生き物は氷の下で何してる?極寒の海で暮らす生き物たちの秘密

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まとめ
  • 極寒の海は水温がマイナスになることもあるが、塩分の影響で海水は凍らずに存在している
  • 魚は不凍タンパク質で体の凍結を防ぎ、海洋哺乳類は厚い脂肪層で体温を維持している
  • 氷の下には、コマイやコオリウオ・クリオネ・シャチなど、多様な生き物がいる

北極や南極の海は、厚い氷に覆われた極寒の世界です。水温は0℃を下回ることもあり、私たち人間にとっては過酷すぎる環境といえるでしょう。しかし、そんな氷の下の海にも、たくさんの生き物たちが暮らしています。

凍りつくような冷たさの中で、魚や海洋哺乳類はどのように生きているのでしょうか。体が凍ってしまわないのか、餌は見つかるのか、不思議に思う人も多いかもしれません。実は、極寒の海で暮らす生き物たちには、寒さを乗り越えるための特別な仕組みが備わっています。

この記事では、氷の下の海がどのような環境なのかを解説しながら、そこで暮らす生き物たちの生態や体の仕組みについて紹介していきます。

目次

氷の下にも海がある?極寒の海の環境とは

北極や南極と聞くと、すべてが凍りついた世界をイメージするかもしれません。しかし、氷の下には広大な海が広がっており、独自の生態系が存在しています。まずは、極寒の海がどのような環境なのかを見ていきましょう。

氷の下の海はどうなっている?

北極海や南極海では、海面が厚い氷で覆われています。この氷は『海氷』と呼ばれ、厚さは場所や季節によって数十cmから数mにもなるほどです。しかし、氷があるのは海面付近だけで、その下には液体である海水が広がっています。

氷の下の海は、太陽光がほとんど届かない暗い世界です。特に冬場は極夜と呼ばれる時期があり、24時間太陽が昇らない日が続くこともあります。それでも、氷の隙間や薄い部分からわずかな光が差し込み、植物プランクトンが光合成を行うことで生態系が維持されています。

水温は非常に低く、マイナス1〜2℃程度になることも珍しくありません。淡水であれば0℃で凍ってしまいますが、海水は塩分を含んでいるため、0℃以下でも液体のまま存在できるのです。

なぜ海水は凍らないの?

海水が0℃以下でも凍らない理由は、塩分にあります。水に塩などの物質が溶けていると、凍る温度(凝固点)が下がる性質があり、これを『凝固点降下』と呼びます。

一般的な海水の塩分濃度は約3.5%で、この濃度だと凝固点はマイナス1.8℃程度まで下がります。そのため、0℃を少し下回った程度では海水は凍らず、液体の状態を保っているのです。

ただし、さらに温度が下がると海水も凍り始めます。興味深いのは、海水が凍るときに塩分が氷から排出される点です。そのため、海氷はほぼ真水に近く、溶かして飲むこともできるといわれています。氷の下に残った海水は塩分濃度が高くなり、より冷たくても凍りにくい状態になるのです。

魚は凍らないの?氷の下で生きる仕組み

極寒の海で暮らす生き物たちは、寒さに耐えるためのさまざまな仕組みを持っています。魚やほ乳類は、それぞれ違う仕組みです。ここでは、その仕組みについて詳しく見ていきましょう。

魚の体が凍らない理由 不凍タンパク質とは

水温がマイナスになる海で、魚の体が凍らないのは不思議に思えるかもしれません。実は、極寒の海に暮らす魚たちは、体内に『不凍タンパク質』や『不凍糖タンパク質』と呼ばれる特別な物質を持っています。

これらの物質は血液や体液の中に含まれており、体内で氷の結晶ができるのを防ぐ働きを担っています。具体的には、不凍タンパク質が氷の結晶の表面にくっついて、それ以上成長しないよう抑える仕組みです。

