- 世界的にも飼育している動物園が少なく、国内ではズーラシアだけ
- オスは鼻が大きい方がモテることがわかっている
- 手に水かきがあり、泳ぐのも得意
- お互いを守りあう、穏やかな性格をしている
天狗のような大きな鼻を持つサル、テングザルという動物を知っていますか?その大きな鼻の印象から、一度見るとその姿を忘れることは難しいでしょう。
このテングザルを実際に見ることのできる日本の動物園は、よこはま動物園ズーラシアだけなのです。
そんなテングザルについて、よこはま動物園ズーラシアでテングザルの飼育担当スタッフの渡邊恵(わたなべけい)さんにお話を聞きました。
◆取材・監修:飼育スタッフ
2020年からテングザルの担当になり、テングザルの飼育になって現在5年目。テングザルの出産にも携わり、テングザルの子育ての様子も見守ってきた実績がある。テングザルの全てがかわいいと話し、テングザルのお互いを守ろうとする姿がとても愛おしいと語る。
ボルネオ島の固有種テングザルとは?
テングザルはボルネオ島の固有種で、川や海辺のマングローブの林などの湿地帯で生活しています。ほぼ樹上で生活しており、地上に降りてくることは稀なのだとか。
そんなテングザルの生態について渡邊さんに解説してもらいました。
オスの大きな鼻がトレードマーク
テングザルはその名の通り、大きな鼻が特徴です。この大きな鼻によって声が響き、森の中で遠くまで声が通るようになるのだとか。オスを中心にハーレムを作るテングザルにとっては大きな鼻は力の象徴でもあるようです。
鼻が大きくなるのはオスだけです。メスの鼻はツンと尖っています。体の大きさも、オスは20kg以上になることもありますが、メスは10kg程度です。
体の大きさもかなり違うということですね。
エサをとるために、野生のテングザルは森に入ります。鼻の大きなサルほど遠くまで声が響き、しげみの多い森でもよく声が通ります。大きな鼻のオスほど、メスにモテ、繁殖能力が高く、ハーレムの中にいるメスの数が多いことがわかっています。
手には水かきもついていて、泳ぐのも得意!
普段は樹上で生活をしているテングザルですが、泳ぎも得意なのだとか。そんな意外なテングザルの一面について話してもらいました。
ジャングルではウンピョウなどが天敵になります。そういった敵から逃げる際に、川に逃げることがあるため、テングザルの手には水かきもついていて、泳ぐのは得意なようですね。
インドネシアの動物園からズーラシアに来たテングザルがいるのですが、インドネシアの動物園では泳いでいたようです。
絶滅危惧種であるテングザル
テングザルはボルネオ島の川の近くにのみ生息する、絶滅危惧種に選定されている動物。
その希少性から世界でも飼育している動物園は少なく、2024年4月現在、国内ではよこはま動物園ズーラシアにしかいない動物です。
現在ズーラシアには3頭のオスと4頭のメスのテングザルがいて、それを3つの群れに分けて展示をおこなっています。
- ゲンキ(♂)とエミ(♀)の群れ
- キナンティ(♀)とジャスミン(♀)とキキ(♀)のメスの群れ
- ナタル(♂)とココ(♂)のオスの群れ
キナンティはベテランママで、4頭の赤ちゃんを産んでいます。
4回もの出産経験!それはベテランママですね。
キキは私が担当になってから初めて産まれた赤ちゃんだったので、とても心配でしたがキナンティはすでに4頭目の出産。ベテランママの風格で全然心配な事はありませんでした。
テングザルはボルネオ島の固有種で、野生では寿命は15年ほど、飼育下で25年ほどといわれる動物です。
これからも大切にお世話していこうと思います。
テングザルは果物は食べない根っからのリーフイーター
テングザルの食事は木々の葉や花だといいます。テングザルはどんなものを食べ、どのような生活をしているのか、解説してもらいました。
柔らかい葉が大好きなで、グルメな一面も
テングザルは動物園ではどんなものを食べているのでしょうか?
