- 盲導犬が活動するのはおよそ2歳から10歳まで
- 街で盲導犬を見かけても、盲導犬の気を引くようなことはせず、そっと見守る
- 盲導犬を連れている使用者が困っていたら、まず使用者に声をかける
- 盲導犬は引退後も愛情に包まれて一生を送る

視覚障がいのある人を支える犬『盲導犬』を知っていますか?
4月の最終水曜日は『国際盲導犬の日』です。2025年4月の最終水曜日は4月30日。この日にちなんで、盲導犬がどんなところで生まれてどんな訓練を受けて、どんな仕事をしているのかを紹介します。
今回は盲導犬について、その生い立ちや仕事内容・仕事を終えた後の生活までを日本盲導犬協会にお聞きしました。
◆取材・監修:公益財団法人 日本盲導犬協会
取材先・監修

公益財団法人 日本盲導犬協会
1967年8月に厚生省の認可を受け、日本で最初に設立された盲導犬育成団体。視覚障害者の自立と社会参加を推進するために、動物福祉の精神を尊重した盲導犬の育成・訓練、視覚障害リハビリテーション訓練などを行い、視覚障害者の福祉の増進と社会のバリアフリーの促進に寄与している。全国に4ヶ所の訓練センターを有し、200人以上の盲導犬ユーザー(使用者)がいる日本最大規模の協会。
盲導犬の活動期間はおよそ8年間

盲導犬は、繁殖犬と呼ばれる親犬から生まれた子犬が、訓練を経て盲導犬として育てられます。実際に盲導犬として活動するのはおよそ8年で、引退した後はボランティアの家や、引退犬のための施設で過ごすのだそうです。
そんな盲導犬の一生とはどのようなものなのでしょうか。
盲導犬になるまで

盲導犬の候補となる子犬は、生後2ヶ月までを母犬や兄弟犬と一緒に生活します。2ヶ月になると、1歳までの10ヶ月間を過ごすパピーウォーカーの家に移り、人から愛情をたっぷり注がれて育つのだそう。

パピーウォーカーの家で育つ期間は、社会性を身につけるための大切な期間です。
電車や車の音・雨や風の音・人混みの中など、人と一緒にさまざまな経験をすることで、社会の中で生活していくために必要なルールを覚えていくのです。



1歳を過ぎたあとはどのように過ごすのでしょうか?



1歳を過ぎると、訓練センターに戻って盲導犬になるための訓練が始まります。
訓練は人とのコミュニケーションのとり方を教えたり、実際に街に出て、電車やバスの乗り降り、交差点や踏切の横断など、使用者との生活に必要なことを教えていきます。
訓練の過程で3回の評価を行い、一頭一頭の性質を見極めます。訓練を経て実際に盲導犬になるのは3〜4割です。
訓練の過程で盲導犬には向かないと判断された場合は、キャリアチェンジして別の道を歩むのだそうです。
キャリアチェンジした犬の多くは、一般の家庭に引き取られ、ペットとして生活をします。中には盲導犬のイベントで活躍するPR犬になることもあります。
基本の仕事は3つ!盲導犬としてのお仕事内容


盲導犬はどのようにして視覚障害のある人をサポートするのでしょうか?盲導犬のお仕事には基本の3つの仕事があるのだそうです。
- 曲がり角で止まる
- 段差で止まる
- 障害物を避ける
この3つの内容を使ってどのように行動するのか、盲導犬のお仕事について聞きました。



盲導犬を連れていると、使用者の行きたい場所までカーナビのように連れて行ってくれると、思っている方もいるかもしれませんが、そういうわけではないんです。
使用者は自分の頭の中に目的地までの地図を描いて、盲導犬が教えてくれる曲がり角、歩道と車道の段差、障害物などの情報をもとに進む方向を判断して、犬に指示をします。



犬に指示を出す?



