
「うちの子、最近引っ掻きキズが増えた?」
「お腹がハゲてるかも…これって病気?」
そんな愛猫の変化に不安になる人もいるかもしれません。その症状、実は「猫のアレルギー」の可能性があります。
猫のアレルギーについては、研究されてはいるもののわかっていないことが多く、ヒトのアレルギー研究より60年以上、犬のアレルギー研究よりも30年以上遅れていると言われているのだそうです。
今回はそんな猫のアレルギーについて、動物病院を開業する獣医師、園田先生に解説してもらいました。
つい見逃しがちな猫のアレルギー。愛猫の健康のために、知識を深めていきましょう。
◆取材・監修:日本橋動物病院
監修者

園田 開(そのだ かい)先生
日本橋動物病院の院長を務め、年間10,000匹以上の犬猫やその他の動物を診療している。動物病院での臨床経験は25年以上で、現在は皇居の警察犬担当獣医師としても活躍中。
猫のアレルギーの原因にはまだ謎が多い

猫のアレルギーは、まだ原因がわからないものが多く、なかなか完治が難しいのだと園田先生は話します。

意外かもしれませんが、猫のアレルギーを証明する研究結果はまだありません。
それでも猫のアレルギーについての研究は進められていて、その研究結果は、いろいろな角度から検証されています。
まだまだ結論は出ませんが、猫のアレルギーには、ヒトとも犬とも違う点がありそうです。
謎の多い猫のアレルギーとはどのような症状で、どのような対応が必要なのでしょうか。
皮膚炎を起こしやすいノミアレルギー
猫のアレルギーの中でも代表的なのがノミアレルギーだそうです。ノミは吸血しなければ卵が産めないため、猫の血を吸います。その際に猫の体が唾液に反応して、腰やお腹などに皮膚炎を引き起こすのだそうです。
ノミのアレルギーに対する対策はどのように行うのでしょうか。



獣医師は痒がっている猫にノミを見つけたら、ノミアレルギーを第一に考えます。治療にはノミの駆除と、皮膚炎の症状を和らげる薬が必要です。
雌ノミは、24〜48時間以内に卵を産み始めます。ノミの産卵数は、1日あたり平均で27個。ノミが2週間寄生すると、その間に400個前後の卵を産みます。



2週間で1匹が400個もの卵を産むんですか!放置したら増え続けてしまうということですね。



ノミの卵は、孵化して幼虫・サナギを経て成虫になりますが、卵やサナギに効く薬はありません。継続的に成虫を駆虫したり、予防したりしながら、卵やサナギは掃除機を使って除去する必要があります。
卵は部屋に落ち、そのまま孵るとまた猫の体につくことがあるため、部屋の掃除は重要です。
ノミに気づいたらすぐ病院を受診し、部屋の掃除を徹底する必要がありそうです。
アレルゲンの特定に時間のかかる食物アレルギー
猫にもヒトや犬と同じように、食物アレルギーが見られると園田先生は話します。食物アレルギーの場合、原因となる食品の特定が難しいことも、食物アレルギーがなかなか完治させられない大きな要因なのだそうです。



猫の食物アレルギーを疑う場合、アレルギーの原因になる食品を特定するには、付加試験(※1)を1〜2週間と除去食試験(※2)を1ヶ月という期間をかけて調べる必要があります。
これを原因と思われる食品の数だけ繰り返す必要があるため、食品の特定には時間がかかるのです。



1つの食品におよそ1.5ヶ月が必要ということですね?



