『流氷の天使』クリオネの秘密に迫る! 可愛い見た目と意外な捕食方法

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まとめ
  • クリオネは貝殻を持たない巻貝の仲間で、透明な体と翼足が特徴
  • 普段は愛らしい姿だが、捕食時には『バッカルコーン』を出して獲物を捕らえる
  • 水族館や北海道の流氷ツアーで観察でき、野生では1〜3月頃に出会える可能性がある

透明な体に小さな翼のような器官をひらひらと動かし、冷たい海を漂う不思議な生き物『クリオネ』。その愛らしい姿から『流氷の天使』と呼ばれ、水族館でも人気の高い生き物ですが、実は貝の仲間だということを知っていますか?

クリオネは見た目の可愛らしさとは裏腹に、捕食の瞬間には驚くほど獰猛な姿を見せることでも知られています。頭部から『バッカルコーン』と呼ばれる触手を出して獲物を捕らえる様子は、天使から悪魔への変貌ともいわれるほどです。

この記事では、そんなクリオネの基本的な生態から、意外な捕食方法、そして観察できる場所までを詳しく紹介していきます。小さな体に秘められた不思議な魅力に迫っていきます。

目次

クリオネってどんな生き物? 基本情報を紹介

クリオネは北極や南極周辺の冷たい海に生息する、巻貝の仲間です。貝殻を持たない特殊な巻貝で、透明な体と翼のような器官が特徴的な姿をしています。まずはクリオネの基本的な情報について見ていきましょう。

クリオネとは? 大きさや見た目の特徴

クリオネは軟体動物門の腹足綱に分類される生き物で、簡単にいえば巻貝やウミウシと同じグループに属しています。正式な和名は『ハダカカメガイ(裸亀貝)』といい、幼体の時には巻貝を持っているのですが、2週間ほどで巻貝を失うため、この名前がついたといわれています。成長の過程で貝殻を失っているので一見わかりにくいですが、れっきとした巻貝の一種なのです。

体の大きさは種類によって異なりますが、多くは1〜3cm程度と非常に小さな生き物です。体は透明でゼラチン質をしており、内臓がうっすらと透けて見えます。オレンジ色や赤色に見える部分は消化器官で、食べたものによって色が変わることもあります。

最も目を引くのは、体の両側についた翼のような器官でしょう。これは『翼足』と呼ばれ、もともと巻貝の足が変化したものです。この翼足をゆっくりと動かして水中を漂う姿が、天使が羽ばたいているように見えることから『流氷の天使』という愛称がつきました。

クリオネの生息地と生息環境

クリオネは冷たい海を好み、主に北極海や北太平洋・南極海などに分布しています。水温が0〜5℃程度の冷水域を好むため、温かい海で見かけることはほとんどありません。寿命は自然環境下で1〜2年。

日本では北海道のオホーツク海沿岸が生息地とし有名です。特に流氷が接岸する1月から3月頃になると、流氷とともにクリオネが沿岸に運ばれてきます。このため、流氷観光の時期にクリオネを目にする機会も増えます。

生息する水深は種類によって、表層から水深1,000mまでと幅広いです。自力で長距離を移動する能力は低く、海流に乗って漂いながら生活しているのが特徴です。プランクトンのように海中を浮遊する生活スタイルから『浮遊性巻貝』とも呼ばれています。

クリオネの食性は?天敵はいるの?

クリオネは肉食性で、主に同じ浮遊性巻貝の仲間である『ミジンウキマイマイ』を捕食しています。この餌となる生き物も殻を持つ小さな巻貝で、クリオネと同じ冷たい海に生息しています。

捕食方法は後ほど詳しく紹介しますが、クリオネは特定の獲物しか食べない偏食家として知られています。ミジンウキマイマイ以外のものはほとんど口にしません。そのため、餌の確保が難しく、水族館での飼育も限られています。

天敵としては、肉食性の魚類があげられます。小さな体で泳ぐ力も弱いクリオネは、捕食者から逃げることが難しい生き物といえるでしょう。ただし、体内に忌避物質を持っているという研究もあり、積極的に狙われにくい可能性も指摘されています。

クリオネならではの特徴とは?