使用者の頭の中の地図で「3つ先の角を右に曲がって次の角を左に行った場所に行きたい」場合、使用者は盲導犬の教えてくれる角の3つ目で右に曲がる指示を出します。次の角で左に曲がる指示を出して目的地に着く、という感じになります。
途中に自転車などの障害物があった場合は盲導犬が避けたり、とまったりして教えてくれます。
なるほど。人と盲導犬と、それぞれの役割があって共同作業で歩いているんですね。
盲導犬を引退したら
家族として、パートナーとして過ごす時間にも限りがあります。盲導犬はおよそ10歳でお仕事を引退するのだそうです。引退後の盲導犬の生活について話してもらいました。



およそ10歳で盲導犬は引退するのですが、犬の10歳は人間でいうと60歳くらいです。人間もそうですが、60歳ってまだまだ元気ですよね。
引退した後は、引退犬飼育ボランティアの家で家族の一員として過ごしたり、富士宮市にある日本盲導犬総合センター『盲導犬の里富士ハーネス』で仲間たちとのんびり過ごしたりして暮らします。



引退犬の飼育ボランティアというのがあるのですか?



あります。
盲導犬を引退した犬をご家庭に迎え、最後まで世話をしていただきます。そのほか盲導犬の親犬を飼育いただくボランティアなど、たくさんのボランティアに支えられています。
飼育系のボランティアには4つの種類があるそうです。
- パピーウォーカー
- 繁殖犬飼育ボランティア
- 引退犬飼育ボランティア
- キャリアチェンジ犬飼育ボランティア
ボランティアの詳細について、気になった人は日本盲導犬協会のHPを参照してください。
盲導犬に向いている犬ってどんな犬?


盲導犬や介助犬には、レトリバー種の犬が多いようなイメージがありますが、実際に盲導犬として活躍しているのはどんな犬がいるのでしょうか?盲導犬の適性が高い犬種にはどのような犬種があるのか、聞きました。
盲導犬になりやすい犬種・レトリバー種の特徴
日本盲導犬協会では、ラブラドールレトリバー・ゴールデンレトリバー、その2犬種のミックスが盲導犬として活躍しているのだそうです。なぜレトリバー種の犬は盲導犬に向いているのか、どんな特徴があるのかを聞きました。



盲導犬には温厚で、人と一緒に楽しんで作業ができること、いろいろな場所に行ってもあまり動じず、順応性が高いといった性格の犬が向いています。
ハーネスを着けたとき、人とちょうどよいバランスになるよう、ある程度の体格も必要ですので、性格・体格の両面からレトリバー種は盲導犬に向いているんです。
温厚で人が大好きな性格のレトリバー種だから、盲導犬としてこんなにも愛されているのですね。
盲導犬になる・ならないはいつ判断される?
盲導犬として活躍できるのは3〜4割なのだそうです。ではその判断はどの時点でされるのでしょうか。



キャリアチェンジの判断は、訓練課程で、複数の訓練士が評価して行います。
性格的な向き・不向きは先ほどお話した通りです。
それ以外にも健康面で課題があったり、他の動物への興味が強すぎたり、盲導犬としていろいろな場所に行くことで負荷を感じる犬などは盲導犬には向かないですね。



どのような場合にキャリアチェンジと判断されるのでしょうか



ラブラドールと一言でいっても、犬一頭一頭性格が全く違います。それぞれの犬に合ったやり方で教え、訓練を通じて盲導犬に向いているかどうかを判断していきます。 向かない性格の犬を、無理に盲導犬にすることはしません。
なるほど。犬それぞれの性格や行動を総合的に判断して、育成されているのですね。
盲導犬の使用者の家に行ってからの生活


使用者との共同訓練を経て、盲導犬と認定されると、実際に使用者との生活が始まります。盲導犬は使用者と一緒にいることで初めて『盲導犬』として認められるのだそうです。そんな盲導犬の生活とはどのようなものなのでしょう。
視覚障がいのある人の外出をサポートする
盲導犬の一番大きな仕事は、見えない・見えにくい人と一緒に出かけ、歩行のサポートをすることです。実際にはどのような活動なのでしょうか。



使用者が近所をお散歩する際はもちろん、通勤・通学・通院などにも同伴します。こうした活動を想定して、訓練では電車やバスの乗降訓練をするほか、排泄の訓練もします。
声掛けで排泄を促し、特別なベルトと袋を使って、排泄物を落とさないで室内でもできるようにしています。



レトリバー種の犬はペットとしても人気があるため、散歩中のレトリバーもいると思うのですが、盲導犬を見分ける方法はありますか?



