- ヤドカリは貝殻を背負った甲殻類の仲間
- 種類によって生息環境や見た目が大きく異なる
- 野外観察や飼育もできるが、オカヤドカリは天然記念物に指定されているので注意

貝殻を背負いながらちょこちょこと歩く姿が愛らしいヤドカリ。海辺や磯で見かけることも多く、子どもから大人まで人気のある生き物です。何気なく捕まえたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
ヤドカリは見た目がかわいらしいだけでなく、その生態にも興味深いポイントがたくさんあります。今回はそんなヤドカリについて詳しく解説していきます。観察や飼育のヒントも紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
生息環境や食性などヤドカリの基本情報

ヤドカリの生息環境や食性はもちろん、なぜ貝殻を背負っているのかなど解説します。まずはヤドカリがどんな生き物なのかをみていきましょう。
ヤドカリは貝殻を背負った生き物
ヤドカリと聞くと『貝殻に入っているカニのような生き物』というイメージがあるかもしれません。実際、ヤドカリは甲殻類の十脚目(じっきゃくもく)ヤドカリ下目に属しており、カニやエビと同じグループに分類されます。
見た目はカニと似ていても、大きな違いがあります。カニは全身が硬い甲羅に覆われていますが、ヤドカリの腹部は柔らかいです。この柔らかい腹部を守るために空の貝殻に入って生活しているのです。成長して貝殻が窮屈になると、引っ越しを繰り返すこともヤドカリならではの特徴です。
貝殻を背負わない種類もいる
『ヤドカリ=貝殻』というイメージが一般的ですが、実はすべてのヤドカリが一生貝殻を使って生活するわけではありません。中には、成長にともなって貝殻を必要としなくなる種類もいます。
たとえばヤシガニはオカヤドカリの仲間です。幼体のころは貝殻を背負って暮らしていますが、成長とともに自らの外骨格が硬くなり、やがて貝殻を使わなくなります。そのため、成体のヤシガニは貝殻なしで生活しています。
さらに分類学的には『タラバガニ』や『コシオリエビ』も実はヤドカリの仲間です。見た目は完全にカニのようですが、腹部の形状やハサミの付き方などに注目すると、ヤドカリ特有の特徴を持っていることがわかります。このように、見た目にとらわれず分類を深く見ていくと、ヤドカリの多様性と奥深さがより一層感じられるでしょう。
ヤドカリの生息地や生息環境
ヤドカリには『水生ヤドカリ』と『オカヤドカリ』の2つのグループがあります。
水棲ヤドカリは世界中の海に広く分布しており、潮だまり・岩場・砂地・サンゴ礁など多様な場所に生息しています。種類によって好む環境が異なり、浅瀬で多く見られますが、深海に棲む種類もいます。種類が多く、水質の変化にも強いことから、アクアリウムでも人気です。
オカヤドカリは熱帯や亜熱帯の沿岸地域が生息域で、日本では主に沖縄や南西諸島などで見られます。海岸近くの湿った陸地で生活し、乾燥には弱いものの陸上生活に適応した不思議な存在です。産卵の時だけ水中に入り、稚ヤドカリの間だけ、水中で生活します。
ヤドカリは何を食べる?天敵はいるの?
ヤドカリは雑食性で、海藻やデトリタス(有機物のかけら)・死骸・小さな甲殻類などをつまんで食べます。死んだ生き物なども食べることから『海の掃除屋』としての役割を果たしています。飼育下でも、この食性の幅広さは飼いやすさの一因ともいえるでしょう。
一方で、ヤドカリにも天敵は存在します。肉食魚・タコ・カニ・海鳥などがヤドカリを狙う捕食者です。特に小さな個体は狙われやすく、警戒するとすぐに貝殻に閉じこもって防御します。
代表的なヤドカリ5選

ヤドカリは日本だけでも300種類以上いるとされています。その中から代表的な5種類を紹介します。
いちばん身近なヤドカリ│ホンヤドカリ

ホンヤドカリは、日本全国の海岸や潮だまりでよく見かける水棲ヤドカリの代表格です。体長は2〜3cmほどと小さく、青みがかった体に赤い触角が特徴的です。潮だまりや浅瀬の岩の下・砂地などさまざまな場所に生息し、磯遊びや干潮時の観察でよく見かけます。
雑食性で、藻類や小さな生き物の死骸などを食べ、飼育も比較的容易です。小型水槽であれば初心者でも飼いやすく、底砂のお掃除役としても活躍します。
岩場のすばしっこい住人│イソヨコバサミ

イソヨコバサミは、岩場や転石の隙間に多く生息しており、俊敏な動きが特徴です。貝殻を背負いながら、素早く移動する姿は見ていて飽きません。体色は茶褐色〜赤褐色で、やや光沢があります。
比較的乾燥にも強いため、波打ち際の岩陰や浅い潮だまりでも活動していることが多く、観察しやすい種類です。貝殻の種類を問わず入るため、観察していると変わった殻に入っている個体もいて、見ていて楽しいです。
大型で迫力ある姿が魅力│ホンドオニヤドカリ

