- ダイオウグソクムシは深海に生息する大型の甲殻類
- 数年もの絶食に耐える省エネ体質で、深海の掃除屋として海の生態系を支える存在
- 近年、新種『エノスイグソクムシ』が発見され、展示個体に混在している可能性がある

深海の底に、まるで巨大なダンゴムシのような姿をした不思議な生き物がいます。それが『ダイオウグソクムシ』です。独特の見た目と謎めいた生態から、テレビやSNSでもたびたび話題になります。
近年では水族館で展示されることも増え、その存在感に魅了される人が後を絶ちません。この記事では、そんなダイオウグソクムシの特徴や生態、そして実際に観察できる場所などを詳しく紹介します。深海に生きるダイオウグソクムシの知られざる魅力に迫っていきましょう。
ダイオウグソクムシとは?基本情報と特徴を紹介

ダイオウグソクムシは、深海に生きる大型の甲殻類です。見た目がダンゴムシにそっくりなことから『深海のダンゴムシ』と呼ばれています。ここでは、そんなダイオウグソクムシの基本情報や生態を詳しく見ていきましょう。
ダイオウグソクムシはどんな生き物?大きさや分類は?
ダイオウグソクムシは、全長が30cmを超える深海性の甲殻類です。最大では50cmに達した個体もいます。深海という過酷な環境に適応するため、強靭な外骨格と低い代謝能力をもつよう進化した生き物です。
分類としては、エビやカニと同じ甲殻類の仲間で、等脚目(ワラジムシ目)に属します。つまり、陸上のダンゴムシやワラジムシの遠い親戚にあたります。まさに『ダンゴムシ界の王様』といえる存在です。
生息地や生息環境はどんなところ?
ダイオウグソクムシは、主にメキシコ湾や西大西洋などの、水深200〜1,000mの深海に生息しています。日本近海では、同じ仲間の『オオグソクムシ』が見られるものの、ダイオウグソクムシは分布していません。
彼らが暮らす深海は、太陽光が届かず、水温は5℃前後と非常に低温です。海底は泥や砂で覆われ、食べ物が極端に少ない環境です。動きはゆっくりで、普段は海底を這うように移動しています。
ダイオウグソクムシの食性は?天敵はいる?
ダイオウグソクムシはスカベンジャー(掃除屋)として有名です。深海の海底に沈んだ魚の死骸やクジラの死骸、腐った生物などを食べて生活しています。獲物を追いかけることはなく、嗅覚でエサのにおいを感じ取り、餌にたどり着きます。
深海には彼らを狙う天敵は少ないでしょう。大型の肉食魚や深海性のサメが捕食することもあるとも考えられますが、詳しくわかっていません。
ダイオウグソクムシの驚くべき生態

特殊な環境を生き抜くダイオウグソクムシは、独特の生態を持っています。ここでは、ここでは深海を生き残るためのダイオウグソクムシの生態を紹介します。
数年も絶食できる!?省エネすぎる生き方
ダイオウグソクムシの最大の特徴は、長期間食べなくても生きられることです。実際に水族館では、5年以上もの間ほとんど餌を食べなかった個体も記録されています。これは、深海という食料の少ない環境で生き抜くために身につけた『省エネ体質』のおかげです。
彼らは代謝が非常に低く、活動量も少ないため、エネルギー消費を最小限に抑えることができます。獲物を捕まえるチャンスが少ない深海では、食べられない期間をじっと耐える能力が、命をつなぐ鍵となっているのです。
深海の掃除屋と呼ばれる理由
ダイオウグソクムシは、海の底で『死骸を食べる生き物』として重要な役割を担っています。魚やクジラなどの死骸が海底に沈むと、彼らが集まってきて分解します。まるで森の落ち葉を分解する微生物のように、深海の栄養循環を支えているのです。
大きな死骸には何十匹もの個体が群がる様子が観察されています。彼らがいなければ、深海の環境は死骸で埋め尽くされてしまうでしょう。まさに『海の掃除屋』という呼び名がふさわしい存在です。
ダンゴムシのように丸まることはできない
見た目がダンゴムシにそっくりなダイオウグソクムシですが、実は完全に丸まることはできません。体が大きく、背中の殻が硬いため、体を丸めても隙間ができてしまいます。そのため、敵から完全に身を守ることはできない構造です。
しかし深海では、捕食者が少ないと考えられ、この弱点が問題になることはほとんどありません。必要最低限の防御機能を残しつつ、省エネで生きることに特化した構造といえるでしょう。
ダイオウグソクムシの仲間たち

