやMRIを利用することで、骨・関節・靭帯など周辺組織まで詳細に確認できます。
血液検査
手術を行う前に、犬の全身状態を把握するために行われることがあります。貧血・感染症リスク・肝臓や腎臓の機能などをチェックした上で、麻酔や手術に耐えられる体力があるかどうかを判断し、必要な内科的な治療を進めます。
その他の検査
年齢や既往症(きおうしょう)、遺伝的な疾患の有無などによっては、超音波検査(エコー)やホルモン検査など、さらに詳細な検査が必要となる場合もあります。
犬の骨折治療方法

犬の骨折治療は、骨折部位や骨折の種類、犬の年齢や全身状態などによって大きく異なりますが、多くの場合に手術が必要です。主な治療方法を以下にまとめました。
保存療法(ギプス・副木など)
骨折の程度が軽い場合や、不完全骨折の場合に選択される治療方法です。ギプスや副木(スプリント)を装着して骨を固定し、自然治癒力を引き出しつつ治療を進めます。
- メリット: 手術を伴わないため、犬の体への負担が比較的少ない。治療費も手術に比べると抑えられる。
- デメリット: 固定期間が長引くと筋肉が衰えやすく、リハビリが必要になる。また、誤った固定や管理不足で骨がずれたり、変形して治癒したりするリスクがある。
手術療法(整復手術)
完全骨折・粉砕骨折・開放骨折など重度の骨折の場合は、手術による整復と固定が必要となります。骨折した部分を正しい位置に戻し、金属プレートやネジ・ワイヤー・ピンなどを使って固定するのが一般的です。
- メリット: 骨を正しい位置で固定しやすいため、変形治癒やズレのリスクが低い。比較的早期にリハビリを始められることもある。
- デメリット: 手術の負担や麻酔リスク、術後の管理や通院が必要。骨折箇所にプレートやピンなどの異物が入るため、感染症や金属アレルギーなどの可能性もある。
外固定装置(エクスターナル・フィクサー)
骨の外側に金属フレームを取り付けて固定する方法で、皮膚を貫通してピンを骨に刺し、フレームと連結させます。開放骨折や粉砕骨折など、患部が大きく損傷しているケースでも対応可能です。
- メリット: 皮膚や筋肉が大きく損傷していても治療を継続しやすい。内部固定よりもピン抜去が容易な場合が多い。
- デメリット: フレームが外部にあるため、日常生活での取り扱いが難しい。ピン周囲の皮膚や筋肉が炎症を起こしやすいので、こまめな清潔ケアが必須。
機能的ギプス(キャスト)
関節を一定の可動域で動かせるギプスで、完全固定ではなくある程度動かせるように作られています。骨折箇所やリハビリ計画に応じて選択されることがあります。
- メリット: 骨折部位を安定させつつ可動域を確保できるため、筋肉の萎縮や関節の拘縮(こうしゅく)をある程度防げる。
- デメリット: 装着が難しく、専門的な知識と技術が必要。骨が完全に元のように戻らないことがあります。歩いたり、走ったりには影響ありませんが、やや曲がって治ることがあります。
治療後のリハビリとアフターケア

骨折治療は、固定や手術で終わりではありません。固定や手術の後には、リハビリをはじめとするアフターケアがとても重要です。
安静期間の管理
骨がしっかりとくっつくまでの間は、獣医師から指定された安静期間を守る必要があります。散歩や激しい運動は避け、必要に応じてケージレスト(ケージの中で安静に過ごす)を実施することがあります。
犬が退屈しないよう、おもちゃやコミュニケーション方法を工夫しつつも、決して無理はさせないようにしましょう。
獣医師の指示に基づいたリハビリ
手術後や固定が外れた後は、リハビリテーションを通じて筋力と関節可動域を回復させる必要があります。プールでの水中歩行や、軽いマッサージ、ストレッチなど、犬の状態に合わせて獣医師の指示を仰ぎながら実施します。
自己流のリハビリは逆効果になる恐れもあるため、プロのアドバイスを受けましょう。
食事管理と体重コントロール
骨折の回復期は運動量が減るため、体重管理が重要です。体重が増えすぎると、患部への負担が大きくなり回復を妨げる可能性があります。
獣医師の指導のもと、カロリーや栄養バランスを考慮した適切な食事管理を行いましょう。
定期的な通院・検査
固定期間中や治療後も、定期的なレントゲン検査などで骨の癒合状態を確認することが欠かせません。通院を怠ると骨がズレたり変形したり、感染症が見逃されたりする恐れがあります。
必ず獣医師の指示どおりに通院し、適切なタイミングで検査・処置を受けましょう。
痛みや炎症のケア
骨折後、患部の痛みや炎症が持続する場合は、獣医師から鎮痛剤や消炎剤が処方されることもあります。処方薬は指示通りに投与し、勝手に中断や変更をしないことが大切です。
痛みが和らぐことで犬が動きやすくなり、結果的にリハビリの効果を高められる場合もあります。
骨折を防ぐための日常ケアと注意点