クリオネには、他の生き物にはない独特の特徴がいくつもあります。ここでは、クリオネならではの特徴を詳しく見ていきましょう。

『流氷の天使」』と呼ばれる幻想的な姿

クリオネが『流氷の天使』や『氷の妖精』と呼ばれるのは、その独特な泳ぎ方に理由があります。透明な体の両側についた翼足をゆっくりと上下に動かす姿が、まるで天使が羽ばたいているように見えるからです。

体は透明でガラス細工のような繊細さがあり、内臓がオレンジ色や赤色に透けて見えます。この色合いが体の中心に浮かび上がることで、より幻想的な印象を与えているのでしょう。

泳ぐスピードは非常にゆっくりで、海中をふわふわと漂うような動きをします。この穏やかな動きも、天使という愛称にふさわしい印象を与えている理由のひとつです。

天使が悪魔に豹変!バッカルコーンを使った衝撃の捕食

愛らしい見た目のクリオネですが、捕食の瞬間には驚くような姿に変わります。獲物を見つけると、頭部から『バッカルコーン』と呼ばれる6本の触手を勢いよく出して捕らえるのです。

バッカルコーンは普段は頭部の中に収納されており、外からは見えません。しかし、餌であるミジンウキマイマイを発見すると、頭が割れるように開いて触手が飛び出してきます。この姿があまりにも衝撃的なため『捕食の悪魔』『天使が悪魔に豹変する』と表現されることも少なくありません。

捕らえた獲物は、バッカルコーンで殻から中身を引きずり出すようにして食べます。捕食にかかる時間は数十分から数時間に及ぶこともあり、ゆっくりと時間をかけて食事をするのが特徴です。普段の可愛らしい姿からは想像できない光景に、初めて見た人は驚くことが多いでしょう。

1年以上絶食できる驚きの生命力

クリオネのもうひとつの特徴は、長期間の絶食に耐えられることです。餌を食べなくても1年以上生き続けることができるとされており、その生命力には驚かされます。

この能力は、餌となるミジンウキマイマイに出会う機会が少ない環境への適応と考えられています。広い海の中で特定の獲物だけを食べるクリオネにとって、いつ餌にありつけるかわからない状況は日常的なことでしょう。そのため、一度食べたエネルギーを長く蓄えておける体の仕組みが発達したと推測されています。

ただし、絶食が続くと体は徐々に小さくなっていきます。栄養が不足すると透明だった体が白っぽく濁り、やがて弱るのです。

クリオネの仲間3選

クリオネという名前は特定の1種類を指すのではなく、ハダカカメガイ科に属する複数の種の総称として使われています。世界の冷たい海にはいくつかの種類が生息しており、それぞれ特徴が異なります。ここでは、代表的な3種類を紹介していきましょう。

日本にも生息する代表種 【ハダカカメガイ】

ハダカカメガイは、クリオネの中で最もよく知られている種類です。学名はClione limacinaで、クリオネという呼び名はこの学名に由来しています。北極海から北太平洋にかけて広く分布しており、北海道のオホーツク海沿岸で見られるのがこの種です。

体長は1〜3cm程度で、透明な体にオレンジ色の内臓が透けて見えます。流氷とともに沿岸に運ばれてくることから、流氷観光のシーズンによく見られます。水族館で展示されているクリオネの多くはこのハダカカメガイで、一般的にイメージされる『クリオネ』の姿そのものといえるでしょう。

新種のクリオネ【ダルマハダカカメガイ】

ダルマハダカカメガイは、2016年に新種として発表された比較的新しい種類です。名前の『ダルマ』は、体型がずんぐりとしていることに由来しています。ハダカカメガイに比べると体の幅が広く、丸みを帯びた姿が特徴です。体長は5mm〜1cm程度と小型で、ハダカカメガイよりも一回り小さいサイズとなっています。

ダルマハダカカメガイは長年、ハダカカメガイの中の『ずんぐりした個体』であり、単なる個体差だと思われていました。しかしDNA解析の結果、ハダカカメガイとは別種であることが分かったのです。

