Bluefin Tuna breaching in Torbay, Devon on Monday 9 October 2023

止まると死ぬ? マグロの睡眠の謎と代表的な種類を紹介

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まとめ
  • マグロはラム換水という呼吸法のため、泳ぎを止めると酸素を取り込めなくなる
  • 睡眠方法は謎が多いが、脳を半分ずつ休ませる『半球睡眠』の可能性がある
  • 世界には8種類のマグロがおり、大きさや生息域、味わいがそれぞれ異なる
Bluefin Tuna breaching in Torbay, Devon on Monday 9 October 2023

寿司や刺身でおなじみのマグロですが、その生態には不思議な点がたくさんあります。マグロは時速80kmを超える速度で泳ぐことができる高速遊泳魚で、世界中の海を回遊しながら暮らしています。マグロの身体には、泳ぎ続けるためのさまざまな仕組みが備わっており、ほかの魚にはない独特な生態を持つ魚です。

この記事では、マグロの基本的な特徴から、泳ぎ続ける理由、謎に包まれた睡眠方法、そして代表的な種類までを詳しく解説していきます。身近な魚でありながら意外と知られていないマグロの生態を、一緒に見ていきましょう。

目次

マグロはどんな魚? 基本情報を紹介

マグロは世界中の海で暮らす大型の回遊魚で、日本では古くから食用として親しまれてきました。スズキ目サバ科に分類され、カツオやサバと同じグループに属しています。まずはマグロの基本的な特徴や生態について、解説します。

マグロとは? 大きさや見た目の特徴

マグロはサバ科マグロ属に分類される海水魚の総称で、世界には8種類のマグロが生息しています。日本でよく知られているのはクロマグロ・キハダマグロ・メバチマグロ・ビンナガマグロ・ミナミマグロなどです。

体の大きさは種類によって大きく異なります。最大種のクロマグロは全長3m、体重400kgを超える個体も記録されており、魚類の中でもトップクラスの大きさを誇ります。一方、ビンナガマグロは比較的小型で、全長1m前後、体重は20〜30kg程度です。

体型は紡錘形と呼ばれる流線型で、水の抵抗を受けにくい形をしています。背中は濃い青色、腹側は銀白色という配色が一般的で、これは海中で上からも下からも見つかりにくくするための保護色といわれています。尾びれは三日月型で非常に硬く、高速で泳ぐための推進力を生み出す役割を担っているのです。

マグロの生息地と回遊生活

マグロは世界中の温帯から熱帯の海域に広く分布しており、特定の場所にとどまらず広範囲を移動しながら生活しています。クロマグロの場合、太平洋を横断してアメリカ西海岸から日本近海まで回遊することが調査で明らかになりました。

回遊のパターンは季節や水温・餌の分布によって変化します。春から夏にかけては餌を求めて北上し、秋から冬には産卵のために南下するのが一般的な行動です。日本近海では、黒潮に乗って北上するマグロの群れが各地で漁獲されています。

生息する水深も幅広く、表層から水深500m以上の深場まで移動することがわかっています。餌を追って深く潜ることもあれば、体温調節のために浅い層に上がってくることもあり、三次元的に海を利用しているのが特徴です。

マグロの食性と泳ぎの速さ

マグロは肉食性で、イワシ・アジ・サバなどの小魚を主な餌としています。イカやエビなどの甲殻類も捕食しており、成長段階や生息域によって食べるものが変わるのも特徴です。大型のクロマグロになると、1日に体重の10〜15%もの餌を食べるといわれており、その食欲は非常に旺盛です。

泳ぐ速さはマグロの大きな特徴のひとつで、通常時でも時速30〜50km程度で泳いでいます。獲物を追いかけるときや外敵から逃げるときには、瞬間的に時速80kmを超えることもあり、海の中でも最速クラスの魚といえるでしょう。この速さは、流線型の体と強力な尾びれ、そして後述する体温調節機能によって実現されています。

高速で泳ぎ続けるためには大量のエネルギーが必要なため、マグロは常に餌を探しながら回遊しています。食べることと泳ぐことが密接に結びついており、マグロの生態を理解するうえで欠かせないポイントです。

マグロはなぜ泳ぎ続ける?その理由とは?

