- 緑色の美しい光沢を持つタマムシは『ヤマトタマムシ』のこと
- 地味な外見のタマムシも多い!ヤマトタマムシ以外の種類も学んでみよう
- 工芸品・俳句・俗説など、タマムシと日本人の歴史は深い
※本記事内にはタマムシの画像が挿入されます。甲虫が苦手な人は注意してください。

『美しい虫』と聞いて、どのような生き物を思い描きますか?
アゲハチョウやルリボシカミキリなど、自然界には美しい虫が多く生息しています。そのなかでも外せないのが、緑色の光沢を持つ『タマムシ』です。
今回は、タマムシの特徴や種類などを解説します。古来から装飾品にも用いられ、宝石にも例えられるほど煌びやかな体を持つタマムシを、深く学んでいきましょう。

タマムシとはどんな虫?基本的な特徴と生態

ここでは、タマムシの基本的な特徴や生態を紹介します。虫が苦手な人から見ても、息を呑むほど美しい体を持つタマムシ。その光沢の秘密やライフスタイルについて深掘りしていきます。
緑色の光沢が美しい甲虫
タマムシは、緑色の光沢を持つ甲虫です。甲虫とは、前翅が硬化して鞘のようになり、腹部を覆っている昆虫の総称です。
タマムシといえば美しい体を想像しますが、あの煌びやかな光沢を持つ種類は限られています。キラキラと輝くタマムシはほぼ『ヤマトタマムシ』であり、その他のタマムシは地味な色をしていることも多いのです。
光沢の理由は所説ありますが、有力とされているのが『天敵である鳥への対策』です。鳥は色が変わるものを怖がる性質があるため、鳥からタマムシを避けるような色になったといわれています。
またタマムシの名前の由来は『玉(タマ)』。『玉のように美しい子』という例えに代表されるように、玉には『宝石』『極めて美しい』という意味が込められています。
美しい姿は、一生のなかでわずかな期間のみ
タマムシの幼虫期間は、ほかの虫と比べて長い傾向に。多くの種類で、約2~3年の期間を樹木の内部で過ごします。種類によっては、なんと50年ほどの期間を幼虫で過ごすこともあるのだとか。
タマムシの幼虫は、7~8月に羽化します。しかし成虫になった後は、数ヶ月で死んでしまうのです。成虫として美しい体を持つ期間は、タマムシの一生のなかでは非常にわずかな時間といえるでしょう。
晴れの日を好む虫。日光浴をすることも!

タマムシは昼行性の虫であり、晴れた暖かい日を好みます。とくに日差しが強い日は活発に活動し、枯れ枝に止まって日光浴をする姿も見られます。
晴れを好む理由としては、光に翅を反射させているという説も。美しい光沢をさらに輝かせ、交尾相手に存在をアピールしているといわれています。
タマムシの交尾が真夏の日中におこなわれる傾向にあることも、キラキラ光る体を強調するためだと思えば、納得ですよね。
おもな食べ物は木の葉や幹
タマムシの主食は、広葉樹の木の葉です。おもにエノキ・ケヤキ・サクラなどの葉を食べて暮らしています。幼虫の期間も、これらの木の幹や朽ち木を食べています。
またタマムシは香りに敏感な虫です。たとえばエノキの木を切ると、切り口からあふれる香りに誘われ、どこからか複数匹が飛んでくることもあります。
果樹園や庭などでは『害虫』として嫌われがち…
そんなタマムシですが、実は果樹園や庭などでは『害虫』として嫌われてしまいがち。理由は、タマムシの幼虫による食害です。
タマムシの幼虫は、木の幹をよく食べる性質を持ちます。また幼虫が食べた後は表面からは見つけにくく、知らぬ間に木の中身がスカスカになってしまっていることもあるのです。
食害を受けた木は外的刺激に弱くなり、風や雨によって折れやすくなります。事故の原因になるだけではなく、果樹園の経営者にとっては経済的にも大きな打撃となります。
日本でよく見かけるタマムシ5種
日本に生息するタマムシは、約240種類です。ここでは、多くのタマムシのなかでも『身近で見かけやすい種類』5つを紹介します。ぜひこの機会に、普段はあまり目立たない種類にも注目してみましょう。
ヤマトタマムシ

- 大きさ:25~40mm
- 活発な時期:6~9月
- 分布:本州・四国・九州・沖縄
ヤマトタマムシは、緑色の金属光沢を持つ米型のタマムシ。いわゆるタマムシといえばヤマトタマムシのことです。エノキやケヤキなどが生える広葉樹林を好み、夜間は幹の影に潜みます。
ウバタマムシ

- 大きさ:24~40mm
- 活発な時期:6~10月
- 分布:北海道・本州・四国・九州・沖縄
ウバタマムシは、赤胴色の体を持つタマムシ。緑色や金色を帯びる個体も見かけます。成虫は4~9月に見られ、おもにマツの花粉を食べて暮らしています。成虫になるまでには、3年ほどの期間が必要。棲み処の材木が乾燥していると幼虫期間がさらに長くなります。
アオマダラタマムシ

