日本にジュゴンはいる?絶滅危惧種の生態に“会える”水族館

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まとめ
  • 日本にもジュゴンは生息しているが、極めて少数で絶滅の危機にある
  • 『海の草食系』哺乳類で、人魚伝説のモデルにもなった温厚な生き物
  • 日本でジュゴンに会える水族館は三重県・鳥羽水族館だけ

昔の船乗りたちが『人魚』と見間違えた――
そんな伝説を持つジュゴンは、温厚な性格とつぶらな瞳が魅力の海棲哺乳類です。

アジアやオーストラリアの一部に生息しているイメージが強いかもしれませんが、実は日本の海にもジュゴンが暮らしていた時代があり、現在もごくまれにその姿が確認されています。

そして、日本で唯一ジュゴンに会える水族館が三重県に存在することを知っていますか?この記事では、ジュゴンの生態や現状、そして『会える場所』について詳しく紹介します。

目次

日本にジュゴンはいる?現在の生息状況と絶滅危惧の背景

実は、日本の海にもかつてジュゴンが生息していました。古くは沖縄を含む南西諸島で目撃例があり「海のなかに牛のような動物がいた」といった伝承も各地に残されています。

現在ではほとんど姿を見かけることがなくなりましたが、沖縄本島周辺の海では、今もなおごくわずかに野生のジュゴンが確認されています。こうした事例から、日本は『世界のジュゴンの北限生息地』とされ、研究者たちによる保護活動も続けられています。

かつては奄美諸島以南に広く分布

ジュゴンは、かつて奄美諸島から沖縄本島・八重山諸島にかけての南西諸島沿岸域に広く分布していました。明治から昭和初期にかけて、地元漁師による目撃情報や捕獲記録が複数残されており、その存在は地域の暮らしとも密接に関わっていたことがうかがえます。

とくに沖縄ではジュゴンの肉を保存食や、まじないとして用いる民間信仰もあり、人々にとって身近な存在でした。しかし、戦後の開発や沿岸環境の変化により、ジュゴンの姿が急速に見られなくなっていったのです。

絶滅危惧種に指定された理由とは

ジュゴンが絶滅の危機に瀕している大きな理由は、主に3つあります。ひとつは漁網への誤っての混獲。浅瀬で海草を食べるジュゴンは、刺し網や定置網にかかってしまうリスクが高く、過去には死亡例も報告されています。

次に、食料となる海草藻場の減少です。沿岸開発や埋め立てにより、ジュゴンが暮らす環境そのものが失われつつあります。

そして三つ目は、個体数の少なさと繁殖の難しさ。妊娠期間が1年2〜3ヶ月と長く、一度に1頭しか出産しないこと。3〜8年に1度しか出産しないこともあり、急速な個体数回復が見込めません。

こうした背景から、ジュゴンは環境省と水産庁のレッドリストで『絶滅危惧IA類』に分類され、国内外で保護の対象となっています。

2025年に久米島で生きたジュゴンの撮影に成功

2025年4月、沖縄県・久米島近海でジュゴンとみられる生物が水中で撮影されました。

発見したのは、ダイビング中のインストラクターとダイバーたち。目撃時の様子を写真に収めた参加者によると、体長は2メートルを超えており、水深約5メートルの岩場をゆったりと泳いでいたといいます。

専門家による確認では、この個体は同年3月に台湾・宜蘭県で定置網にかかり放流されたジュゴンと、傷の位置などが一致しており、同一個体である可能性が高いとされます。台湾から久米島までは約540kmにも及び、これは国内では極めて珍しい長距離移動の記録です。

今回の発見は、沖縄周辺に今もジュゴンが生息していること、そして調査・保全活動のさらなる必要性を示す貴重な証拠となりました。

ジュゴンの生態と特徴。『海の草食系』哺乳類の暮らし

ジュゴンは海に棲む哺乳類のなかでも、ちょっとユニークな存在です。イルカやクジラと同じく水中生活に適応していますが、彼らとは異なり、ジュゴンは完全な草食性。浅瀬に広がる海草を主食としています。

見た目はずんぐりとした体に丸い顔、尾びれは三日月型でイルカに似た形。その優しげな風貌と穏やかな性格が、多くの人の心を惹きつけます。ここでは、ジュゴンの身体的な特徴や意外な一面を紹介します。

ジュゴンってどんな動物?

