- 極寒の雪原でも立ち止まらずに走り続けられる、樺太犬ならではの高い耐寒性と持久力
- 犬ぞりで進むために培われた、仲間と息を合わせる協調性と状況を読む判断力
- 樺太犬たちは物資を運び、人の移動を支え、南極観測の現場を足元から支えていた

1月14日は『タロとジロの日』。
と聞いても、ピンとこない人もいるかもしれません。
タロとジロとは、今から60年以上前、南極の昭和基地で奇跡的に生還を果たした二頭の犬の名前です。1959年、氷と雪に閉ざされた極地で、人間のいない状態で1年以上も生き抜いた彼らの姿は、日本中に驚きと感動を与えました。
この話は、ただの『奇跡のサバイバル』ではありません。
そこには、かつて人間の相棒として極地を支えた『樺太犬(からふとけん)』という犬種の存在、そして日本の南極観測の挑戦の歴史が深く関わっています。
今回は、1月14日の記念日にちなみ、タロとジロの物語と、彼らが属していた樺太犬という犬種について、あらためてたどってみましょう。
南極で生きぬいた奇跡の兄弟、タロとジロ

タロとジロは、1959年、南極の昭和基地で発見された二頭の樺太犬の名前です。彼らは、人間がいない極寒の地で、1年以上も生き延びていました。
当時の南極は、今のように情報も物資も十分ではありません。氷点下50度を下回ることもある環境で、動物が生き残るなど、ほとんど想像されていませんでした。それでもタロとジロは、雪と氷に覆われた大地で生き抜いたのです。
この出来事は新聞やラジオを通じて日本中に伝えられ、多くの人が驚き、そして強く心を打たれました。しかし、二頭はなぜ南極に居たのか、そして生き延びることができたのか。
そこには、彼らが属していた『樺太犬』という犬種の存在が深く関わっています。
南極観測船『宗谷』とともに。第一次南極観測隊の挑戦

1957年、日本は初めて南極大陸に昭和基地を建設し、気象や地質などの科学観測を行うことを目的に、南極観測隊を派遣しました。観測船『宗谷』は、日本の戦後復興と科学技術の象徴でもありました。
しかし南極は、人間にとってあまりにも過酷な場所です。吹き荒れるブリザード、見渡す限りの氷原、限られた燃料と物資。当時の技術では、すべてが手探りでした。
そこで重要な役割を担ったのが、タロとジロを含む15頭の樺太犬です。彼らはソリを引き、物資を運び、人間の移動を支えました。極地では欠かせない、いわば『隊の一員』でした。
ところが、観測隊は想定外の事態に直面します。悪天候のため第二次越冬隊が南極に到達できず、第一次隊はやむを得ず撤退を決断します。しかし、撤退に際しては、犬たちを連れて帰る余裕はなく、15頭は昭和基地に残されました。
翌年1959年、再び南極を訪れた観測隊が基地に近づいたとき、信じられない光景を目にします。雪原の中を走り寄ってきた二頭の犬がいたのです。それが、タロとジロでした。
樺太犬とは?極寒を生き抜くために生まれた犬

タロとジロが生き延びた理由を考えるとき、欠かせないのが『樺太犬』という犬種です。
樺太犬は、北海道からサハリン(旧・樺太)にかけて生息していた日本犬の一種です。樺太犬は、雪と氷の上での移動に特化した『ソリ犬』として長く活躍してきました。
犬ぞりとは、複数の犬が一列、または扇状に並び、ソリにつながれて人や荷物を引いて進む移動手段です。深い雪に足を取られることなく、長距離を安定して進めるため、かつては極寒地域で欠かせない存在でした。
樺太犬は、寒さに強い体と粘り強い持久力を備えており、吹雪の中でも一定のペースで走り続けることができます。
また、犬同士が息を合わせて進む必要があるため、協調性や判断力も求められます。こうした能力が、南極観測のような過酷な環境で大きな力を発揮したのです。
吹雪の中でも走り続ける、樺太犬の持久力
樺太犬の最大の特徴は、極寒への適応力です。
厚く密集した二重の被毛、寒さに強い体質、雪の上でも沈みにくい足。長時間動き続けられる持久力も備えています。
見た目はがっしりとした体格で、立ち耳と鋭い目つきが印象的です。
南極という極限環境で、タロとジロが生き延びた背景には、こうした樺太犬ならではの身体的特性がありました。
忠誠と野性のはざまで。樺太犬の性格と能力
樺太犬の強さは、体だけではありません。彼らは非常に賢く、仲間との結びつきを大切にする犬です。
人間に従順でありながら、状況を見て自ら判断する独立心も持っています。ソリ犬として働く中で『命令を待つだけでなく、自分で考える力』が求められてきました。
タロとジロが生き延びたのも、この性格が大きかったと考えられています。鎖を外し、吹雪を避け、食べ物を探し、互いに行動を共にする選択の積み重ねが、生存につながったのではないでしょうか。
樺太犬は、完全に人に依存する存在ではありません。人とともに生きながらも、自然の中で生き抜く力を失わなかった犬。それが、彼らの本質です。
タロとジロの子孫は今……樺太犬を守る人たち

現在、樺太犬は純血の犬種としてはすでに絶滅したと考えられています。しかし、その血統自体が完全に途絶えたわけではなく、雑種化や他犬種との交配を通じて、形を変えながら受け継がれている可能性があるとされています。
北海道の稚内や名寄などでは、かつての樺太犬の特徴を色濃く残す犬たちに注目し、記録や飼育を続ける人々がいます。タロとジロに連なる血を感じさせる犬たちも、そうした場所で大切に育てられてきました。
樺太犬は、もともと強い気質と豊富な運動量を持ち、広い環境と深い理解を必要とする犬です。その性質ゆえに、現代の飼育環境では受け継ぐことが簡単ではありません。
それでも「あの南極を生き抜いた犬たちの系譜を途絶えさせたくない!」という思いから、静かに向き合い続ける人々がいます。
タロとジロの物語は、過去の出来事ではありません。今も生きる犬たちと、それを支える人々へと、確かにつながっているのです。
過去から未来へ、樺太犬が教えてくれること

※画像はイメージです
1月14日の『タロとジロの日』は、南極で生き延びた二頭の犬の記念日ですが、その背景には日本の南極観測の挑戦、そして樺太犬という犬種の長い歴史が息づいています。
彼らは、ただの『南極の英雄』ではなく、人と自然がともに生きてきた証でもあります。南極観測隊がいたからこそ彼らが南極へ行き、樺太犬という犬種がいたからこそ、タロとジロの奇跡は生まれました。
もし今回初めて『タロとジロ』を知ったなら、ぜひ一度映画『南極物語』を見たり、稚内の「樺太犬記念碑」を訪ねてみてください。氷の世界を駆けた二頭の姿が、今も静かに私たちを見つめています。




