- ナポレオンフィッシュは額のコブが特徴的な、体長2mを超える巨大なベラの仲間
- メスからオスへ性転換し、強力な顎で硬い貝やオニヒトデも食べる
- 絶滅危惧種だが、日本各地の水族館で優雅に泳ぐ姿を観察できる

水族館の大水槽を優雅に泳ぐ、ひときわ大きな魚。額がこぶのように盛り上がった独特のシルエットは、一度見たら忘れられない存在感があります。それがナポレオンフィッシュです。
名前の由来は、フランス皇帝ナポレオンがかぶっていた帽子に似ているからと言われています。サンゴ礁に暮らすこの魚は、体長2mを超えることもある大型魚です。穏やかな性格で人にも慣れやすく、ダイバーたちからも愛されています。
この記事では、ナポレオンフィッシュの基本情報や興味深い生態、そして日本国内で実際に会える水族館を5ヶ所紹介します。巨大で優雅な姿を間近で観察すれば、海の豊かさをより深く感じられるはずです。
ナポレオンフィッシュとはどんな魚?大きさや特徴など基本情報

ナポレオンフィッシュは見た目のインパクトが強く、水族館でも人気者です。ここでは、この魚がどんな仲間に分類され、どこに暮らしているのか、そしてなぜ保護が必要なのかを解説します。
ナポレオンフィッシュは巨大なベラの仲間
ナポレオンフィッシュは、正式には『メガネモチノウオ』という名前で呼ばれる魚です。ベラ科に属しており、ベラの仲間としては世界最大級のサイズを誇ります。
成魚になると体長は1.5〜2mに達し、体重は200kgを超える個体も確認されているほどです。最大の特徴は、成長とともに額が盛り上がってコブ状になること。このコブがナポレオンの帽子に似ていることから、英名で『Napoleon wrasse(ナポレオン・ラス)』と呼ばれるようになりました。
体色は青緑色を基調とし、目の周りには網目状の模様が入ります。この模様が眼鏡をかけているように見えることから、和名では『メガネモチノウオ』と名付けられました。厚い唇と大きな目も印象的で、どこかユーモラスな表情をしています。
生息地や生息環境は?
ナポレオンフィッシュは、インド洋から太平洋の熱帯・亜熱帯海域に広く分布しています。日本では沖縄や小笠原諸島など、温かい海域で観察できる魚です。
主な生息環境はサンゴ礁で、水深1〜30メートルほどの浅い場所を好みます。基本的には単独で行動することが多いですが、繁殖期にはペアで見られることもあります。
透明度の高い海を優雅に泳ぐ姿は、ダイバーにとって憧れの光景です。人懐っこい個体も多く、近づいてくることもあるため、海の中での出会いは特別な体験となるでしょう。
活動リズムと食性は?
ナポレオンフィッシュは昼行性の魚です。日中はサンゴの間をゆったりと泳ぎながら貝類や甲殻類を探します。大きな体を揺らしながら、岩をひっくり返したり、サンゴの隙間に頭を突っ込んだりする姿が観察されています。夜になると岩陰やサンゴの隙間で眠る生活を送っているのです。
餌は肉食性で、貝類・ウニ・ヒトデ・甲殻類などを好んで食べます。時には小魚を捕食することもありますが、基本的には底生生物が中心です。
以前、オーストラリアの一部の海では、ナポレオンフィッシュにゆで卵を与えて餌付けする光景がよく見られました。人に慣れやすく、好奇心も旺盛な魚なので、ダイバーに寄ってくる姿が人気だったのです。ただ、ゆで卵によって健康を損ねてしまう例が報告されてからは、ほとんどの地域でこの餌付けは行われなくなりました。
絶滅危惧種に指定されている
ナポレオンフィッシュは現在、国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧種(EN)に分類されています。数を減らしている主な原因は、乱獲と生息地の破壊です。
特に東南アジアでは高級食材として珍重され、大量に捕獲されてきました。成長が遅く繁殖力も高くないため、一度減った個体数はなかなか回復しません。また、サンゴ礁の破壊や海水温の上昇も、生息環境の悪化につながっています。
現在はワシントン条約(CITES)によって国際取引が規制されており、保護活動が進められている状況です。水族館で見られる個体の多くは、条約以前に輸入されたものや、国内で捕獲された個体です。
ナポレオンフィッシュの知られざる生態