そうです。
食品アレルギーの場合、1食品だけにアレルギーがあるというより、何種類かの食品に反応するケースが多いんです。
必ず試験をした食品に反応するというわけではないので、結果的に反応の出なかったものにも同じように試験をするため、可能性のある食品すべての試験をするにはとても時間がかかります。
※1:原因と思われるものを食べさせる試験
※2:原因と思われるものを食べさせない試験
ハウスダスト・花粉など、住環境の中にあるもののアレルギー


ハウスダスト・花粉などのアレルギーは、犬にはよくあるアレルギーです。しかし猫の場合は犬に比べて数も少なく、症状も軽いのだと園田先生は言います。



猫は基本的に犬よりもよくグルーミングをする動物です。
猫の花粉症やハウスダストに関する研究データは今の所ないため、はっきりした理由は分かりませんが、グルーミングの影響でアレルゲンとなる物質が皮膚に付着する確率が犬よりも低いためではないかと考えられます。
喘息など呼吸器にも症状が出る猫アトピー症候群
猫アトピー症候群(以下FAS)は2021年に見直され、定義された猫のアレルギー疾患なのだとか。主な症状は猫アトピー皮膚症候群・猫喘息・食物アレルギーです。
FASとはどのような症状なのか聞きました。



皮膚に症状が出る場合には、皮膚の赤みやかゆみが症状としてあらわれます。猫喘息は頻繁に咳をしたり、苦しがるという症状が見られます。
レントゲンを撮るとすぐにわかるので、猫が咳をしていたらレントゲンを撮ってもらうことをおすすめします。



食物アレルギーの場合はどうでしょうか?



FASの食物アレルギーの場合は胃腸に症状が出ることが多く、腸炎や下痢・軟便などの症状があらわれます。
FASの場合、皮膚・呼吸器・消化器の3つの症状がすべて出ることは少ないです。皮膚に出ることが一番多く、次に消化器に症状が出るケースが多いですね。
FASはステロイドに反応するため、ステロイド系の薬を使うと症状は軽減できるそうです。
蚊に刺されたら『かゆい』だけでは済まない蚊過敏症
蚊に刺されると、人もかゆくてついつい掻いてしまいますよね。猫が蚊に刺されると過剰に反応してしまうアレルギー症状がみられることもあるのだとか。
それはどんな症状なのでしょうか。



蚊に刺されなければならないので、数は少ないアレルギーです。
耳に出ることが多く、耳の後ろにブツブツと粟粒状の皮膚炎ができます。鼻や肉球にできることもあります。
かゆみのために自分で引っ掻いてしまい、血が出たり腫れたりするので、病院で薬をもらうことをおすすめします。
これは蚊に刺されなければ発症しないアレルギーです。蚊対策をしっかりすることで防げるでしょう。
猫のアレルギーに見られる症状は?


猫は犬に比べてなかなか病院に来ないのだと園田先生は言います。また野生の性質が色濃く残る猫は、体調不良をギリギリまで隠す動物なのだとか。
猫の体調不良に飼主がいち早く気づいて、病院を受診することが重要です。また健康診断などで普段から病院を受診する習慣をつけておくのがおすすめです。
たかがアレルギーと侮らず、普段から愛猫の体調に気を配り、症状に気をつけることを忘れないようにしましょう。
アレルギーの具体的な症状には以下のようなものがあります。
- 頭などを血が出るまでかいてしまう
- 皮膚が赤くなる・毛が抜けてしまう
- 口に潰瘍ができる・腫れる
- 体にしこりができる
それぞれの症状について解説してもらいました。このような症状に気づいたら、動物病院を受診して適切な治療を行いましょう。
症状1.頭などを血が出るまでかいてしまう
猫のツメは鋭く、引っ掻くとすぐに皮膚を切り裂いてキズを作ってしまいます。早ければ5〜10分で裂けてしまうことも。
早く気づいてあげないと、あっという間に血がにじむようなキズになってしまうため、猫がかゆがっている様子には早めに気づいて病院を受診するようにしましょう。



猫の皮膚は犬とは違い、引っ掻いた部分が疥癬化(皮膚が厚くなり、硬くなってしまう)することはまずありません。
柔らかい皮膚を引っ掻いてしまうと、すぐ血がにじむようなキズになってしまいます。早めの対処をおすすめします。
猫もかゆい部分をなめたりかじったりという行動をとりますが、グルーミングを習性とする猫の場合、なめているからかゆいとは限らないのが見分けの難しいところですね。
自分で判断できない場合は、電話や受診で獣医師に相談できると安心です。
症状2.皮膚が赤くなる・毛が抜けてしまう


