猫の慢性腎臓病(腎不全)とは?早期発見とケアが鍵になる理由

記事をシェア

まとめ
  • 猫の慢性腎臓病は進行性で、7歳以上のシニア猫に多い病気
  • 多飲多尿食欲不振・体重減少・嘔吐・脱水などの症状が現れる
  • 少しでも異変を感じたらすぐに動物病院に相談する

猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)は、シニア期の猫に多く見られる代表的な病気の一つです。腎臓の機能が徐々に低下していき、体内の老廃物が排出されにくくなることで、さまざまな症状や合併症を引き起こします。

飼主としては「腎臓病になると、どのくらい生きられるのか?」「どのように症状を見極めればいいのか?」と不安になることも多いでしょう。

本記事では、猫の慢性腎臓病の原因や症状・余命・治療法、そして末期症状に至るまでを詳細に解説します。愛猫との時間を少しでも長く、快適に過ごすために、ぜひ参考にしてください。

◆取材・監修:日本橋動物病院

監修者

園田 開(そのだ かい)先生

日本橋動物病院の院長を務め、年間10,000匹以上の犬猫やその他の動物を診療している。動物病院での臨床経験は25年以上で、現在は皇居の警察犬担当獣医師としても活躍中。

目次

猫の腎臓が担う大切な役割

腎臓は、体内の老廃物を尿として排出する機能を持っています。猫の体内では、食べ物から摂取したタンパク質の代謝過程で生じる尿素やクレアチニンなどの老廃物が常に作られています。

腎臓はこれらの老廃物をろ過し、必要な水分やミネラルは再吸収して体内の環境を一定に保つ、いわば「フィルター」のような役割を果たしています。

  • 老廃物の排出
  • 水分・電解質のバランス調整
  • 血圧の調節
  • ホルモン(エリスロポエチン)の産生(造血促進)

こうした重要な機能を担う腎臓がダメージを受け、機能が低下してしまうと、体内に有害物質が蓄積して全身へ悪影響を及ぼします。

猫の慢性腎臓病とは?—急性と慢性の違い

腎不全には大きく分けて「急性」と「慢性」があります

  • 急性腎不全: 急激に腎機能が低下し、数日から数週間の短期間で症状が現れる。感染症・中毒・事故など特定の原因により急速に悪化するため、適切な治療を行えば機能の一部が回復するケースもある。
  • 慢性腎不全(慢性腎臓病): 数ヶ月から数年かけて徐々に腎臓の機能が低下していく病態。中~高齢の猫に多くみられ、完治が難しいとされる。早期発見・早期治療により進行を遅らせ、症状を緩和することは可能。

本記事で取り上げるのは、回復が難しく、進行性である「慢性腎臓病」です。慢性腎臓病になった猫の4頭に1頭は14歳以上というデータもあり、シニア猫が特に注意すべき病気といえます。

猫の腎臓病の原因・リスク要因

猫の慢性腎臓病は、明確な原因を特定しにくいのが特徴で、主に以下のような複数の要因が重なり合って発症すると考えられています。

また、腎臓の組織は一度損傷すると完全に元の状態には戻らないため、急性腎臓病が慢性へと進行したり、回復に時間がかかることで腎機能の改善が難しくなり、最終的に慢性腎臓病へ移行することもあります。

10歳以上の猫によく見られる【加齢】

シニア期(7歳以上)になると、腎臓のろ過能力が徐々に低下していきます。特に10歳以上から発症率が高まります。

一部の純血種に見られる【遺伝的要因・先天性疾患

一部の純血種(例:メインクーン・アビシニアン・ペルシャ)では多発性嚢胞腎など遺伝的に腎臓が弱い傾向があります。

腎臓を酷使する【食事や水分摂取の不足

猫はもともと水をあまり飲まない動物であり、脱水状態が続くと腎臓に負担がかかります。さらにタンパク質や塩分の過剰摂取は腎臓のろ過機能を酷使してしまう可能性があるため、毎日の生活の中で気をつけることが必要です。

日常生活の中にも危険が潜む【感染症や中毒

感染症(歯周病菌の血行性感染など)や中毒物質(ユリ中毒・エチレングリコールなど)により腎組織が傷つくケースもあります。

疾患や投薬によってもダメージを受ける【複合要因】

腎臓に負担をかける疾患(高血圧・甲状腺機能亢進症など)や心疾患、長期的な薬剤投与でも腎機能が低下することがあります。

こうした要因が長期的・複合的に重なった結果、慢性的に腎臓がダメージを受け、徐々に機能が損なわれていくのです。

猫の慢性腎臓病の主な症状

猫が腎臓が悪いとどんな症状が出る? これは多くの飼主が気になるところだと思います。腎臓病の症状は初期段階では気付きにくく、症状が目立ってきた頃にはすでに腎機能が相当低下していることが多いです。