巨大な体を持つナポレオンフィッシュですが、その生態にはまだまだ驚きの特徴が隠されています。ここでは、食事の方法や性別にまつわる不思議な生態について詳しく見ていきましょう。
強力な顎と歯で硬い獲物も食べる
ナポレオンフィッシュは肉食性で、サンゴ礁に暮らすさまざまな生き物を食べています。主な餌は貝類・甲殻類・ウニ・ヒトデなどです。
特筆すべきなのは、その強力な顎と歯の構造です。厚い唇の奥には頑丈な歯が並んでおり、硬い貝殻やウニのトゲもバリバリと噛み砕いてしまいます。さらに喉の奥には『咽頭歯』と呼ばれる第二の歯があり、砕いた餌をすりつぶして消化しやすくする仕組みです。
驚くべきことに、毒を持つオニヒトデも平気で食べてしまいます。多くの魚が避けるこの生き物を捕食できるのは、ナポレオンフィッシュならではの能力です。
オスとメスで姿が変わる『性転換する魚』
ナポレオンフィッシュは、『性転換』を行う魚として知られています。すべての個体はメスとして生まれ、若いうちはメスとして過ごします。体色は比較的地味で、額のコブも目立ちません。しかし成長して大きくなると、一部の個体がオスへと性転換するのです。
オスになると、額のコブが大きく盛り上がり、体色もより鮮やかな青緑色に変化します。体格も一回り大きくなり、メスを引き寄せるための立派な姿へと変貌を遂げます。このような性転換は『雌性先熟』と呼ばれ、ベラ科の魚に多く見られる特徴です。
なぜメスからオスへと性転換するのかというと、繁殖効率を高めるためだと考えられています。小さいうちはメスとして卵を産み、大きく強くなってからオスになることで、より多くのメスと繁殖できるという戦略です。
ナポレオンフィッシュに会える日本の水族館5選

