A Moray Eel enjoys the attention of a Cleaner Wrasse.

日本に生息するウツボの種類と生態を紹介!その意外な魅力に迫る

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まとめ
  • ウツボはウナギの仲間で、岩の隙間に潜んでいる肉食魚
  • 喉の奥に咽頭顎という二重あごを持ち、獲物を確実に捕らえる
  • 日本には多様な種類が生息し、性転換する種や毒を蓄積する種もいる
A Moray Eel enjoys the attention of a Cleaner Wrasse.

海の岩場やテトラポットの隙間から、鋭い歯をむき出しにして顔を覗かせるウツボ。その見た目から『怖い』『危険』というイメージを持たれがちですが、実は独特の生態と魅力を持つ興味深い魚です。日本の沿岸域には複数の種類が生息しており、それぞれ異なる模様や習性を持っています。

この記事では、ウツボの基本情報から知られざる生態、そして日本で観察できる代表的な7種類を紹介します。ウツボのことを深く知れば、海辺やダイビングでの出会いがもっと楽しくなりますよ。

目次

ウツボってどんな魚?特徴や生息地など基本情報

ウツボは身近な海の生き物ですが、詳しい生態を知らない人も多いのではないでしょうか。ここではウツボがどんな魚なのか、分類から体の特徴・生息環境まで基本情報を紹介します。

ウツボは何の仲間?大きさや見た目の特徴

ウツボはウナギ目ウツボ科に分類される魚で、ウナギやアナゴと同じ仲間です。細長い円筒形の体を持ち、胸ビレや腹ビレがないのが特徴的な構造となっています。

体長は種類によって大きく異なり、小型種では30cm程度・大型種では2mを超えるものまで存在します。体表はぬめりのある粘液で覆われており、ウロコはほとんど目立ちません。体色や模様も種類ごとに多彩で、茶褐色の地味なものから、鮮やかな黄色や白黒のゼブラ柄まで実にバリエーション豊かです。

独特の顔つきと強力なあご

ウツボの最大の特徴といえば、やはり独特な顔つきでしょう。常に口を開けている姿が印象的ですが、これは威嚇しているわけではなく、鰓(えら)に水を流し込むために開け続けています。

あごには鋭く尖った歯が並んでおり、一度噛みついたら容易には離しません。この強力なあごは獲物を確実に仕留めるための武器です。大型の個体は人間の指でも骨まで達する怪我を負わせることがあります。顔に似合わず臆病な性格ですが、刺激を与えると噛みつくこともあるので、海で出会った際は注意が必要です。

ウツボの生息地や生息環境は?

ウツボは主に熱帯から温帯の海域に広く分布しています。日本では北海道南部から沖縄まで、沿岸の岩礁地帯やサンゴ礁に生息しているのが確認されています。

岩の隙間や、防波堤のテトラポッドの中など、狭く暗い場所が特に好きです。水深は浅い潮間帯から約200mの深さまで幅広く、種類によって好む環境が異なります。昼間は穴の中に隠れていることが多く、顔だけを出して周囲を警戒している姿がよく観察されます。

ウツボは何を食べる?天敵はいるの?

ウツボは肉食性の魚で、主に小魚・甲殻類・タコやイカなどの頭足類を捕食します。夜行性の傾向が強く、暗い時間に行動します。

優れた嗅覚を持っており、暗闇でも獲物の匂いを頼りに探すことが可能です。種類にもよりますが、待ち伏せ型の捕食者として、岩陰に潜んで通りかかる獲物を素早く襲うことが多いです。

小さなうちは各種の肉食性の魚が天敵とされます。成長するとあまり天敵はいなくなりますが、大型のサメ・ハタなどに食べられる可能性があります。もともと狭い岩の隙間に身を隠しているので、それほど襲われることもないでしょう。

じっと隠れて狙いすます!ウツボの知られざる生態

These two moray eels seem to be on friendly terms.

