犬も人間と同じように、アレルギーになることがあります。その症状はさまざまですが、対処してあげないと愛犬が不快な思いをし続けることになります。その不快さは人間のアレルギー症状となんら変わりません。
犬のアレルギー症状について、現在も獣医師としてペットの診察を続ける園田先生に解説してもらいました。
愛犬を不快なアレルギーから守ってあげられるのは飼主だけですから、愛犬のアレルギー症状にいち早く気づき、愛犬に快適な生活をさせてあげましょう!
◆取材・監修:日本橋動物病院
監修者
園田 開(そのだ かい)医師
日本橋動物病院の院長を務め、年間10,000匹以上の犬猫やその他の動物を診療している。動物病院での臨床経験は25年以上で、現在は皇居の警察犬担当獣医師としても活躍中。
犬の3大アレルギーとは?
犬のアレルギーの主な原因は、大きく分けると3つあるのだそうです。犬がアレルギーになる3つの原因について、お話を聞きました。
強いかゆみが特徴のアトピー性皮膚炎
人にも同じような症状が出るアトピー性皮膚炎。犬の場合はどのようにして起きるのでしょうか。
環境抗原(※1)が原因で引き起こされるアレルギーです。皮膚に症状が出ることがほとんどです。重篤なアナフィラキシーのような症状が出ることはほぼありません。
一部はIgE検査である程度の原因物質は調べることが可能です。
※1:皮膚や粘膜から体に吸収されることによってアレルギーを引き起こす物質
どのような状態になるのでしょうか?
皮膚の表面が赤くなります。赤みは炎症の証です。赤い状態が長く続くと、皮膚が黒ずんだり、厚みが増して硬くなったり(苔癬化)することがあります。
放置すると皮膚が乾癬化し、皮膚にシワができます。シワができると、シワの間に原因物質が入ってしまいより悪化するため、適切な治療が必要です。
特定から除去までに時間のかかる食物アレルギー
食物アレルギーは原因物質を特定するまでに時間がかかるのだと園田先生は話します。
食物アレルギーの症状は、皮膚に出ることが多いですが、まれに呼吸器や消化器にも出ることがあります。呼吸器単独で症状が出ることはないですが、咳が症状として出るケースも。
血液検査で原因物質のヒントを得ることができます。しかし特定するには時間がかかります。
どのくらいの時間が必要なのでしょうか?
付加試験(※2)を1週間と除去食試験(※3)を1ヶ月ほど行って調べますが、原因となる食材は1つとは限りませんので、血液検査などの結果をヒントに該当食材全てでこれを繰り返します。
そのため、原因食材と思われるものが多いほど時間がかかることになります。
※2:原因と思われるものを食べさせる試験
※3:原因と思われるものを食べさせない試験
夏から秋にかけて増えるノミアレルギー
散歩が必要な犬はどのタイミングでノミをもらってくるか、なかなかわからないものです。室内飼いが定着している近年は1年中ノミの心配はあるようで……。
ノミが犬の血液を吸う際に、ノミの唾液が体内に入り、アレルギーを引き起こします。ノミアレルギーの場合、背中から腰にかけての広範囲に症状が見られます。
ノミは暖かい時期に活発になりますが、暖かい室内で生活している場合、1年中活動していることもあります。
ノミのアレルギーの場合、背中からお尻にかけてかゆがることが多いのだとか。ノミの存在に気づいたら、迷わず病院で駆虫してもらいましょう。
犬のアレルギーに見られる症状
アレルギーを起こしている場合、愛犬にはどのような症状が出るのでしょうか?詳しい症状についてお話を聞きました。
アレルギーだけとは限らない【体のかゆみ】
よく耳をかいていたり、お腹をなめていたり、お尻をカジカジしていたりという仕草を見たことはありませんか?そんな仕草をよく見かけるなら、愛犬はかゆがっているのかもしれません。
かゆみはアレルギーだけの症状ではありません。被毛が脂っぽくなっていたら、脂漏症(しろうしょう)の可能性が高いと考えていいでしょう。
肉球の間がベトついていて、かゆみがある場合は、脂漏症を疑っていいと思います。脂漏症の場合は定期的にシャンプーしてあげると症状が軽減されることがあります。
