- 介助犬は、2024年6月現在日本国内に59頭が活躍している
- 介助犬の仕事を楽しめる犬が介助犬になる
- 介助犬は障がい者の社会参加と社会復帰を目的としている
車椅子の人に寄り添って歩く犬を見かけたことはありませんか?
介助犬とは、身体障がい者の生活を補助する犬のこと。視覚障がいを持つ人を助ける「盲導犬」・聴覚障がいを持つ人を助ける「聴導犬」と並び、人々の生活を助けています。
2024年6月現在、日本全国には59頭の介助犬が活躍しています。しかし、介助犬がどのように人を助けているのか、介助犬を見かけたらどのように対応したらいいのか……そんな疑問を持つ人も多いと思います。
今回は介助犬について、日本介助犬協会の渡邊さんにお話を聞きました。どんな犬が介助犬になるのか、トレーニングや介助犬の実際のお仕事を紹介します。
◆取材・監修:日本介助犬協会
大学卒業後、人と犬に関わる仕事がしたいと、人のことを学ぶためにデイサービスに就職。その後、日本介助犬協会の研修生を経て、広報職員として就職。現在おおよそ30人の協会職員とともに、介助犬の普及活動に力を入れている。まだまだ介助犬に対して誤解があったり、知らない人も多いので、もっともっと介助犬について知ってほしいと語る。
介助犬とは、障がいのある人を助ける犬のこと
「介助」と聞くとなんとなく高齢者を助ける犬を想像してしまう人が多いのではないでしょうか?そこに大きな誤解があるのだと渡邊さんは言います。
介助犬の目的は障がい者の「社会参加・社会復帰のお手伝い」です。そのため、高齢者よりも、20〜60代の人の生活をよりよいものにするために介助犬を役立ててほしいのだそうです。
「介助犬」であって「介護犬」ではないのだと渡邊さんは説明してくれました。
こんなこともできちゃう!介助犬のお仕事とは?
介助犬の仕事は、手や足に障がいのある人を助けることです。
- 靴・靴下を脱がせる
- 携帯電話を探して持ってくる
- 落としたペンを拾う など
利用希望者とマッチングしたのち、障がいの状況や程度に合わせてオーダーメイドでトレーニングするのだそう。
介助犬の基本動作は以下の3つなのだと渡邊さんは言います。
- 物をくわえる
- 物を運んで渡す
- 鼻で押す
この基本の動きを組み合わせて、障がい者が必要としている作業を、どのようにしたら犬ができるかを検討し、トレーニングをしてきます。
介助犬に適した犬種と性格
介助犬として現在介助犬協会で育成されている犬種は以下の3種だそうです。
- ゴールデンレトリバー
- ラブラドールレトリバー
- 上記犬種のMIX
レトリバー種には下記のような特徴があるのだとか。
- 口先が器用
- 人と何かするのが好き
- 誰とでも仲良くできる
この特性が介助犬に向いていると渡邊さんは教えてくれました。
他犬種でも介助犬になれないというわけではありませんが、犬種による特性が介助犬に適さない場合が多いですね。
たとえば柴犬の場合は飼主に忠実なため、他の人と仲良くすることができないことが多く、介助犬に適しているとはいえません。
やはりレトリバー種が介助犬に適しているんですね。
ほかにも、外出が多くなる活動的な利用者には、アクティブな性格の犬が向いているなど、利用者と相性の良い性格なども存在します。
犬の性格と利用者の希望や性格を総合的に考慮してマッチングが行われます。
介助犬のトレーニングと介助犬以外の選択肢
介助犬のトレーニングはおよそ1年〜1年半。そのトレーニングの進め方や、介助犬を育成するためにかかる費用について渡邊さんに聞きました。
介助犬の仕事を楽しめる犬が介助犬になる
トレーニングをした犬が全て介助犬になるわけではなく、介助犬としてお仕事をする犬は、トレーニングをしたうちの1割程度なのだとか。
実際には現在どのくらいの犬をトレーニングしているのでしょうか?
現在は約20頭の介助犬候補の犬を育成していますが、実際に介助犬になるのは10頭育成して1〜2頭ですね。
それは介助犬になるのが難しいからではなく、トレーニングを重ねていくうちに介助犬以外にもっと適性が認められる仕事が見つかるからなんです。
トレーニングをしていくうちに、もっと向いている道が見つかるということですね。
「介助犬は仕事をさせられてかわいそう」という声を耳にしますが、決してそうではないんです。
介助犬の仕事を楽しんでできる犬が介助犬として活躍しているということなんです。介助犬になるより他に向いていることがあると、その個性を活かして他の道で活躍してくれます。
今、日本全国で活躍している介助犬は59頭しかいない
2024年6月現在、介助犬として活躍しているのは59頭。介助犬の育成には費用もかかるうえ、介助犬を必要とする障がい者と介助犬のマッチングも簡単ではありません。
介助犬にならなかった犬たちも、協会のPR犬としてイベントで活躍したり、病院でのAAA(動物介在活動)やAAT(動物介在療法)として活動するなど、それぞれが個性に合った場所で生活しています。
誤解されることが多いのですが、これは介助犬に「なれなかった」わけではなく、犬のもっている個性を介助犬よりも活かせる仕事に就いたということです。
なるほど。犬にはそれぞれ違った個性があり、それぞれ向いている方向に進んでより楽しんで生活しているということですね。
それにはいろいろお金もかかると思うのですが……。
介助犬1頭を育てるのにかかる費用はおよそ250〜300万円
犬を育てるだけでもフード代や注射などの医療費など、かなりの金額がかかる気がしますが、どのくらいの金額が必要なのでしょうか。
実際に介助犬になる犬を育成するためには、およそ1頭につき250〜300万円ほどかかっています。
この費用には、フード代や獣医利用費だけでなく、介助犬希望者とのマッチングに伴う交通費などの費用も含まれています。
金額だけ聞くと驚いてしまいますが、その費用はどうやってまかなわれているのでしょうか。
その90%が寄付で成り立っている現状もあり、なかなか介助犬の頭数を増やしていくのも簡単には進みません。
介助犬を希望してくれる人のためにも、もっと介助犬を認知してもらって、介助犬の普及につなげていきたいですね。
介助犬になるために必要なトレーニング
介助犬は生まれてからおよそ2ヶ月後にボランティア(パピーホーム)の家に移動し、人の愛情をたくさん受けて育ちます。その後1歳くらいになると訓練施設でトレーナーとの訓練が始まるのだそうです。
1年~1年半のトレーニングを終えて、介助犬としてデビューをします。
そんな介助犬のトレーニングとはどのような内容なのでしょうか。
室内で行う基本動作とオーダーメイドトレーニング
まず行われるのはお座りや伏せなど、一般のペットもしている基本的な動作の内容。その後、介助作業につながる動作のトレーニングをするそうです。
障がい者が必要としている作業内容によって、犬の体格なども大きく関係してきます。立ち上がる際の支えとなってほしいという要望の場合、犬の体高もある程度の高さが必要です。
またトレーニングの基本は「犬が楽しんでできること」です。無理に教え込むのではなく、遊びの中で動作を覚えてもらうようにしています。
どうすれば犬が楽しくトレーニングできるか、これを考えるのはトレーナーの仕事です。
まずはできたら「ほめる」のだと聞きますが、ほめることで犬も楽しめるということなのでしょうか?