以下のような変化を見逃さないようにしましょう。

水を飲む量が増え始めたら要注意【多飲多尿

腎臓がろ過機能を十分に発揮できず、水分の再吸収が不十分になるため、尿量が増えて喉が渇きやすくなることがあります。

食べ過ぎも食べな過ぎも心配【食欲不振・体重減少

体内に老廃物が蓄積し、食欲が落ちることで徐々に体重が減っていったり、食べている割に体重が増えないことも。自宅でも定期的に体重測定をすることをおすすめします。

被毛の艶や毛玉などを見逃さない【コンディションの悪化

腎機能低下により栄養状態や体内環境が悪化し、被毛の艶がなくなる、毛玉ができやすくなるなど見た目にも表れる場合があります。

悪循環を招く恐れがあるため早めの対処を【嘔吐・下痢

老廃物の蓄積や電解質バランスの乱れにより、嘔吐や下痢が断続的に起こるケースがあります。

普段と違う臭いが気になったら【口臭(尿臭)や口内炎

血中に増えた尿素が唾液中にも含まれるようになり、アンモニア臭のような口臭が発生しやすくなります。口内炎を併発するケースも少なくありません。

皮膚や粘膜の乾燥が見られたら【脱水・便秘傾向

十分に水分を体内に保持できなくなるため、脱水症状や便秘を起こしやすいです。

なんか元気がないかも?【無気力・ぐったり

エネルギー代謝が低下し、愛猫がなんとなく元気がないと感じることが増えるかもしれません。こうした症状や貧血・浮腫などが複数見られる場合は、早めに動物病院で検査を受けましょう

猫は腎臓病になると何年生きられる?—ステージと余命の目安

「猫が腎臓病になると、どのくらい生きられますか?」という質問は多いですが、実際にはステージや個体差によって大きく異なります

国際腎臓学会(IRIS)が示す腎臓病のステージ分類(クレアチニン値やSDMA値など)を基準にすると、以下のようなおおまかな目安があります。

ステージ1(初期)

  • 血液検査で軽度の数値異常が認められる程度
  • 臨床症状がほとんど出ないケースも多い
  • 適切な治療と食事管理を行えば、数年~それ以上の延命が可能

ステージ2(中期)

  • 尿の異常・軽度の多飲多尿・食欲不振などが出始めることも
  • 適切な治療や生活管理によって、年単位での延命が期待できる

ステージ3(後期)

  • 食欲不振や嘔吐・体重減少など症状がはっきりしてくる
  • ここでいかに症状管理とQOL(生活の質)を保てるかが重要
  • 治療の効果や体力、合併症の有無により、数ヶ月~数年と個体差が大きい

ステージ4(末期・QOLの維持を第一に考える段階)

  • 重度の臨床症状(激しい嘔吐や脱水・昏睡など)
  • 腎機能の大半を失っており、余命が短い傾向
  • 集中的な治療を行っても数ヶ月~数週間程度の場合も

以上はあくまで目安ですが、早期発見・早期治療によって、愛猫の寿命と生活の質を大きく変えられるのは確かです。

猫の腎臓病は回復するのか?—治療と管理のポイント

「猫の慢性腎臓病は回復しますか?」という問いに対して、残念ながら「腎臓の失われた機能を完全に元に戻すことは難しい」といえます。

しかし、治療と管理次第で進行を遅らせたり、症状を大幅に改善したりすることは可能です。

治療・管理の主なポイント

  1. 食事療法(腎臓病療法食)
    • たんぱく質やリン・ナトリウムの制限、高カロリーで高品質のタンパク質をバランスよく含む療法食が推奨されます。
    • 食べてくれない場合は、複数のメーカーから出ている腎臓サポート食を試してみるか、獣医師に相談しましょう。
  2. 十分な水分摂取
    • ウェットフードや流動食の活用、給水器の複数設置などで水分摂取量を増やす。
    • 皮下補液(飼主が自宅で定期的に点滴を行う方法)が有効な場合もあります。
  3. 内科的治療(薬物療法)
    • 高血圧をコントロールする降圧剤・リン結合剤・胃粘膜保護剤など、症状に応じた薬を処方されることがあります。
    • 嘔吐が激しい場合は制吐剤、食欲増進剤などを併用するケースも
  4. 定期的な血液検査・尿検査
    • 腎臓の状態や合併症(貧血や電解質バランス異常など)を継続的にモニタリング
    • 異常が出たら早期に治療計画を見直すことが重要です。
  5. ストレスの軽減
    • 生活環境の見直し(静かで暖かい場所・トイレの清潔さ・居場所の確保など)
    • 他のペットとの関係や、病院への通院ストレスへの配慮

これらを総合的に実施しながら、なるべく腎機能の低下を遅らせ、症状を抑えつつ快適に生活できるようサポートしていきます。

猫が腎臓病で亡くなる前の状態とは?—終末期に見られる症状

腎機能が極端に低下し、ステージ4(末期・QOLの維持を第一に考える段階)に至ると、次第に生命維持が難しくなってきます。以下のような状態が見られた場合は、終末期に近づいているサインかもしれません。