ダイオウグソクムシ属には、世界に20種類ほどいると考えられています。外見は似ていても、地域や水深によって少しずつ特徴が異なります。ここでは近年発見された新種や、日本近海で見られる仲間を紹介します。
発見されたばかり!エノスイグソクムシ
2022年、新江ノ島水族館と研究機関の調査で、ダイオウグソクムシによく似た新種『エノスイグソクムシ』が発見されました。名前は発見地の略称『えのすい』に由来し、日本発の新種として世界的に注目されています。
外見はほとんどダイオウグソクムシと同じで、体の節の形や色にわずかな違いがある程度です。そのため、見た目だけでは区別がつかず、DNA解析を行わないと判別が難しいといわれています。実際、これまで『ダイオウグソクムシ』として展示されてきた個体の中には『エノスイグソクムシ』が混じっている可能性もあります。
日本にも生息しているオオグソクムシ

日本の海には、ダイオウグソクムシによく似たオオグソクムシが生息しています。伊豆半島から九州・沖縄周辺の水深200〜500mほどの海底に生息する種類で、体長は10〜15cmほどで、ダイオウグソクムシよりも小型です。
オオグソクムシもまた深海の掃除屋として、魚の死骸や有機物を食べて生きています。近年では深海生物ブームということもあり、水揚げされることも増えています。見た目は少しグロテスクですが、香ばしく意外と美味しいと評判です。
ダイオウグソクムシを観察するには?

深海に生きるダイオウグソクムシは、私たちが日常で目にすることのない存在です。しかし近年では、水族館の展示や研究が進み、その姿を直接観察できるようになりました。ここでは、ダイオウグソクムシを見られる場所や、飼育の難しさについて紹介します。
展示している水族館もある
ダイオウグソクムシは、国内のいくつかの水族館で展示されています。展示されている個体は動きが少なく、じっとしていることが多いですが、それは省エネな生態の証拠です。見た目のインパクトもあり、子どもから大人まで人気を集めています。
前述のエノスイグソクムシの発見以降、展示されているダイオウグソクムシの中に紛れている可能性も指摘されています。外見ではほとんど区別がつかないため、実は『ダイオウグソクムシ』とされている中にエノスイグソクムシが混じっているかもしれません。そんな見分けられない深海生物の世界を想像するのも楽しいポイントです。
2025年11月現在、展示されている水族館を紹介します。
展示内容が変更されることもあるので、確実に観察したい場合は事前に問合せるとよいでしょう。
飼育はできなくないが、現実的に厳しい
ダイオウグソクムシの飼育は、一般家庭では非常に難しいとされています。深海の環境を再現するためには、水温を5℃前後に保つ冷却設備が必要です。この低水温ではろ過バクテリアの活動も少なく、水質維持も難しいです。一般家庭で十分な飼育環境を整えるのは現実的ではありません。
ダイオウグソクムシは省エネ体質で餌をほとんど食べない点も、実は難しい理由の1つです。長期間食べないことで健康状態を判断しにくいためです。このことから、水族館でも適切な管理が難しい生き物の1つになっています。
ダイオウグソクムシの魅力に迫ろう

ダイオウグソクムシは、深海という過酷な環境で静かに生きる生命の象徴です。外見はまるで巨大なダンゴムシのようですが、その生き方には深海生物ならではの工夫が詰まっています。
見た目のインパクトが強いですが、数年も絶食に耐える省エネな体の仕組みや、死骸を食べて海をきれいに保つ『深海の掃除屋』としての役割など、それ以上に奥深い魅力があります。普段は動きが少なく目立たない存在でも、自然界では確かな役割を果たしているのです。
水族館で見かけたときは、単に珍しい生き物としてではなく、深海という厳しい世界で生きる生き物として見てください。静かに生きるその姿の中に、自然のたくましさと神秘が感じられることでしょう。