ここからは、ナポレオンフィッシュを実際に見られる日本の水族館を紹介します。それぞれの施設で展示の工夫が異なるので、訪れる際の参考にしてください。
【北海道】おたる水族館
おたる水族館は、北海道の冷たい海に暮らす生き物だけでなく、熱帯の魚たちも幅広く展示している施設です。『南の魚たちエリア』では、ナポレオンフィッシュが悠々と泳ぐ姿を観察できます。
北国にありながら熱帯の海を再現した展示エリアがあり、色鮮やかなサンゴ礁の魚たちとナポレオンフィッシュが共存する様子が見どころです。大きな体でゆったりと移動する姿は、見ているだけで癒されます。
| 所在地 | 北海道小樽市祝津3丁目303番地 |
| アクセス | JR「小樽駅」よりバスで約25分 「小樽IC」より車で約15分 |
| 営業時間 | 通常営業:9:00~20:00(時期により変動あり) 冬期営業:10:00~16:00 |
| 休館日 | 不定期のため要確認 |
| 入場料金 | 大人(高校生以上):1,300円 小人(小中学生):500円 幼児(3歳異常):300円 |
| 駐車場台数 | 約1,000台 |
【東京都】葛西臨海水族園
葛西臨海水族園は、東京湾に面した都内屈指の規模を誇る水族館です。『世界の海』エリアの『南シナ海』水槽でナポレオンフィッシュが展示されています。
繁殖を目指し、複数の個体を同じ水槽で飼育されているので見ごたえがあります。いつか、ナポレオンフィッシュの赤ちゃんが見られるかもしれません。都心からアクセスしやすく、気軽に訪れられるのも魅力でしょう。
| 所在地 | 東京都江戸川区臨海町6-2-3 |
| アクセス | 京葉線「葛西臨海公園」駅下車、徒歩5分 首都高速道路湾岸線 葛西ICより約10分 |
| 営業時間 | 9:30~17:00 |
| 休館日 | 水曜日、年末年始 |
| 入場料金 | 一般:700円 中学生:250円 65歳以上:350円 |
| 駐車場台数 | 150台(臨時駐車場あり) |
【愛知県】名古屋港水族館
名古屋港水族館は、日本最大級の延床面積を持つ水族館です。南館の『サンゴ大水槽』でナポレオンフィッシュに出会えます。
自然光が射し込み、美しいサンゴでレイアウトされた水槽で、自然な仕草のナポレオンフィッシュを観察できるのが特徴です。シャチやイルカのパフォーマンスも人気なので、一日たっぷり楽しめる施設です。
| 所在地 | 愛知県名古屋市港区港町1-3 |
| アクセス | 地下鉄名港線「名古屋港」駅下車 3番出口より徒歩5分 名古屋高速道路「港明」ICより約10分 |
| 営業時間 | 9:30~17:30(季節により変動あり) |
| 休館日 | 月曜日 |
| 入場料金 | 大人(高校生以上):2,030円 小・中学生:1,010円 幼児(4歳以上):500円 |
| 駐車場台数 | 800台(ガーデンふ頭駐車場) |
【福岡県】マリンワールド海の中道
マリンワールド海の中道は、博多湾に面した九州屈指の水族館です。2Fの『奄美のサンゴ礁』水槽でナポレオンフィッシュが展示されています。太陽の光が入り、明るい水槽で気持ちよさそうに泳ぐ姿が観察できます。
同じくらいのサイズの大型のハタの仲間、タマカイと同居しており、迫力満点です。
| 所在地 | 福岡市東区大字西戸崎18-28 |
| アクセス | JR香椎線「海ノ中道駅」より徒歩5分 都市高速6号線アイランドシティ出口より約15分 |
| 営業時間 | 通常営業時間:9:30~17:30 GW、夏季:9:30~21:00 12月~2月:10:00~17:00 |
| 休館日 | 2月第一月曜とその翌日 |
| 入場料金 | 大人(高校生以上):2;500円 シニア割引(65歳から):2,200円 小・中学生:1,200円 幼児(3歳以上小学生未満):700円 |
| 駐車場 | 約400台 |
【沖縄県】沖縄美ら海水族館
沖縄美ら海水族館は、世界的に知られる巨大水槽『黒潮の海』を持つ水族館で、多くの大型魚を展示しています。ナポレオンフィッシュは『熱帯魚の海』で展示されています。この水槽は、沖縄の強烈な光が差し込み、白い砂地や岩場が広がり、沖縄の海そのものです。ナポレオンフィッシュはもちろん、色とりどりの熱帯魚も展示され、とても賑やかです。
給餌の時間も公開されているので、タイミングが合えば迫力ある摂餌シーンが見られるかもしれません。
| 所在地 | 沖縄県国頭郡本部町石川424 |
| アクセス | 那覇空港より高速道路で約2時間 |
| 営業時間 | 通常期:8:30~18:30(入館17:30まで) 繁忙期・GW・7月下旬~8月は20:00または21:00まで延長あり |
| 休館日 | なし(台風等による臨時休館除く) |
| 入場料金 | 大人:2,180円 高校生:1,440円 小・中学生:710円 |
| 駐車場 | 約1,900台 |

巨大で優雅!ナポレオンフィッシュに会いにいこう!

ナポレオンフィッシュは、額のコブと青緑色の体が印象的な、サンゴ礁を代表する魚です。体長2mを超える巨体でありながら、穏やかな性格で人懐っこい一面も持っています。メスからオスへと性転換するという驚きの生態も持っており、知れば知るほど魅力的な生き物だといえるでしょう。
残念ながら乱獲や環境破壊によって数を減らしており、現在は絶滅危惧種に指定されています。野生の個体に出会える機会は限られていますが、日本各地の水族館では大切に飼育・展示されています。水族館を訪れた際には、ぜひナポレオンフィッシュの前で足を止めてみてください。その優雅な泳ぎと不思議な生態に、きっと心奪われるはずです。




