- ツバメが家に巣を作ると縁起がいい、商売繁盛のシンボル
- ツバメは3月上旬から姿を現し始め、春から夏にかけて日本国内で繁殖する
- 泥で巣を作るツバメのような鳥は珍しい
- ツバメの雛が落ちているのを見つけたときは、羽毛が生えそろっているか観察し、状況に応じて適切な対処をしよう

春になると軒先に現れるツバメは、古くから『巣を作ると縁起がいい』『商売繁盛のシンボル』として親しまれてきました。害虫を食べてくれる身近な野鳥として重宝される一方、近年ツバメは減少傾向にあります。
今回は、私たちの生活に馴染み深いツバメの生態や魅力、共存するための方法について詳しく解説します。
海をわたる野鳥|ツバメの一生は?

日本で見られるツバメの仲間は、ツバメ・イワツバメ・コシアカツバメ・ショウドウツバメ・リュウキュウツバメの5種類です。
興味深いことに、ツバメは天敵のカラスをさけるため、あえて人間の近くで子育てをします。家の軒下・倉庫・駅のホームなど、人の往来があるところにツバメが巣を作るのは、カラスが警戒して近づきにくいからです。
ツバメは野鳥でありながらも、人間の近くで共存する鳥といえます。
ツバメは日本が暖かくなる春に訪れる
ツバメは春の訪れを告げる代表的な渡り鳥です。地域によって訪れる時期は違いますが、早い地域では3月上旬から姿を現し始め、春から夏にかけて日本国内で繁殖します。
日本に到着すると、つがいになったオスとメスが協力して巣を作り、卵を産み、雛を育てます。繁殖は1年間に1〜2回。まれに3回子育てをします。雛は、孵化(卵からかえること)から約3週間で親鳥と変わらない大きさになり、飛ぶ練習をはじめます。
秋に子育てを終え、南国へ旅立っていく
春に訪れたツバメも秋には子育てを終え、暖かい気候を求め、南へと飛び立ちます。その移動距離は、約3000〜5000km。小さな体で長距離を飛ぶ、ツバメたちの驚異的な能力に、多くの研究者も注目しています。
ツバメは、暖かいフィリピン・マレーシア・インドネシアなどの南国で冬を過ごし、また春になると日本へ戻ってくるのです。このようにツバメは、南国と日本の間を毎年行き来して暮らしています。
ツバメが低く飛ぶと雨が降る?
『ツバメが低く飛ぶと雨が降る』という言い伝えには、実は根拠があります。
低気圧が近づいて湿度が高くなると、空気中の水分でエサとなる昆虫の羽が重くなり、高く飛ぶことができなくなります。エサになる昆虫が低い場所を飛ぶため、ツバメも低く飛び、昆虫を捕まえようとするのです。
つまりツバメが低く飛ぶときは、低気圧が近づいて湿度が高くなっているため、雨が降る可能性が高くなります。古くから日本人は、ツバメが飛ぶ高さから天気の変化を予測していました。科学的な観察に基づいたこの伝承は、現代の気象学でも裏付けられています。
ツバメの寿命は約2年
ツバメの平均寿命は約2年といわれています。渡り鳥としての過酷な生活環境や、多くの天敵の存在によるものです。カラス・タカ・猫・ヘビなど、天敵が多く、1年間の平均死亡率は60〜70%にも達します。
特に生まれてから1年間の死亡率は80%前後という研究もあり、無事に成鳥になれるのはごくわずかです。過酷な環境にあっても、なかには10年以上生きる個体がいることも報告されています。運よく生き延びられたツバメは、毎年同じ場所に戻って巣作りをする習性があります。
ツバメの巣の秘密