盲導犬は必ず白または黄色のハーネスをつけていて、見える場所に『盲導犬』と表示しています。
このハーネスをつけた犬がテンポよく歩いている時は、そっと見守ってください。
もともと人が大好きな犬たちなので、声をかけたり触ったりすると、気を取られて角や段差を見逃してしまうかもしれません。
確かに、人も仕事に集中しているときに横から声をかけられたり、食べ物を差し出されたら集中力が途切れてしまいますよね。ハーネスをつけた盲導犬をみかけたら、気を引くようなことはせず、見守るようにしましょう。
盲導犬は、仕事をしているときは必ずハーネスをつけ、盲導犬であることを表示して歩くのだそうです。それは盲導犬用のハーネスをつけて歩いている犬は『仕事中』であるということ。人が仕事中の犬の邪魔をしないよう、気をつけたいものですね。
家の中でも盲導犬のお仕事はあるの?
外出から家に戻ってからの盲導犬はどのように過ごすのでしょうか?家の中での盲導犬について話してもらいました。



家の中での仕事はありません。
盲導犬は、家に帰ったらハーネスを外して、ペットと同じように使用者と遊んだり、甘えたり、家族の一員として過ごします。
家の中のことは使用者が把握しているので、盲導犬の役割はないのです。盲導犬のごはんやトイレ・ブラッシング・歯磨きなどの世話は使用者自身がやります。
家の中では普通のペットとなんら変わらずに生活しているのですね。
街で盲導犬を見かけたらどうするのが正しいの?


街で盲導犬を見かけた場合に、下記のことはしないでほしいそうです。
- 盲導犬に声をかけたり、前からじっと目を見たりしない
- 食べ物を見せたりあげたりしない
- 盲導犬を撫でたり、ハーネスをさわったりしない
- 自分のペットと挨拶させようとしたり近づけたりしない
- 許可なく盲導犬を撮影しない



最初にしていただきたいことは『見守ること』。使用者の様子を見守ってください。
もし道に迷ったり、困っている様子であれば、「何かお困りですか」とユーザーへの声かけをお願いします。
いきなり手やハーネスをひっぱったりしないようお願いいたします。



いきなり体にふれられたら、視覚に障がいがなくても驚いてしまますよね。



もうひとつお願いがあります。
盲導犬には信号の色はわからないので、道を横断するときは、ユーザーが車の流れや周囲の音をたよりに判断しています。ですから、盲導犬の使用者が信号待ちをしているときは「今、赤ですよ」「青に変わりましたよ」と話しかけてもらえると助かります。
盲導犬を見かけた時は、そっと見守ること。使用者が困っている様子だったら、「何かお困りですか」と人に声をかけることを覚えておきましょう。
また、犬がかわいいからと、無断で撮影をするのはマナー違反です。盲導犬だからといって、使用者に無断で撮影してはいけないのは、常識として当たり前のこと。
社会の一員として、当たり前の行動を心がけましょう。
目的地につくまでの苦労を半分に、ついた時の喜びを2倍に


「目的地につくまでの苦労を半分に、ついた時の喜びを2倍にしてくれるのが盲導犬」
これはある盲導犬使用者の言葉なのだそうです。
盲導犬は歩行のサポートをするだけでなく、ユーザーのパートナーとなり、人生の一部となって生活を彩ってくれる存在なのですね。引退後も、ボランティアさんや施設のスタッフと一緒に、生涯を人の愛情に包まれて過ごすという盲導犬。
『視覚障がいのある人が、社会の中で当たり前に活動ができる環境となるよう、社会の一員としてできることをサポートする』
一人ひとりがこの気持ちを持てることで、優しい社会が作れるのかもしれませんね。
施設情報


公益財団法人 日本盲導犬協会
目の見えない人、目の見えにくい人が、
行きたい時に、行きたい場所へ行くことができるように
私たちは、安全で快適な盲導犬との歩行を提供します。
この使命のもと、盲導犬の育成のほか、視覚障害リハビリテーションを行っている。全国に4ヶ所の訓練センターを有し、200人以上の盲導犬ユーザー(使用者)がいる日本最大規模の協会。