『マグロは止まると死ぬ』という話は有名ですが、これは単なる噂ではなく科学的な根拠があります。マグロの体には泳ぎ続けなければ生きていけない仕組みが備わっており、休むことすら簡単ではありません。ここでは、その理由を詳しく解説していきます。

止まると呼吸ができない? ラム換水のしくみ

マグロが泳ぎ続ける最大の理由は、呼吸の仕組みにあります。多くの魚は口を開閉してエラに水を送り込み、酸素を取り込んでいますが、マグロはこの方法をほとんど使いません。代わりに『ラム換水』と呼ばれる独特な呼吸法で酸素を得ているのです。

ラム換水とは、泳ぎながら口を開けておくことで、水流を利用してエラに新鮮な水を送り込む方法を指します。高速で泳ぐマグロにとっては効率的な呼吸法ですが、止まってしまうと水がエラを通らなくなり、酸素を取り込めなくなってしまいます。

つまり『止まると死ぬ』という話は、呼吸ができなくなるという意味では事実といえるでしょう。ただし、完全に動きを止めなければ問題ないため、ゆっくり泳いでいる状態でも呼吸は可能です。正確には『止まると死ぬ』というより『泳ぎ続けなければ呼吸できない』という表現が適切かもしれません。

泳ぎ続けないと沈んでしまう体の構造

呼吸以外にも、マグロが泳ぎ続けなければならない理由があります。それは浮力の問題で、マグロは浮き袋がほとんど発達していないのです。

一般的な魚は浮き袋に空気を出し入れすることで、水中での浮き沈みを調節しています。しかしマグロの浮き袋は非常に小さく、体を浮かせる機能をほぼ果たしていません。そのため、泳ぐのをやめると体が沈んでしまう構造になっているのです。

マグロは胸びれを広げて揚力を得ながら泳ぐことで、体が沈むのを防いでいます。飛行機が翼で揚力を得て空中に浮かぶのと同じ原理といえるでしょう。この仕組みのおかげで高速遊泳に適した体を維持できる反面、泳ぎを止められないという制約も生まれています。

高速遊泳を支える体温調節機能

マグロには、他の多くの魚にはない特殊な能力があります。それは体温を周囲の水温より高く保てるという機能で、これが高速遊泳を可能にしている要因のひとつです。

通常、魚類は変温動物であり、体温は周囲の水温とほぼ同じになります。しかしマグロは『奇網(きもう)』と呼ばれる特殊な血管構造を持っており、筋肉で発生した熱を体外に逃がさず保持できるのです。この仕組みにより、体の中心部は水温より10℃以上高くなることもあります。

体温が高いと筋肉の働きが活発になり、より速く力強く泳ぐことが可能になります。冷たい深海に潜っても運動能力が落ちにくいのは、この体温調節機能のおかげでしょう。ただし、体温を維持するためには常に泳いで熱を生み出す必要があり、これもまた泳ぎ続ける理由のひとつとなっています。

マグロはどうやって眠るのか? 不思議な睡眠の秘密

泳ぎ続けなければ生きられないマグロですが、睡眠はどうしているのでしょうか。人間のように横になって眠ることは当然できませんし、完全に止まることも不可能です。ここでは、マグロの不思議な睡眠方法について、現在わかっていることを紹介します。

泳ぎながら眠る『半球睡眠』の可能性

マグロの睡眠については、まだ解明されていない部分が多く残っています。有力な仮説のひとつが『半球睡眠』と呼ばれる眠り方で、イルカやクジラなど一部の海洋哺乳類で確認されている方法です。

半球睡眠とは、脳の左右どちらか半分ずつ交互に眠る睡眠法を指します。片方の脳が眠っている間、もう片方は覚醒しているため、泳ぎながらでも休息を取ることが可能になるのです。マグロがこの方法で眠っているかどうかは確定していませんが、泳ぎ続ける必要がある生態を考えると、可能性は十分にあるでしょう。

ちなみに、この半球睡眠は人間にはできないと考えられています。人間の脳は左右が密接に連携して働く構造になっており、片方だけを眠らせることは基本的に不可能です。私たちが眠るときは脳全体が休息モードに入るため、マグロやイルカのように動きながら眠ることはできません。

マグロの脳波を測定した研究はまだ少なく、野生の個体を長時間観察することも難しいため、睡眠の実態解明には時間がかかると考えられています。しかし近年は発信器を使った追跡調査なども進んでおり、今後新たな発見があるかもしれません。

速度を落として休む? マグロの休息方法

半球睡眠とは別に、マグロは泳ぐ速度を落として休息している可能性も指摘されています。通常時の時速30〜50kmに比べ、夜間は明らかに遅いペースで泳いでいることが観察されているのです。

完全に眠っているわけではなくても、ゆっくり泳ぐことで筋肉を休ませ、エネルギー消費を抑えているのではないかと考えられています。呼吸に必要な最低限の速度さえ維持していれば、体への負担は軽減できるはずです。

また、夜間は浅い層を漂うように泳いでいるという報告もあり、深く潜る日中とは行動パターンが異なることがわかっています。光の届かない暗い海では獲物を見つけにくいため、積極的に狩りをせず省エネモードに切り替えているのかもしれません。

いずれにしても、マグロの睡眠や休息については謎が多く『本当に眠るのか』という根本的な問いにも明確な答えは出ていません。泳ぎ続ける魚がどのように休んでいるのか、今後の研究に期待が寄せられています。