小さな氷の核ができても大きくならないよう制御することで、魚はマイナスの水温でも体が凍ることなく活動を続けられます。この不凍タンパク質は、南極に暮らすコオリウオや北極海の魚など、多くの極地の魚で確認されています。

冷たい海では代謝がゆっくりになる

極寒の海に暮らす魚たちは、体の凍結を防ぐだけでなく、代謝を調整することでも寒さに適応しています。一般的に、水温が低いほど魚の代謝は遅くなり、エネルギー消費が抑えられる傾向にあるのです。

代謝がゆっくりになると、必要な餌の量も少なくて済みます。極寒の海では餌となる生き物の数も限られているため、少ないエネルギーで生きられる体の仕組みは生存に有利といえるのです。動きもゆっくりになりますが、その分長く活動を続けることが可能になります。

不凍タンパク質で体液が凍らない状態を保ちながら、低い代謝でエネルギーを節約するという二重の適応が、極寒の海での生存を可能にしています。温かい海の魚とは異なる、独自の生存戦略といえるでしょう。

海洋哺乳類は厚い脂肪で体温をキープ

魚類が体温を環境に合わせて変化させる変温動物であるのに対し、アザラシやクジラなどの海洋哺乳類は体温を一定に保つ恒温動物です。そのため、極寒の海でも体温を維持するための仕組みが必要になります。

海洋哺乳類が寒さに耐えられる最大の理由は、皮膚の下にある厚い脂肪層でしょう。この脂肪層は『ブラバー』とも呼ばれ、種によっては厚さが10cm以上になることもあります。脂肪は熱を伝えにくい性質があるため、体の熱が海水に奪われるのを防ぐ断熱材のような役割を果たしているのです。

さらに、血管の配置にも工夫があります。動脈と静脈が近接して走ることで、体の中心部から末端へ向かう温かい血液と、末端から戻る冷たい血液の間で熱交換が行われるのです。この仕組みによって、ひれや尾など冷えやすい部分から熱が逃げるのを最小限に抑えています。

氷の下で暮らす生き物たち

Gentoo penguin diving from an iceberg

極寒の海には、寒さに適応したさまざまな生き物が暮らしています。不凍タンパク質を持つ魚や、厚い脂肪で体温を保つ哺乳類など、それぞれが独自の方法で過酷な環境を生き抜いているのです。ここでは、氷の下で暮らす代表的な生き物たちを紹介していきます。

氷の下で釣れる魚【コマイ】

コマイは体長は30〜40cmと小型のタラの仲間です。ベーリング海やアラスカ湾などの極寒の地から、日本では北海道東北地方にも生息しています。漢字では『氷下魚』と表されるほど寒さに強い魚です。

北海道では冬になると、凍った海に穴を開けて釣り糸を垂らして釣る風景が風物詩となっています氷点下の水温でも元気に泳ぎ回り、釣り人を楽しませてくれる魚なのです。

また、地元では酒の肴として親しまれ、寒さが厳しいほど身が締まって美味しくなるといわれています。まさに極寒の海が育てた魚といえるでしょう。

南極の海に暮らす 【コオリウオ】

コオリウオは、南極海に生息する魚です。最大の特徴は、血液中に赤血球がほとんど含まれていないことです。そのため血液は赤くなく、透明に近い色をしています。

赤血球がなくても生きられるのは、極寒の海の環境に関係しています。実は冷たい水は酸素をより多く溶かし込むことができます。コオリウオは血液に酸素を運ぶ赤血球がなくても、体の表面や大きなえらから直接酸素を取り込めるのです。

また、コオリウオは不凍糖タンパク質を体内に持っており、マイナスの水温でも体が凍ることはありません。赤血球を持たないことで血液の粘度が下がり、冷たい環境でも血液が流れやすくなっているという説もあります。極限環境への適応が生んだ、独特の進化といえるでしょう。