ホンドオニヤドカリは、本州以南の温暖な海域に生息する大型のヤドカリです。体長は5cm前後まで成長し、赤褐色の体に白い斑点が入るのが特徴です。身体に短い毛が生えていることも相まって迫力があり、存在感があります。
夜行性で日中は岩場やサンゴの隙間などに潜み、夜に活動します。そのため、磯観察では出会える機会がやや少ないでしょう。利用する貝はサザエなど大型のもので、大型の個体が引っ越しするシーンは見応えがあります。
陸上生活に特化したオカヤドカリ

オカヤドカリは、名前の通り陸上で生活するヤドカリです。幼生時には海で過ごしますが、成長すると湿った森林など陸地で暮らすようになります。茶色や紫がかった体色をし、木の根元や落ち葉の下などで見られます。
非常にユニークな生態を持つ一方で、日本では天然記念物に指定された生き物です。沖縄や奄美大島などで観察できますが、見つけてもそっと見守るだけにしましょう。
ヤシガニ

ヤシガニは世界最大級のヤドカリの仲間で、成長すると30cm以上に達することもある巨大な種です。見た目はカニに似ていますが、分類上はオカヤドカリに近い存在で、成長すると貝殻を必要としなくなります。
名前の通りヤシの木の多い場所に生息しており、木に登ってヤシの実を落とすこともあります。ハサミの力は強力で、ヤシの実を割るほどです。
日本では沖縄県や南西諸島などに分布し、夜行性で昼間は洞穴や地中に隠れています。生息数が減少している地域もあるため、観察の際は環境に十分配慮しましょう。
ヤドカリを野外観察や飼育してみよう

ヤドカリをさらによく知るには、野外で観察したり、飼育したりするとよいでしょう。野外観察や、飼育についてのポイントを紹介します。
海岸沿いや潮だまりを探してみよう
ヤドカリを観察するなら、干潮時の潮だまりや岩場を訪れるのがおすすめです。穏やかな潮だまりであれば、箱眼鏡で除くと観察しやすいです。また砂浜や岩場などの波打ち際を探すだけでも見つかる可能性があります。
沖縄地方であれば、オカヤドカリやヤシガニも観察できます。草木が近くにある海岸沿いを歩けば高確率で出会えるでしょう。ヤシガニは生息数が少ない上、夜行性なので、現地の観察ツアーに申し込むのがおすすめです。
ヤドカリは人が近づくと警戒して、貝殻に閉じこもります。しばらくジッと待っていれば、貝殻から出てきて、動く姿を観察できるでしょう。
ヤドカリは飼育可能!適した環境を整えよう
ヤドカリは、自宅の水槽で飼育することもできます。必要な設備としては、水槽・ろ過装置・底砂などです。水質を安定させることが長期飼育のポイントです。
雑食性のため魚介類・野菜・海藻などさまざまなものを食べるので、困ることはないでしょう。水質維持の観点からは、観賞魚用のエサ・ザリガニのエサがおすすめです。複数の種類を用意すれば、ヤドカリたちも飽きることがありません。
採集する際の注意点
ヤドカリの採集は基本的に問題なく、飼育するための最低限の個体数であれば、自然への影響も少ないです。必要以上に持ち帰るのは避けましょう。ただし、保護区域など生き物の採集自体が禁止されている場所では採ってはいけません。
持ち帰る際には、携帯式のエアーポンプで酸素を供給しましょう。せっかく採集しても、持ち帰る前に死んでは意味がありません。
オカヤドカリは採集禁止!
オカヤドカリは『天然記念物』に指定されており、環境省によって採集・飼育・移動などが厳しく禁止されています。
沖縄や南西諸島ではよく見かける種類ですが、見つけても絶対に捕まえないでください。その場でそっと観察するにとどめましょう。
ただし、オカヤドカリは許可を得た採集者が捕獲したものが、ペットショップ等で販売されています。オカヤドカリを飼育したい場合は、お店で購入して飼育しましょう。
ヤドカリの観察を通して魅力に迫ろう

ヤドカリはそのユニークな姿や生態、そして貝殻を乗り換えるという面白い行動など、多くの魅力を持つ生き物です。海辺を歩けば比較的簡単に出会える存在でありながら、分類や習性には奥深い世界が広がっています。
今回の記事でヤドカリに興味を持ったら、ぜひ実際に海岸に出かけて観察してみてください。身近な自然の中で、小さなヤドカリとふれあう時間はきっと楽しいはずです。守るべきルールを守りながら、ヤドカリたちの不思議な世界を楽しんでみてください。