犬たちは楽しいことが大好きです。楽しいことはするけど、楽しくないことはしたくなくなります。沢山褒めてあげることで、この人と何かするのが楽しいな、これをしたら褒めてもらえる、ということを覚えるので、犬たちも意欲的に作業を行ってくれるようになります。
電車に乗る・バスに乗るなどの外でのトレーニング
電車やバスなどに一緒に介助犬が乗っているところを見かけますが、こういったトレーニングはどのようにするのでしょうか。
通常、訓練中の犬は電車やバスに乗ることはできないのですが、訓練に理解いただき協力いただけているところで、トレーナーと一緒に乗って乗り方を覚えていきます。
飛行機などにもトレーニングで乗るのでしょうか?
トレーニングで飛行機に乗ることはありません。
実際に飛行機に乗る際には、障がいのある人は先に搭乗できますので、一番最初に障がい者と介助犬は飛行機に乗ることができ、犬は足元にじっと伏せています。後から通った人も気づかないくらい、じっとしているとよく言われます。
介助犬を街で見かけたら、むやみに犬に声をかけたり撫でたりはせず、暖かく見守ってあげてほしいと渡邊さんは話します。
休憩しているような場合でも、介助犬にいきなりさわりに行くのではなく、まずは利用者さんに「なでてもいいですか?」と声をかけるようにしましょう。
介助犬と障がい者のマッチングはどうやって行われる?
介助犬を利用するには、まず介助犬協会に利用希望の連絡をすることから始まります。
利用希望者からの連絡を受けたあと、介助犬協会のスタッフはどのように対応するのでしょうか。
介助犬利用に資格や条件はあるの?
実際に介助犬を必要とした場合、どのような条件や資格などがあれば介助犬をお願いできるのか、介助犬協会で規定があるのか、渡邊さんに聞きました。
介助犬を利用するのに資格は特にないそうで、日本介助犬協会では以下の3つを条件としているそうです。
- 身体障がい者手帳を持っていること
- 年齢は20〜65歳くらいまで
- 犬の管理が自分でできること
介助犬の目的は、障がい者の社会参加・社会復帰をすること。そのために、日常生活をお手伝いすることを目指しています。
そのため高齢者の手助けをするというよりは、これから社会に参加していきたい人のお手伝いをすることを目的に育成を行っています。
介助犬を迎えるために必要な準備
介助犬を迎えるに当たり、必要な準備や心構えなどについて話してもらいました。
大切なことは、介助犬と一緒に生活をして何をしたいのかを明確にすることです。
それを実現するために、今の住環境で問題ないか、車いすが身体に合っているかなど、事細かに状況の確認を行います。
顔合わせで介助犬との相性を確認する
環境が整い、介助犬のトレーニングが終わると、合同訓練の際に介助犬を利用者に紹介します。どのようにしてが紹介が行われるのか、渡邊さんに聞きました。
希望者が介助犬を迎えられる環境が整ったら、候補犬と介助犬希望者が一緒に訓練を行う合同訓練を行います。そこでこれから一緒に生活をするパートナーが紹介されます。
合同訓練に入る前には、2〜3日介助犬協会の施設に宿泊する体験入所があり、候補犬含め複数頭の犬と一緒にトレーニング体験を行います。
介助犬を利用者に紹介するのは宿泊で行われるのですね。そこではどのようなことを確認するのでしょうか。
体験入所の際には候補ということも紹介せず、トレーニングや一緒に過ごす様子を見てやっぱりこの組み合わせだな、というのをトレーナーが判断をしています。
ただ、障がい者の方もパートナーを紹介された時には、やっぱりこの子ですよね、と納得される方が多いです。
これからも広がっていく介助犬のお仕事
2002年5月22日に身体障がい者補助犬法が成立し、いつでもどこへでも介助犬は障がい者に同伴できるようになりました。
バスの中・電車の中・飛行機の中・映画館・レストラン・テーマパーク・コンサート会場など、今後介助犬が活動している姿を見る機会は増えていくことでしょう。
もしどこかで介助犬を見かけたら、不用意に犬に声をかけたりはせずに、優しく見守ってあげてください。