世界の海を泳ぐマグロの仲間たち

世界には8種類のマグロが生息していますが、日本で食用として流通しているのは主に5種類です。それぞれ大きさや生息域、味わいに違いがあり、用途も異なります。ここでは、日本人になじみ深い5種類のマグロについて、特徴を詳しく見ていきましょう。

最高級として知られる【クロマグロ】

クロマグロは『本マグロ』とも呼ばれ、マグロの中で最も高級とされる種類です。大西洋と太平洋に分布しており、日本近海で獲れるものは特に珍重されています。

体の大きさはマグロ類で最大級を誇り、全長3m・体重400kgを超える個体も存在します。寿命はおよそ20〜30年といわれ、背中の濃い青黒色が名前の由来で、腹側は銀白色をしているのが特徴です。大型になるほど脂がのり、特に腹部の『大トロ』は寿司ネタの最高峰として知られています。

漁獲量の減少から資源管理が厳しくなっており、近年は養殖クロマグロの生産も盛んになりました。完全養殖に成功した近畿大学の技術は世界的にも注目を集めています。

世界中で漁獲される【キハダマグロ】

キハダマグロは、その名の通り黄色いひれが特徴的な種類です。背びれや尻びれ、尾びれが鮮やかな黄色をしており、見分けやすいマグロといえるでしょう。

世界中の熱帯から温帯海域に広く分布しており、マグロ類の中で最も漁獲量が多い種類でもあります。体長は最大で2m程度、体重は200kg前後まで成長しますが、クロマグロほど大型にはなりません。寿命は7〜10年程度。価格が比較的手頃なため、日常的に食べられるマグロとして親しまれているのです。

缶詰でおなじみ【ビンナガマグロ】

ビンナガマグロは、胸びれが非常に長いのが最大の特徴です。この長い胸びれが『鬢(びん)』のように見えることから、ビンナガという名前がつけられました。

マグロ類の中では小型の部類に入り、全長は1m前後、体重は20〜30kg程度です。寿命は10〜15年といわれますが、20年生きるという説もあります。世界中の温帯海域に広く分布しており、日本近海でも漁獲されています。身は淡いピンク色で、加熱すると白っぽくなるため『ホワイトミート』として缶詰の原料に多く使われています。ツナ缶といえばビンナガマグロを指すことが多く、他のマグロに比べると脂が少なく淡白な味わいです。

南半球に多い【ミナミマグロ】

ミナミマグロは、南半球の冷たい海域に生息するマグロです。オーストラリア南部やニュージーランド周辺、南アフリカ沖などで漁獲されており、北半球にはほとんど回遊してきません。

体の大きさはクロマグロに次ぐ大型種で、全長2m以上、体重200kgを超える個体もいます。寿命は20年以上ともいわれており、別名『インドマグロ』」とも呼ばれ、日本では主にオーストラリアからの輸入品が流通しています。ただし資源量の減少が深刻で、漁獲制限が設けられているため、市場に出回る量は限られています。

ずんぐりした体型【メバチマグロ】

メバチマグロは、大きな目が特徴的なマグロです。目がパッチリと大きく見えることから『目鉢』という名前がつけられました。クロマグロやキハダマグロに比べると、やや丸みを帯びたずんぐりした体型をしています。

世界中の熱帯から温帯海域に分布しており、キハダマグロと並んで漁獲量の多い種類です。体長は最大2m程度、体重は150kg前後まで成長します。寿命は10〜15年ほどで、深い層を好む傾向があり、水深300m以上で漁獲されることも珍しくありません。

刺身や寿司ネタとして人気が高く、スーパーや回転寿司などで見かけるマグロの多くはメバチマグロです。価格と品質のバランスに優れ、最も身近なマグロのひとつといえます。

身近だけど不思議なマグロの生態を知ろう

マグロは日本人にとって非常に身近な魚ですが、その生態には驚くべき特徴がたくさん詰まっています。止まると呼吸ができなくなるラム換水の仕組み、浮き袋がほとんどないため泳ぎ続けなければ沈んでしまう体の構造、そして体温を高く保てる奇網という特殊な血管システム。これらすべてが組み合わさることで、マグロは海の中を高速で泳ぎ続ける生活を可能にしているのです。

睡眠についてはまだ謎が多く、半球睡眠をしているのか、速度を落として休んでいるだけなのか、はっきりとした答えは出ていません。

一生を泳ぎ続けることで命をつなぐマグロの姿は、私たちの想像を超えた生命力を感じさせてくれます。水族館の大水槽で休むことなく泳ぎ続けるマグロを見かけたら、その体に備わった驚きの仕組みを思い出してみてください。止まれない宿命を持ちながらも力強く海を回遊するマグロの生態は、知れば知るほど興味深いものがあるでしょう。

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のべじ

のべじ

元水族館職員の生き物好きライター。ダイビングガイド、農家などの経験を活かし生き物・自然・家庭菜園・料理など、さまざまな分野でライティングしています。

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