ジュゴンは体長約3メートル、体重300〜400キロにもなる大型の海棲哺乳類です。その体は灰褐色で、イルカやクジラに似た流線型のフォルムをしていますが、最大の特徴は尾びれの形

イルカが横に広がった扇型であるのに対し、ジュゴンは縦に割れた半月型で、泳ぎ方も独特です。ジュゴンは哺乳類なので、肺で呼吸し、赤ちゃんは胎生で生まれます。

子育ての際には海中で母乳を与え、その様子が人間の授乳姿に似ていることから、人魚伝説のモデルになったとも言われています。性格はとてもおとなしく、攻撃的な姿はほとんど見せません。

食べる量はなんと1日30kg!海草をもりもり食べる草食動物

ジュゴンは完全な草食性で、浅瀬に生える海草(アマモやウミヒルモなど)を主食としています。1日に必要とする食事量はなんと約30kgにも及び、広い海草藻場がなければ生きていけません

その食べ方もユニークで、口の下部にある硬い唇で海底の海草をはぎ取るようにして食べます。このため、ジュゴンが食事をしたあとは『トレンチ』と呼ばれる浅い溝が海底に残り、その溝が生息確認の手がかりになることも。

食べる量が多い分、活動範囲も広く、効率よく食べられる海草藻場が失われると、生存自体が難しくなってしまいます。ジュゴンにとって海草は命の源であり、その保全が生息地の維持につながるのです。

日本でジュゴンに会える唯一の水族館が三重県に!

「野生のジュゴンを見てみたい」と思っても、その姿を海で確認するのは至難の業。

しかし、実は日本国内で唯一、ジュゴンに会える水族館が存在します。それが、三重県にある鳥羽水族館です。

飼育されているのは『セレナ』という名のジュゴン

鳥羽水族館では、1頭のジュゴン『セレナ』が暮らしています。『人魚の海』ゾーンにある大きな水槽で、ゆったり泳ぐその姿を誰でも間近に見られます。

セレナは1987年、フィリピン沖で網にかかって保護された後、国際協力の一環として日本へやってきました。当時はまだ子どもでしたが、それから30年以上にわたり、鳥羽水族館で大切に育てられてきました。

毎日たっぷりの海草とレタスを食べる、のんびり屋で人懐っこい性格が人気を集めています。セレナは世界で最も長く飼育されているジュゴンとして、長期飼育の世界記録を更新中です。

なぜ日本で唯一?その希少さと飼育の難しさ

ジュゴンは世界中の水族館でもほとんど飼育されておらず、現在その姿を見られるのは日本の鳥羽水族館とオーストラリアのSEA LIFEシドニー水族館の2ヶ所のみといわれています。

その理由のひとつが、飼育に非常に手間がかかること。たとえば、1日に約30kgもの海草を必要とするため、餌の確保だけでも大きな負担となります。

また、ジュゴンは繊細な生きものでもあり、水質・水温・騒音などの環境変化に弱く、ストレスがかかると健康に影響が出やすいのです。

住所三重県鳥羽市鳥羽3-3-6
アクセスJR・近鉄鳥羽駅より徒歩約10分
営業時間9:30~17:00(最終入館は16:00)
休園日年中無休
入場料金大人 2,800円小中学生1,600円
駐車場あり(500台)

ジュゴンと人の未来。保全活動と私たちにできること

野生のジュゴンを取り巻く環境は年々厳しさを増していますが、日本国内でもさまざまな保全活動が続けられています。沖縄周辺ではドローンや音響調査を活用したモニタリングが行われ、海草藻場の回復や環境保全に向けた取り組みも進行中です。

私たちができることは、そうした現状を『知る』こと、そして『伝える』こと。水族館で学んだことをSNSで共有したり、寄付やクラウドファンディングを通じて保全活動に関わったりすることも可能です。

絶滅危惧種を『遠い世界の話』にせず、身近な存在として意識すること。それがジュゴンを未来に残す、最初の一歩になるかもしれません。

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ゆかりーぬ

ゆかりーぬ

レオパとニシアフを飼っている爬虫類好きライター。実家ではチワワ2匹と生活していた。
動物や神社仏閣などニッチなジャンルの記事執筆から、インタビューや飲食店取材も行う。好奇心くすぐる記事をお届けします。

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