日本では古くから、ツバメが巣を作る家には福が訪れるといわれてきました。特に商家では、ツバメが巣を作ることは『商売繁盛のシンボル』として大変縁起がいいとされています。
これはツバメが害虫を食べることで農作物や商品を守ってくれる実利的な面と、春の訪れという季節の変わり目を告げる象徴的な存在だったからです。現在でもツバメが巣を作ることを歓迎する風習が残っています。
ツバメの巣は何でできているの?
ツバメの巣は主に泥でできており、枯葉や小枝、草の茎なども混ぜられて作られています。巣作りに泥を使う鳥は、オーストラリアのツチスドリや南米のカマドドリ類など、鳥類の中では珍しいのだそうです。
ツバメはくちばしで泥を運び、唾液と混ぜて粘着性を高めながら少しずつ積み上げて巣を作ります。完成した巣はお椀を半分に切ったような形で、内側には草や羽をクッションのようにやわらかく敷き詰めます。
無事に子育てを終えたツバメは、翌年も同じ巣で子育てすることが多く、補修しながら何年も使い続ける姿が見られるそうです。
アナツバメの巣は食べられる
ツバメの仲間には、その巣が食べられるものがあります。高級中華料理『燕の巣』として知られているのは、アナツバメの巣です。アナツバメの巣は、アナツバメの唾液腺から分泌される粘液製のタンパク質でできています。
巣自体に味はないため、スープやシロップ煮にして食べられます。食感は、繊維質な寒天のような、独特な歯応えです。栄養価が高く、美容・育毛・免疫力を高める効果があるとされ、アジアでは珍重されてきました。
ツバメの巣を見つけたらどうすればいいの?

ツバメの巣を見つけたら、できるだけそっと見守りましょう。人の近くで生活しているとはいえ、ツバメは野鳥です。近づきすぎたり、頻繁に観察したりすると、親鳥が警戒して巣を放棄してしまうこともあります。
特に巣作りの初期や産卵直後は神経質になっているので、ツバメとの適切な距離を保ちましょう。
実はツバメの巣をこわすと法律違反になる
ツバメは『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)』によって保護されている野生鳥類です。そのため許可なくツバメの巣を壊したり、卵や雛を持ち去ったりすることは法律違反になります。
たとえ自宅の軒下であっても巣を撤去せず、雛が巣立つまで見守りましょう。もし巣の場所が問題になる場合は、専門家や自治体の環境課などにまずは相談しましょう。
フンが落ちるのは子育て中の約2〜3週間
ツバメの巣があると心配になるのは、フンの問題です。フンが多く落ちる時期は、雛が孵化してから巣立つまでの約2〜3週間です。
親鳥の警戒心の強い抱卵中は巣に近づかないようにして、雛が孵化してから段ボールや新聞紙を使ってフン受けを設置しましょう。新聞紙などの敷紙を毎日取り替えるようにすると、衛生的に保てます。
ツバメのフンには食べた害虫の栄養分が含まれているため、薄めて植物の肥料として利用する方法もあります。
ツバメの雛や巣が落ちてしまったら?
雛が落ちているのを見つけたときは、まずは羽毛が生えそろっているか観察してみましょう。
羽毛が生えそろっている雛は、巣立ちの練習をしています。飛び方やエサの取り方を教えている親鳥が、近くで見守っているかもしれません。雛が自立して生きていくために必要な練習をしているため、その場を離れて見守りましょう。
羽毛が生えそろっていない雛は、巣立ち前の雛です。巣立ち前の雛を見つけたときは、手袋などを使って直接ふれないように注意しながら、巣に戻してあげましょう。
また巣の劣化やカラスなどの攻撃によって、ツバメの雛ごと巣が落下してしまうこともあります。カラスや猫に襲われないように、箱や吊るすタイプの植木鉢などに入れ、元居た場所の近くで子育てを続けられるようにしてあげましょう。
ツバメの雛が巣立つまで見守り、そのあとは巣を撤去しても問題ありません。
減少の進むツバメと共存して守ろう

かつては日本中で見られたツバメですが、近年その数は減少しています。身近な自然環境の変化や、巣を作る場所が減ったことも一因と考えられています。
ツバメを守るためには、彼らのエサになる昆虫が生息する田んぼや、水辺の環境を大切にすることが重要です。私たちができることは、巣作りに適した場所を提供したり、子育て中は温かく見守ったりと、人とツバメの共存を目指す取り組みが求められています。
春の訪れを告げる身近な野鳥として、これからもツバメが私たちのそばで暮らせるように、できることから始めてみませんか?