基本的には新芽や若葉などの柔らかい葉が好きなんです。かなりグルメで、食べてくれる葉を集めるのはけっこう大変です。木の葉は業者さんに納品してもらっていますが、食べてくれる葉はなかなか少なくて。
例えば柳の葉も、1回目の葉は食べますが、一度葉が落ちて2回目に出てきた葉は食べないこともあります。1回目の葉も、少し硬くなるともう食べてくれません。
確かに。新芽や若葉は1年中あるというものでもないですよね……。
ボルネオ島は暖かいので、若葉とか新芽が1年中あって、それを食べているんです。
日本では柳などのやわらかい葉を食べてくれますが、季節によっては新芽が無いことも多いので、足りなくなることもあるんです。
沖縄から若葉を取り寄せたりもしています。ハイビスカスとか。ハイビスカスは葉も花も大好きみたいですね。
霊長類なのに反芻する?テングザルの食事風景
他の霊長類は食べることのないような葉も、テングザルは食べられるのだとか。消化しにくい繊維質の多い葉を食べるために、テングザルの胃は複雑にくびれ、4つに分かれているのだそう。
霊長類ながら反芻する(一度胃に落ちた食物を口に戻して噛み砕き、唾液と混ぜてより消化しやすくする)という特性も持っているといいます。
消化に時間のかかるものを食べるため、テングザルの睡眠時間は長い傾向にあります。サルというとニホンザルのようにグルーミングをしているイメージがあるかもしれませんが、テングザルはグルーミングの時間よりも睡眠時間の方が長いです。
赤ちゃんは6〜7ヶ月で離乳するので、その時期には葉っぱに慣れやすいように柔らかな葉を用意するなど、気をつけています。
テングザルの子育て事情
ズーラシアはテングザルの繁殖に何度も成功しています。テングザルの子育て事情について質問しました。
テングザルの赤ちゃんの特徴
ズーラシアでは2021年4月4日にメスの赤ちゃんキキをキナンティが。同じく2021年12月25日にジャスミンがオスの赤ちゃんナタルを産んでいます。ナタルは、誕生日が12月25日であることから、インドネシア語でクリスマスを意味する愛称になったのだそうです。
赤ちゃんはまだ鼻は小さくて、産まれた時は顔の色が黒っぽいんです。おとなになると顔の色はうすだいだい色になっていきます。
赤ちゃんの時の方が黒いというのは少し意外でした。人間だと大きくなると日に焼けて黒くなりますよね(笑)。
赤ちゃんのときは母親に抱っこされていることが多いですね。
キキの時はジャスミンに抱っこさせることのなかったキナンティですが、ナタルに関しては母親のジャスミンに子育てを任せているようです。この辺は人間の子育てに感覚が近いのかなと感じています。
ナタルが産まれた時は、メスの間で争奪戦になるかもしれないとちょっと心配もしたのですが、そんなことはなかったので安心しました。
テングザルの子育てとは?
テングザルの子育ては、群れのメス同士の連携がみられるのだと渡邊さんは言います。
テングザルは基本的にとても眠っている時間の長い動物です。
キキが産まれた時、昼間キキが遊びたがることが多くて。そんな時は誰かしらが交代で必ず起きていてキキの様子を見ているんです。群れ全体でちゃんと連携して子育てするんですよ。
群れのメスが協力して子育てするというのはとても素敵なお話ですね。
エミもココが産まれた時は自分で世話をする!って感じで、エミがココを抱っこしたがってもキナンティが奪い返すというような場面が見られたんです。
でもキキが産まれてからは、キキをジャスミンが抱っこしようとするとキナンティは怒るんですが、エミがキキを抱っこすると怒らないんですよ。
ココの時にエミが学んだことをキナンティはちゃんと認めていて、エミには任せられると思ってるみたいですね。
テングザルを観るならココ!
普段からテングザルを見ている飼育スタッフだからこそ知っている、テングザルの魅力について渡邊さんに聞きました。
テングザルの意外な一面とは?
なかなか知ることのない、テングザルの意外な一面について話してもらいました。
テングザルの全てがかわいいんですが、特に素敵だと思うのは、群れのメンバーを守るためにお互いを気にかけているところです。
なんだか聞いているだけでほっこりしてしまうお話ですね。どんな時に渡邊さんはそれを感じるのでしょうか?
キナンティが外に出ている時に、ゲンキが寝室に入っていたとします。そうすると寝室からじっと、外にいるキナンティをゲンキが見ているんです。
離れた場所にいても、いつも仲間を気にして見ている姿は本当にかわいくて愛おしいですよ。
テングザルのチャームポイントを教えて!
テングザルを観るときに、特に観て欲しいポイントについてもお話してもらいました。
オスのテングザルはとてもジェントルマンなんです。テングザル同士で、かみついたりなどの直接的なケンカをするようなことはありません。口を開けての威嚇や、木を揺らして大きな音をたてて威嚇することはありますが、とても穏やかで優しい動物です。
手先も器用で、ピーナッツを手渡しすると、ちゃんと指先を使ってピーナッツを手で優しく受け取ってくれます。
観ている人からもよく驚かれるくらい、優しく受け取ってくれるんですよ。
穏やかでいつもお互いを想い合う優しい動物テングザル
日本ではズーラシアでしか会うことのできない、テングザルについてお話を聞きました。
穏やかでとても優しく、いつもお互いを想い合っている動物だということを渡邊さんは教えてくれました。
ボルネオ島まで会いに行くのはなかなか難しいですが、絶滅危惧種に選定されているというテングザルに会いに、今度のお休みにはよこはま動物公園ズーラシアを訪れてみませんか?
◆施設情報
よこはま動物園ズーラシア
所在地:神奈川県横浜市旭区上白根町1175-1
入館料:一般800円・中人、高校生300円・小中学生200円・小学生以下無料 ※毎週土曜日は、小・中・高校生は無料(要学生証等)
営業時間:9:30〜16:30 ※入園は16:00まで
駐車場:普通車1回1,000円
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