ウツボは実は進化の過程で独自の狩猟技術や体の仕組みを発達させてきました。ここでは、ウツボの暮らし方や捕食の秘密、そしてまだ謎の多い繁殖行動について紹介します。

岩の隙間で暮らす、待ち伏せ型ハンター

ウツボは基本的に定住性の魚で、一度気に入った岩穴を見つけるとそこを拠点として生活します。日中は穴の奥に潜み、顔だけを外に向けて周囲の様子をうかがっている姿が観察されます。

このスタイルは、エネルギー消費を抑えながら効率よく獲物を捕らえる戦略です。視力はあまり良くありませんが、嗅覚と側線と呼ばれる感覚器官で水の振動を感じ取り、近づいてくる獲物を正確に察知できます。獲物が射程圏内に入ると、電光石火の速さで飛び出して噛みつき捕獲するのです。

夜になると巣穴から出て積極的に狩りを行うこともあり、岩場を這うように泳ぎながら獲物を探し回ります。細長い体は複雑な岩の隙間にも入り込めるため、他の魚が入れない場所に隠れた獲物も捕らえられるのが強みです。

獲物を逃がさない二重あご『咽頭顎』とは

ウツボの捕食能力を語る上で欠かせないのが『咽頭顎』と呼ばれる特殊な構造です。これは喉の奥にあるもう一つのあごで、通常のあごで獲物を捕らえた後、この咽頭顎が前方に飛び出して獲物を喉の奥へ引き込みます。

多くの魚は水と一緒に餌を吸い込んで飲み込みますが、ウツボは体が細長いため飲み込む力が弱いのです。そこで進化したのがこの咽頭顎で、映画『エイリアン』の怪物を彷彿とさせる仕組みとしてしばしば話題になります。

この二段階の捕食システムにより、一度噛みついた獲物は確実に仕留められます。咽頭顎の歯も鋭く、逃げようとする獲物をしっかりと固定して逃がしません。この独特な構造は、ウツボ科の魚だけが持つ特徴的な進化の産物といえるでしょう。

まだあまり解明されていない繁殖行動

ウツボの繁殖行動については、実はまだ多くの謎が残されています。野生下での産卵シーンが観察される機会は少なく、詳しい生態は研究途上なのです。

一部の種類では、夏の夜に雌雄で水面付近まで上昇し、放卵放精する姿が確認されています。しかし観察数も少なく、多くの種類では深海や外洋で産卵するとも考えられていますが謎が多いです。孵化した稚魚は透明なレプトケファルス幼生と呼ばれる形態で浮遊生活を送ります。この幼生期は数ヶ月から1年近く続き、その後変態して成魚の姿に近づき、着底して生活をはじめます。

一部の種では性転換を行うことも知られており、繁殖戦略も種類によって異なる可能性が高く、今後の研究が期待される分野です。

日本で見られるウツボの仲間7選

A Cleaner Wrasse attends to a Honeycomb Moray Eel.

日本近海には60種類以上のウツボが生息しているといわれています。体の模様や大きさ、生息環境もさまざまです。ここでは日本の海で観察できる代表的な7種類のウツボを紹介します。

日本で最も身近な定番種【ウツボ】

ウツボは日本で最もよく見られる種類で、正式な和名も単に『ウツボ』です。本州中部以南の沿岸域に広く分布しており、防波堤やテトラポッドでも頻繁に観察されます。体長は最大で1m前後、茶褐色の地に黄色や白の細かい斑点模様が散らばっているのが特徴です。

高知県や和歌山県・千葉県などでは食用として利用され、タタキや唐揚げ、干物などにして食べられています。コラーゲンが豊富なことから、最近では美容食としても注目されています。

性転換する美しい人気種【ハナヒゲウツボ】

ハナヒゲウツボは鮮やかな体色が美しく、観賞魚としても人気の高い種類です。名前の由来は鼻先に花びらのようなヒゲ状の突起があることからきています。

最大の特徴は成長に伴って体色と性別が変化することです。幼魚期は全身が黒色、成長して雄になると鮮やかな青色に変わり、さらに大きくなると黄色い雌へと性転換します。この劇的な変化は、同じ個体とは思えないほどです。

体長は80cm程度まで成長し、沖縄やフィリピンなどの温暖な海域のサンゴ礁に生息しています。岩場と砂地の際に穴を掘って暮らし、体の半分ほどを穴から出して揺らめいている姿が観察されます。