流氷の天使【クリオネ】

クリオネは、北極海や南極海などの冷たい海に生息する小さな生き物です。体長は1〜3cm程度で、透明な体と翼のような器官を持ち『流氷の天使』という愛称で親しまれています。

見た目は可愛らしいですが、実は巻貝の仲間で、成長の過程で貝殻を失う特殊な種類です。翼足と呼ばれる器官をひらひらと動かして海中を漂う姿が、天使が羽ばたいているように見えることから、この愛称がつきました。

クリオネは肉食性で、同じ浮遊性巻貝のミジンウキマイマイを捕食します。捕食の際には頭部から『バッカルコーン』と呼ばれる触手を出し、獲物を捕らえる姿が衝撃的で、天使から悪魔への豹変ともいわれています。1年以上絶食に耐える生命力も持っており、小さな体に驚きの生態が詰まった生き物です。

極寒の海の王者 【シャチ】

When I was on the USCGC Polar Sea (WAGB-11) we went down to Antarctica on Operation Deep Freeze. Our mission was to break the ice and create a shipping lane for the fuel and cargo ship to resupply the base in McMurdo. While we were breaking ice these killer whales were following us looking for food. If you look at the top of the photo you can see some penguins on the sheet ice, that’s who they were looking for. I hope you enjoyed! I’m on IG @65_bomber Stop by and say hi!

シャチは、北極から南極まで世界中の海に生息する大型の海洋哺乳類です。体長はオスで6〜8m、メスで5〜7mに達し、海の食物連鎖の頂点に立つ捕食者として知られています。

極寒の海でも活発に活動できるのは、厚い脂肪層のおかげです。皮膚の下には10cm以上の脂肪層があり、体温を37℃前後に保つことができます。さらに、高い知能と社会性を持ち、群れで協力して狩りを行うことでも有名です。

北極や南極の海では、アザラシやペンギン、魚などを捕食しています。氷の上に乗っているアザラシを波で落として捕らえるなど、高度な狩りの技術を持っているのも特徴です。極寒の海においても、シャチは堂々たる存在感を示しています。

氷の下を泳ぐ【ゴマフアザラシ】

ゴマフアザラシは、北太平洋や北極海に生息するアザラシの仲間です。灰色の体に黒いゴマのような斑点模様があることから、この名前がつけられました。体長は1.5〜2mで、ずんぐりとした体型が特徴です。

厚い脂肪層を持っているため、氷点下の海水の中でも体温を維持して活動できます。氷の下を自由自在に泳ぎ回り、魚やイカ・甲殻類などを捕食して暮らしています。水中では最長20分程度潜ることができ、優れた潜水能力を持つ生き物です。

日本では北海道の沿岸で見られることがあり、冬になると流氷とともに南下してくる個体も観察されています。流氷の上で休んでいる姿は愛らしく、観光客にも人気の高い動物です。

氷の下にも広がる生き物たちの世界

White-tailed eagle perched on drift ice off the coast of Rausu, Hokkaido, Japan. Winter, February 2024.

北極や南極の海は、厚い氷に覆われた過酷な環境です。水温は0℃を下回り、太陽の光もほとんど届かない暗い世界が広がっています。しかし、そんな極限の環境にも、多くの生き物たちがたくましく暮らしていることがわかりました。

クリオネのような小さな生き物から、海の王者と呼ばれるシャチまで、氷の下には驚くほど多様な生物が存在しています。寒さに適応するための進化は種によってさまざまで、それぞれが独自の方法で厳しい環境を生き抜いているのです。

極寒の海は、私たち人間にとっては近寄りがたい世界かもしれません。しかし、水族館や流氷ツアーなどを通じて、そこに暮らす生き物たちを観察する機会は意外と身近にあります。氷の下で繰り広げられる生き物たちの営みに、ぜひ思いを馳せてみてください。

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のべじ

のべじ

元水族館職員の生き物好きライター。ダイビングガイド、農家などの経験を活かし生き物・自然・家庭菜園・料理など、さまざまな分野でライティングしています。

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