猫の抜け毛や皮膚の赤みはアレルギーに多い症状です。症状に気づいたら病院を受診してほしいと園田先生は言います。



猫が頻繁に体をなめたり掻いたりしているうちに毛が抜けてしまい、皮膚が赤くなってしまったり、ツルツルになることがあります。
血液検査をすることでアレルギーの原因がわかる場合があるので、病院で調べてみてください。重要なのは調べることではなく、対処することなので、検査で満足せず、治療することが大切です。
検査を受けただけで満足してしまう飼主が少なくないと園田先生は危惧します。アレルギーの治療には時間がかかることがあり、途中で諦めてしまう飼主もいるそうです。
アレルギーの原因を特定するには時間がかかることもありますが、アレルギーを放置すると、愛猫に我慢を強いることを覚えておきましょう。
症状3.口に潰瘍ができる・腫れる
アレルギーが原因で、口の周りが腫れて潰瘍ができることがあります。一見痛そうであったり、かゆそうであったりといった見た目をしていますが、痛みやかゆみはなく、無痛性潰瘍といわれています。



口の周りに潰瘍ができるのはアレルギーの症状としてはとても一般的な症状です。物理的な刺激でも症状が出ることもありますし、エサに入っているタンパク質が合わないということもあります。
アレルギー以外で口の周りに潰瘍ができる場合は、ウイルス性の疾患を疑うことがあります。
痛みがないからと放置してしまうと、皮膚がえぐれて出血することもある疾患なので、症状に気づいたら受診するようにしましょう。
症状4.体にしこりができる
アレルギーが原因で体にしこりができる(浸潤性局面)ことがあるそうです。アレルギーでしこりというとあまり思いつかない症状のように思いますが、実際に診察している現場ではどのように対応しているのでしょうか。



あまり多い症状ではないですが、下腹部に低く盛り上がるような、コリっとしたしこりがいくつもできることがあります。赤くなって硬いものがポコポコとできます。
しこりの場合はアレルギー以外の疾患の可能性もあり、腫瘍も疑われるため、見つけたら必ず受診するようにしてください。
アレルギーと間違われやすい病気


症状はアレルギーと似ていても、実は別の病気だったという可能性もあります。症状だけでは間違いやすい病気について、解説してもらいました。
皮膚糸状菌症は人にも感染する可能性がある
フケ・脱毛・発疹などの症状は、皮膚糸状菌症という病気の可能性があります。人の場合は水虫などの症状が出るカビの感染症です。猫にとっての皮膚糸状菌症とは、どのような病気なのでしょうか。



皮膚糸状菌症はステロイドに反応しないという特徴があります。
猫がこの感染症にかかると、人にも感染する可能性がある人獣共通感染症のため、早めの治療が必要です。
皮膚が赤くなってフケが出ていたら、動物病院を受診してください。
ただのアレルギーだと思っていたら、人が水虫をもらってしまう可能性もあると聞くと、すぐに治療する必要性を感じますね。
膀胱結石や便秘でもグルーミングをし続ける可能性あり
下腹部を頻繁になめているのは、皮膚の問題だけではなく、膀胱炎の可能性も考えられるのだとか。お腹に違和感を感じるため、執拗にお腹をなめてしまうそうです。



いつもよりもしつこくお腹をなめているようなら受診を検討していいと思います。
頻尿・血尿・排尿時に鳴くなどの症状がある場合はすぐに病院を受診してください。
皮膚の赤み・脱毛を見つけたら、動物病院を受診しよう


愛猫がいつも以上に体をなめる・掻く様子が続いたら、病院を受診する必要があるかもしれません。アレルギーは放置して治るものではありません。
適切な治療を受けることで、完治することもありますし、症状の改善は望めます。場合によっては生涯薬が必要になることもありますが、愛猫が快適に過ごすための必要経費だと考えましょう。
治らないと決めつけて治療を放棄してしまうのではなく、かかりつけの病院で獣医師と相談しながら、対策を考えていきましょう。