小型犬の骨折は、日頃のちょっとした配慮や環境整備によって大きく防ぐことができます。大切な愛犬を骨折のリスクから守るために、以下のポイントを押さえておきましょう。
室内環境の整備
フローリングなどの滑りやすい床にはマットやカーペットを敷く。ソファやベッドなどの高い場所から飛び降りるのを防ぐためにステップを設置する。
狭い隙間や段差が多い場所は犬が歩きにくいので、極力バリアフリーにする。
適度な運動と筋力維持
運動不足で筋肉が衰えると、骨や関節への負担が増え、骨折しやすくなります。適度な散歩や軽い遊びを取り入れ、体力と筋力を維持しましょう。
ただし無理な運動は禁物で、犬の体調や年齢に応じた運動量を意識することが重要です。
食事と栄養バランス
骨の健康にはカルシウム・リン・ビタミンDなどの栄養素が欠かせません。ただし、カルシウムとリンのバランスを崩すと逆に骨の成長や強度に悪影響を及ぼすこともあります。
ドッグフードや手作り食を与える際には、獣医師のアドバイスを受けながら栄養バランスを整えましょう。
体重管理
小型犬は体が小さい分、少しの体重増加が骨や関節に大きな負担をかけます。肥満は骨折だけでなく、心臓病や糖尿病などのリスクを高める原因にもなるため、日頃から体重をしっかり管理し、適正体重を維持しましょう。
無理なジャンプや段差の昇降を控える
小型犬は運動量が少なくても日常生活の中で意外とジャンプを繰り返します。段差がある場所や興奮しているときなど、犬に無理な動作をさせないよう飼主が注意深く見守ることが大切です。
多頭飼いの場合の注意
他の犬や動物との遊び・トラブルが原因で骨折するケースも少なくありません。多頭飼いの場合は、犬同士の相性を見極めて適切に対処し、激しい喧嘩や過度なじゃれ合いを防ぎましょう。
早期発見・早期治療が重要
小型犬は体格が小さい分、骨が細くデリケートで、骨折のリスクが相対的に高いことを理解しておくことが大切です。骨折の原因としては、高い場所からの落下や交通事故、他の動物とのトラブルなどさまざまなものがあります。
また、骨折はその種類や重症度によって治療方法が異なり、早期発見・早期治療が重要です。
- 骨折の見分け方としては、足をかばうように歩いている、患部にふれると痛がる、腫れや変形があるなどのサインに着目しましょう。
- 応急処置では、まずは犬を安静に保ち、無理に固定しようとせずにすぐに獣医師へ連絡します。
- 治療には保存療法(ギプス・副木など)や手術、外固定装置などがあり、獣医師が骨折の状態に応じて選択します。術後や固定除去後のリハビリテーションやアフターケアも欠かせません。
- 日常的な環境整備や体重管理、適度な運動などを心がけることで、骨折のリスクを大きく下げることができます。
万が一、愛犬が骨折してしまった場合は、飼主が落ち着いて適切な応急処置を行い、できるだけ早く獣医師の診察を受けるようにしましょう。
早く動物病院で仮固定をすることで、それ以上の痛みを防げたり、組織のダメージを最小限にしたりすることができます。
また、普段から定期的に健康診断を受け、骨の健康状態を把握しておくと、いざというときに早期対処がしやすくなります。愛犬の健康と安全を第一に考え、予防と早期発見・早期治療に努めてあげましょう。