- 大きさ:16~29mm
- 活発な時期:5~8月
- 分布:本州・四国・九州
アオマダラタマムシは、金緑色にまだら模様の体を持つ中型のタマムシです。成虫はサクラ属の植物の葉を、幼虫はモチノキ科の木を食べます。腹部や脚は明るい金緑色で、表面よりも鮮やかな色合いであることが特徴です。
ダイミョウナガタマムシ
- 大きさ:4~6mm
- 活発な時期:5~7月
- 分布:北海道・本州・四国・九州
ダイミョウナガタマムシは、最大でも6mm程度の小型のタマムシ。体は黒と濃い灰色で、ヤマトタマムシと比べると同種とは思えないほど目立たない種類です。クスノキ科の樹木を好み、夏の日中に樹上を活発に飛び回ります。
クロナガタマムシ

- 大きさ:10~16mm
- 活発な時期:5~8月
- 分布:北海道・本州・四国・九州
クロナガタマムシは、黒・暗緑色のタマムシです。一見地味に見えますが、青紫色の前胸や黄銅色の首元など、複数の色彩を持っています。また地域や個体による色彩の変化が大きいことも特徴です。
日本人とタマムシの深い関係

ここでは、日本人とタマムシとの関係性について紹介します。少し過去の時代に遡りつつ、タマムシの魅力についてさらに学んでいきましょう。
華やかな姿から『吉兆』として扱われる
古くからタマムシは、その華やかな姿から吉兆として扱われる機会が多い虫です。たとえば『タンスに入れておくと着物が増える』『女性が持っていると良縁に恵まれる』などの俗説も多く存在しています。
とくにタンスに関連する吉兆は有名で、これが転じて『タマムシには防虫効果がある』とも信じられてきました。現在も、金運や勝負運などを上げてくれる虫として知られています。
現代の人の心もつかむ『玉虫色』

タマムシの美しい体の色は、『玉虫色』として親しまれています。
玉虫色とは、タマムシの翅のように『光の具合で違って見える色』。実際のタマムシの色も、見方次第で金緑色や金紫色に見えますよね。宝石のオパールにも似た、つかみどころの無い美しさが特徴です。
玉虫色は、雑貨や工芸品のカラーリングとしても人気です。ミステリアスなグラデーションは、玉虫色ならではの深い魅力といえるでしょう。
死後も色あせない輝き。装飾品としての歴史も深い
タマムシの美しさは、死後も色褪せません。タマムシの体(正確には翅)の光沢は生命反応によるものではなく、光を反射する凹凸によって構成されています。
つまり体の色は『構造色』であり、死んでも色合いが抜けることがないのです。そのため死後のタマムシの体は、家具や工芸品の装飾に用いられた歴史を持ちます。
代表的なのが教科書などでもお馴染みの『玉虫厨子(たまむしのずし)』です。玉虫厨子は、飛鳥時代に造られた厨子(ずし:仏像などを納める容器)。周囲の装飾金具の下には、タマムシの前翅が貼りつけられています。
法隆寺の蔵に所蔵される国宝であり、なんと2,600匹分のタマムシの翅が使われているといわれています。
『玉虫』は晩夏の季語。数々の俳句にも登場

『玉虫』は、俳句における晩夏の季語の一つです。現在に至るまで、さまざまな俳句にタマムシが登場しています。
タマムシに関連するとくに有名な俳句は、以下の2つでしょう。
| 玉虫に紺紙金泥の経を思ふ(高浜虚子) 玉虫の羽のみどりは推古より(山口青邨・やまぐちせいそん) |
高浜虚子の俳句に登場する『紺紙金泥』とは、溶いた金粉を用いて書写したお経のこと。紺紙金泥は当時、見た目の美しさや高級感から『写経における究極の美』とされ、信仰の対象にもなりました。タマムシは、そんな究極美すらも彷彿とさせる美しさを持っていることがうかがえます。
山口青邨の俳句は、前項で紹介した『玉虫厨子』を読んだものです。玉虫厨子が製作された飛鳥時代は、推古天皇が統治する時代。句に登場する『推古』とは言わずもがな、推古天皇を指しており『タマムシの翅の美しさは、推古天皇の時代から変わらない』という心情を表しています。
輝く体はまるで宝石!タマムシの縁起にあやかろう

今回は、タマムシの特徴や種類などを紹介しました。
ときには装飾品に、俳句の季語に、そして害虫に。古くからタマムシは、私たちの身近に形を変えて存在してきました。
人によっては、吉兆とも凶兆にもなる虫です。とはいえ、やはりその美しい体は多くの人の心を引きつけます。タマムシの縁起にあやかりつつ、より安全に共生できる道を探すことが大切です。