  1. 重度の食欲不振・拒食
    • ほとんど食べなくなり、水すら飲まない状態が続く
    • チューブ給餌や点滴による栄養補給が必要になる場合も多い
  2. 激しい嘔吐・下痢・口内炎の悪化
    • 体内に老廃物が蓄積していることで、内臓や粘膜への負担が深刻化
    • 口腔内に潰瘍ができる、出血を伴うこともある
  3. 尿量の減少から無尿へ
    • 腎臓のろ過機能が失われるため、尿がほとんど出なくなる(無尿)
    • 体内に毒素や余分な水分が蓄積して、むくみや倦怠感・呼吸困難を引き起こすことも
  4. 神経症状(痙攣・昏睡状態)
    • 電解質の大幅な乱れや、尿毒症による中枢神経への悪影響で、痙攣や昏睡といった症状が現れる
  5. 動けなくなる・意識の混濁
    • 大きな苦痛からうめき声をあげたり、逆に反応が乏しくなったり、ほとんど動かなくなったりする

多くの猫は1の状態から5の状態で亡くなり、2・3・4はケースによって見られる状態です。

特に、24時間水を飲まないでいると、脱水症状が起こります。この脱水症状は、わかりにくいものです。水を飲んでいる様子がなければ、点滴で脱水の補正を行います。

終末期の症状が出始めると、獣医師と相談の上で「どこまで延命治療を行うのか」「ターミナルケア(緩和ケア)に切り替えるか」などの選択を迫られる場合があります。愛猫の苦痛を最小限にすることを最優先に考え、最期を穏やかに迎えられるようにしてあげましょう。

慢性腎臓病の早期発見が重要な理由—定期検査のすすめ

腎臓病は『サイレントキラー』とも呼ばれるほど、初期症状がほとんど目立ちません。だからこそ、飼主が意識して定期的に検査を受けることが大切です。

  • 尿検査: 尿比重の低下やタンパク質の排泄異常(蛋白尿)が初期発見の目安になる
  • 血液検査: BUN(尿素窒素)やクレアチニン・SDMAといった腎機能指標が上昇していないかを確認
  • 超音波検査: 腎臓の形態的な変化や結石の有無をチェック

シニア期(7歳以上)の猫は、最低でも年1~2回の健康診断を受けることを推奨されています。また、もともと尿路結石や腎臓に関わる病気の既往歴がある場合は、検査頻度を増やすなど早期発見に努めましょう。

猫の腎臓病を防ぐ・遅らせるための日常ケア

猫の慢性腎臓病を完全に防ぐのは難しいですが、日常生活でのちょっとした工夫が発症リスクの軽減や進行の遅延につながります。

  1. 水分摂取の促進
    • 複数の給水器・給水皿を設置し、いつでも新鮮な水を飲める環境を作る
    • 流水を好む猫には循環式の給水器が効果的
    • ウェットフードやスープタイプの猫用フードを取り入れる(切り替えが難しい場合には、無理のないようにしてあげる)
  2. 適切な食事管理
    • 塩分やリンが高すぎる食事は避ける
    • 小まめにウェットフードを与えてタンパク質・ミネラルバランスを調整
    • 肥満や低体重にも要注意。獣医師と相談の上、適切なカロリーと栄養バランスを維持
    • 年齢別のキャットフードがあれば、できるだけ年齢にあったものを選ぶ
  3. 運動・ストレスケア
    • 適度に遊んでストレスを発散させ、代謝を活性化
    • 安心して過ごせる静かな環境や、隠れ家になるようなスペースを用意
  4. 定期的な健康チェック
    • 日々の排尿・排便の状態(色や回数・量)を把握する
    • 定期健康診断(血液検査・尿検査)を継続的に受ける
  5. 歯と口腔内ケア
    • 歯周病菌が血流を介して腎臓に影響を及ぼすケースがある
    • 歯磨きやデンタルケアグッズを活用し、口内環境を清潔に保つ

定期的な健康診断と毎日の観察が愛猫の命を守る

猫の慢性腎臓病は、初期にはほとんど症状が見られないまま進行し、気づいたときにはかなり腎機能が低下しているケースが多い病気です。

体重減少は病気のサインであることが多いので、シニアの猫は定期的に自宅でも体重を測ることをおすすめします。そのため、日頃の観察と定期検査が愛猫の命を救う重要なポイントとなります。

愛猫との幸せな時間を少しでも長く続けるために、腎臓病についての正しい知識を持ち、早め早めの対策を心がけましょう。

もしも食欲不振・多飲多尿・体重減少など、少しでも異変を感じたら、自己判断せずすぐに動物病院で相談することが大切です。

tierzine編集部のアバター

tierzine編集部

tierzine編集部

動物についての知識を深め、もっともっと動物を好きになる。
人と動物たちの幸せを一緒に考えていける、そんな記事を発信しています!

関連記事

Tier

動物ファンが集う動画
SNSアプリ Tier (ティア)

目次