ハダカカメガイは北極圏から流氷とともにやってきます。それに対しダルマハダカカメガイは。オホーツク海や日本海の深海に定住していることも分かっています。

南極の海にすむ 【ナンキョクハダカカメガイ】

ナンキョクハダカカメガイは、その名の通り南極海に生息する種類です。北半球に生息するハダカカメガイに対して、地球の反対側で暮らしています。

体長は最大で4cm程度になることもあり、クリオネの中ではやや大型の部類に入ります。南極の厳しい環境に適応しており、水温が氷点下になるような海域でも生きていけるのが特徴です。

南極海という遠い場所に生息しているため、日本で見られる機会はほとんどありません。研究目的で採集されることはありますが、一般の人が目にすることは難しい種類といえるでしょう。北と南、それぞれの極地の海にクリオネの仲間が暮らしているというのは、興味深い事実です。

クリオネを観察するには?

クリオネを実際に見てみたいと思う人も多いのではないでしょうか。冷たい海に暮らすクリオネですが、日本でも観察できる機会はあります。ここでは、水族館での観察から野生との出会い、そして飼育の可能性まで紹介していきます。

水族館で観察するのがおすすめ!

クリオネを手軽に観察したいなら、水族館を訪れるのが最も確実な方法です。水族館ではガラス越しにクリオネの透明な体をじっくりと観察できるのが魅力です。ゆっくりと翼足を動かして泳ぐ姿を、眺めてみてください。

2025年12月現在、展示されている水族館を紹介します。

展示内容が変更されることもあるので、確実に観察したい場合は事前に問合せるとよいでしょう。

流氷ツアーで野生のクリオネに出会えるかも

野生のクリオネに出会いたいなら、北海道の流氷ツアーに参加するという方法もあります。流氷が着岸する地域では、専用のスーツを着て流氷の上を歩いたり、時には海に浮かべるツアーが開催されています。流氷の間を漂うクリオネに出会えかもしれません。

より確実に野生のクリオネを見たい場合は、流氷ダイビングという選択肢もあります。流氷の下に潜るダイビングツアーでは、クリオネをはじめとする氷の下の生き物を観察できることができるのです。ただし、流氷ダイビングは上級者向けであり、経験と相応の装備が必要な点に注意してください。

飼育は可能?一般家庭での飼育は難しい

クリオネの可愛らしさに魅了されて、自宅で飼育したいと考える人もいるかもしれません。しかし、一般家庭でクリオネを飼育するのは非常に難しいのが現実です。

最大の問題は水温管理でしょう。クリオネは0〜5℃程度の冷水でなければ生きられないため、専用の冷却設備が必要になります。一般的な水槽用クーラーでは対応できないことも多く、設備投資だけでも大きな負担となります。

またクリオネの餌であるミジンウキマイマイは入手が極めて困難で、人工飼料では代用できません。絶食に強いとはいえ、餌を与えられなければ徐々に弱っていくことは避けられないでしょう。

過去には、ペットショップでクリオネが販売されていたこともありました。しかし、適切な環境を用意できず短期間で死なせてしまうケースが多かったのが事実です。クリオネの魅力を楽しみたいなら、水族館で観察するのが最も良い選択といえます。

流氷の天使クリオネの魅力に迫ろう!

クリオネは、透明な体と翼のような器官を持つ、非常にユニークな生き物です。巻貝の仲間でありながら貝殻を持たず、冷たい海をふわふわと漂う姿から『流氷の天使』と呼ばれるようになりました。

その一方で、捕食の瞬間に見せるバッカルコーンの姿は衝撃的で、天使と悪魔の両面を持つ生き物ともいえます。1年以上の絶食に耐える生命力や、特定の餌しか食べない偏食ぶりなど、小さな体には不思議な特徴がたくさん詰まっているのです。

一般家庭での飼育は難しいものの、水族館や流氷ツアーを通じてクリオネの魅力にふれることは可能です。小さくて愛らしい姿と、意外な一面を持つクリオネの生態を、ぜひ実際に観察して感じてみてください。

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のべじ

のべじ

元水族館職員の生き物好きライター。ダイビングガイド、農家などの経験を活かし生き物・自然・家庭菜園・料理など、さまざまな分野でライティングしています。

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