白黒模様が特徴的な【ゼブラウツボ】

ゼブラウツボはその名の通り、シマウマのような白と黒の縞模様が印象的な種類です。体長は70cm程度で、南の海に広く分布し、日本では沖縄や小笠原諸島などで観察できます。

餌は甲殻類・ウニ・貝類ですが、特にカニが好物です。あごの力が強く、硬い殻もしっかりと噛み砕きます。性格は比較的おとなしく、ダイビング中に出会っても攻撃的になることはあまりありません。

小型でつぶらな瞳がかわいい【サビウツボ】

Beautiful white-eyed moray eel in the reefs of Koh Tao was happy to pose for the camera.

サビウツボは茶褐色の地に細かい斑点が散らばった、錆びた鉄のような渋い体色をしたウツボです。他のウツボと比べて顔つきが丸く、目が大きいことからダイバーやアクアリストから『かわいい』と人気があります。

体長は最大でも50cm程度と小型で、日本では伊豆半島以南の岩礁地帯に生息しています。比較的浅い場所にいるので、ダイビングでも遭遇しやすい種類です。警戒心はやや強めで、小型の魚や甲殻類を主食としています。

大型で迫力のある斑点模様の【ニセゴイシウツボ】

ニセゴイシウツボは体に大きな黒い斑点が散らばった模様が特徴的な大型のウツボです。名前に『偽』とつくのは、かつては『ゴイシウツボ』と呼ばれる別種がいたからです。現在では同種となりましたが、なぜか偽が付いたままになっています。

体長は2mに達することもあり、日本で見られるウツボの中でも最大級のサイズです。太い体と大きなあごを持ち、近くで見ると非常に迫力があります。南日本の沿岸域に生息し、沖縄ではよく見かけます。見た目は怖いですが、性格は比較的温厚で、ダイバーからの人気が高いです。

擬態されている!?【ハナビラウツボ】

ハナビラウツボは褐色や灰色の体に不規則な斑紋が入り、その模様が『ハナビラ』のように見えることから名づけられたとされます。体長は1m前後で、インド洋から西太平洋の熱帯域のサンゴ礁域に分布しています。岩陰はもちろん、サンゴの隙間に潜んでいることも多いです。

この種の興味深い点は、シモフリタナバタウオという魚に擬態されている点です。ハナビラウツボにそっくりの体色をしたシモフリタナバタウオは、岩陰で体をくねらせて泳ぐことで擬態し、捕食者を避けていると考えられています。

実は毒を持っていない!?【ドクウツボ】

ドクウツボは体長2mを超えることもある大型種で、茶褐色の体に細かい斑点模様があります。南日本からインド洋、太平洋の熱帯域に広く分布し、サンゴ礁の外縁部や岩礁地帯を好みます。

『毒』という名前と鋭い歯から、毒牙をもつウツボと思われがちですが、実際にはありません。ただし、食物連鎖の過程で、体内にシガテラ毒と呼ばれる毒素を蓄積していることがあり、食べると食中毒を起こす危険性があります。

シガテラ毒は全ての個体に蓄積しているわけではないので、沖縄県や高知県では食用として水揚げされています。個人で調理するのは危険ですが、地元の料理屋さんで食べてみるのもウツボの魅力を知る1つの方法です。

独特の生態をもつウツボの魅力に迫ろう

ウツボは鋭い歯と独特の顔つきから怖いイメージを持たれがちですが、実際には進化の過程で独自の狩猟技術や体の仕組みを発達させてきた興味深い魚です。岩の隙間に潜んで待ち伏せする習性や、喉の奥にある咽頭顎を使った捕食方法は、限られた環境で生き抜くための知恵といえます。

水族館や海辺、ダイビングでウツボに出会ったら、じっくりと観察してみてください。この記事をきっかけに、ウツボの世界に少しでも興味を持ってもらえたら幸いです。

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のべじ

のべじ

元水族館職員の生き物好きライター。ダイビングガイド、農家などの経験を活かし生き物・自然・家庭菜園・料理など、さまざまな分野でライティングしています。

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