家具の間に顔を突っ込んで何してるの?!【目の充血・かゆみ】
愛犬の目が赤かったり、顔を盛んに気にするような様子はありませんか?目の充血やかゆみについて園田先生に聞きました。
目の周り・口の周りなどを後ろ脚でかいたり、頭を床にこすりつけたりといった様子が見られるときは、目がかゆい可能性があります。
顔のかゆみから、家具の隙間にマズル(※4)を突っ込んでいた、というケースもありました。
普段と違うような様子があったら、受診を検討してください。
※4:犬の目の下から鼻にかけて、口の開口部にあたる部分
ひどくなると血が出るほどかくことも【耳が臭う・かゆみ】
愛犬が耳を後ろ脚でかいている仕草はすぐに想像できるほど、普段からよく見かける仕草だと思います。しかしそれを頻繁に見かけるとなると、注意が必要なのかもしれません。
犬は外耳炎を発症しやすい動物です。耳を気にする仕草が頻繁に見られるようであれば、アレルギーだけではなく、ほかの病気の可能性も視野に入れて受診をおすすめします。
耳をかいている場合、耳の中を観察して、赤みがあるようなら受診してください。
食べてから3日経ってから症状が出ることも【下痢・嘔吐】
アレルギーには症状がすぐに出ない場合もあるのだと園田先生は話します。
消化器に症状の出るアレルギーの場合、食物によるアレルギーが多く、摂取してから15分程度で症状があらわれる即時型と、3日ほど経ってから症状があらわれる遅延型があります。
消化器に症状が出る場合には、お腹がゆるくなって下痢をする・吐くなどの症状がみられます。
「下痢してるなー」と思っても、さっき食べたものや昨日食べたものが原因ではなく、3日前に食べたものの可能性もあるということですね。何を食べさせたのか、飼主もきしっかり覚えておく必要がありそうです。
犬のアレルギーのメカニズムと対策
犬のアレルギーはどのようにして起きるのでしょうか?
またその対策として有効な方法はあるのでしょうか?園田先生に聞きしました。
アレルギーの起きるメカニズム
アレルギーとは、本来反応しなくていいものに体が反応することによって起きる病気です。どのようなときに反応は起きるのでしょうか。
アトピー性皮膚炎の場合は、皮膚のバリア機能が弱ったところに症状が出ます。1〜3歳に最初の症状が出ることが多いです。
毛が抜けて皮膚が露出すると、原因物質にふれる機会が増えるので、シャンプーやブラッシングなどは必要です。肌に負担のかからない方法を獣医師と相談してください。
なるほど。被毛で原因物質を止めているところを、ブラシで落としてあげると症状の軽減に役立つわけですね。
でもバリア機能の弱った肌に負担のかからない方法は確かに獣医師に相談したほうが良さそうです。
他のアレルギーについてはどうでしょうか。
食物アレルギーは1歳までに最初の症状が出ることが多いアレルギーです。
食物アレルギーの原因は母犬の胎内にいるときに母犬が食べた物や、母乳に含まれていた物に反応することが多いため、特定が難しいです。
また、離乳食で食べていたものからアレルギーになることもあります。
お母さんの食べていた物で子どもアレルギーになるなんて少し驚きました!愛犬が妊娠したら、食べ物には注意が必要そうですね。
アレルゲンの特定とアレルゲンを遠ざける
愛犬が毎日かゆそうにしているのは飼主としても見ていてつらいもの。どのように対応していけばいいのでしょうか。
アレルギーの原因物質としてよくあるのは、ハウスダストマイト・杉花粉・猫の上皮・雑草・牧草などがあげられます。
雑草や牧草が原因物質の場合は散歩の際に草の茂った場所に入らないようにしましょう。あとはこまめな掃除・洗濯ですね。
正しい頻度と方法によるシャンプー
シャンプーは被毛についた原因物質を洗い流すため、アレルギーの対策としては効果があると園田先生はいいます。ただやりすぎは逆効果。どのくらいの頻度が望ましいか、話してもらいました。
1週間に1回程度がいいと思います。洗いすぎると皮膚の角質まで落ちてしまい、バリア機能が低下してしまいます。バリア機能を守りつつ、保湿してあげるのがいいですね。
症状・状態・体質によっても違いがあるので、かかりつけの獣医師に相談するのが望ましいです。
アレルギーになりやすい犬種
犬種によってなりやすいアレルギーがあるのだと園田先生は話してくれました。統計なので必ず出るというものではないそうですが、愛犬が該当する場合は注意してみてあげるといいでしょう。
ゴールデンレトリバー・ラブラドールレトリバー
ペットとして人気の犬種であるレトリバー系の犬種も、アレルギーを発症しやすい犬種なのだとか。詳しくお話を聞きました。
ゴールデンレトリバー・ラブラドールレトリバーは、アトピー性皮膚炎の好発犬種です。
アトピー性皮膚炎は環境抗原のものが多く、ある程度はIgEの検査で調べることができます。
かゆがっていたり、皮膚に赤みが見られたりといった症状が現れた場合は、受診をおすすめします。
食物アレルギーの多いフレンチブルドッグ・パグ
短頭種といわれる犬種にも、アレルギーの好発犬種があります。注意点や傾向などを聞きました。
フレンチブルドッグは私の肌感覚ですが、50%以上の確率でアレルギーに関連した皮膚疾患を発症するように思います。
食物アレルギーの好発犬種を明確に示した研究はないので、どこまで食べ物が関係しているのかは言い切れないですが、食物アレルギーの好発犬種です。
動物病院に来るフレンチブルドッグに多いということでしょうか?
それもありますが、犬の散歩などの際に会うフレンチブルドッグにもよく見かけます。そういったフレンチブルドッグに多いのが、治療したあとにまた症状が再発しているケースです。
食物アレルギーはアレルゲンの特定に時間がかかります。途中でやめてしまうとまたアレルギーを発症してしまうことが多いんです。
血液検査をした・IgE検査をした、という事実だけで満足してしまう飼主が多く、治りきらずに治療をやめてしまうケースが多いのだとか。しっかり治してあげないと、いつまでも愛犬にかゆみを我慢させることになってしまいます。
ウエストハイランドホワイトテリア・ヨークシャーテリア
小型犬にもアレルギーを起こしやすい犬種があると園田先生は話します。小型犬の長毛種の場合、なかなか肌を露出させることが難しいため、皮膚の赤みに気づけないことも。どのようなポイントに注意すればいいのでしょうか。
ウエストハイランドホワイトテリアやヨークシャーテリアなどはアトピー性皮膚炎の好発犬種です。かゆがっている仕草がみられたら、毛をかき分けて肌の様子を観察してください。
皮膚に赤みがみられたり、かゆがっている様子が頻繁にみられる場合は、受診をおすすめします。
ハウスダストに注意が必要な柴犬
人気犬種の柴犬もアレルギーの好発犬種だそうです。柴犬の場合はどのようなアレルギーに気をつければいいのでしょうか。
柴犬の場合、ハウスダストマイトのアレルギーが多い傾向にあります。ハウスダストは湿度の多いところが好きなため、6月・9月の湿度の高い時期になると増えるのも特徴です。
ブラッシングやシャンプーをすることで毛についたハウスダストを除去するのがおすすめです。
ブラッシング以外の対策はありますか?
ハウスダストは完全に排除することは難しいですが、掃除機をマメにかけたり、洗濯をしたりといったことが対策になります。空気清浄機もいいと思いますよ。
対策は人のハウスダストアレルギーと一緒ですね。
かゆみのコントロールで上手にアレルギーと付き合う
アレルギーを完治させることはなかなか難しいのだと園田先生は話します。
かゆいことは犬にとっては決して快適なことではありません。完治させられなくても、かゆみをできるだけ感じないように生活することは可能です。
犬ができるだけ快適に過ごせるように、飼主さんが管理してあげることが重要だと思います。
愛犬がアレルギーだとわかったら、愛犬が快適に毎日を過ごせるように、かかりつけの獣医師に相談しながら、上手にアレルギーと付き合う方法を探してみることが大切なんですね。