- サルの個人飼育は世界的に縮小傾向にある
- 飼育情報が少なく、診察可能な獣医師も多くない
- 飼育には飼主自身の学習が必要。サルのお迎えは慎重に
サルは、エキゾチックアニマルのなかでもマイノリティなペットの一種です。日本でも条件さえ満たせば、飼育自体は可能な種類も存在しています。しかしサルの個人飼育には、さまざまな課題や困難が懸念されています。
サルは一般的なペットよりも飼育難易度が高く、簡単に手を出すことはできません。今回はサルの個人ペット化における世界的な状況や、飼育を検討する際の注意点を、動物園獣医師の監修に基づいて紹介します。
◆執筆・監修:獣医師プロフィール
岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。
サルの個人ペット化に対する世界的な情勢
2024年現在、サルの個人ペット化は世界的に縮小傾向にあります。なぜなら多くのサルは、家族や群れで暮らし、互いの接触やコミュニケーションを大切にしています。
動物園などではサル同士が毛繕いをする様子をみかけますね。知識や経験に優れた飼主であっても、サルがほかのサルと密接に関わりながら暮らしたいというニーズを満たすことは困難です。
人獣共通感染症の問題や、性成熟と共に飼い主やその他の人に対して攻撃的になることから、各国でも個人飼育に関する考え方の変化が拡大中です。
とくに日本国内には、サルを診てくれる動物病院の数が少ないこともあり、個人でサルを飼育するのはハードルが高いと考えていいでしょう。
EU8ヶ国が禁止している霊長類の個人飼育
サルのペット化における世界的な縮小の例として、EUの現状があげられます。
EU加盟国のなかでも、ベルギー・ブルガリア・チェコ共和国・リトアニア・ルクセンブルグ・オランダ・ポルトガル・スウェーデンの8ヶ国が、ペットとしてのサルの飼育を禁止しています。
上記8ヶ国以外のEU加盟国では、一部の種のみ飼育が可能なケースもあります。しかし動物福祉や公衆衛生の観点から、個人飼育禁止の波はさらに広がっていくことが予想されています。
イギリス・アメリカでの家庭でのサルの飼育の現状
イギリスはサルの飼育に比較的寛容な国でしたが、2024年3月にサル飼育に関連する新法が成立。この法律では、新しいライセンス基準を満たす管理者のみが霊長類を飼育できることが定められており、個人飼育が事実上禁止されました。
アメリカでは、霊長類の飼育を禁止する法律はありません。しかし現在、飼育霊長類安全法の法案が連邦議会に提出されています。またいくつかの市や都では、霊長類のペット飼育を免許制にしたり、禁止したりする条例も制定されつつあります。
ワシントン条約(CITES)の附属書Ⅰ対象であるスローロリス
現在飼育が認められている種類も、将来的には入手ができなくなる可能性があるでしょう。たとえばスローロリスは、ワシントン条約の対象になっているサルの一種です。
ワシントン条約におけるスローロリスは「附属書Ⅰ(絶滅のおそれが高く、取引を厳重に規制する必要がある種)」に含まれており、商業的な国際取引が禁止されているため、入手が非常に困難です。
日本でペットとして飼育可能なサルは主に3種類
ここでは、日本でペットとして飼育されることのあるサルの種類を紹介します。個人宅での飼育が現実的なサルは、スローロリス・リスザル・コモンマーモセットの3種類です。
サルの個人飼育にはさまざまな困難があることを前提のうえで、それぞれの特徴を学んでいきましょう。
日本におけるサルの飼育に関する規制
2005年7月1日から、どのような種類のサルであっても、ペット目的のサルは輸入が禁止されています。海外には日本にはない病気がたくさんあり、これらの病気がサルを介して日本に上陸する恐れがあるからです。
そのため、日本でペットとして飼育できるサルは、2005年以前から飼われているサルか、国内で繁殖したサルのどちらかのみです。
また、「特定動物」に指定されているサルは、環境省からの許可がないと飼育できません。そしてサルの種類の多くは、特定動物に指定されています。動物園では、この許可を取得したうえでサルの飼育をしています。
特定動物を飼育する基準は、飼養施設の構造や規模・定期的な施設点検の実施・施設外飼養の禁止などさまざまです。詳しくは、環境省が公表している情報を確認してください。
参考:
環境省「特定動物(危険な動物)の飼養又は保管の許可について」
日本で飼育可能なサル 1【スローロリス】
スローロリスは、霊長目ロリス科に分類されるサルです。木の上で生活しており、おもに熱帯雨林を好んで生息します。名前の通り、普段はとてもゆっくり動くため、簡単に人に捕まってしまい、ペットや伝統医薬に使われて絶滅の危機に瀕しています。
スローロリスは食性や行動が不明な部分も多く、比較的最近になって、ガム(Gum=樹液)を食べるガムイーター(GumEater)であることがわかってきました。
また、少し前までは単独行動をする動物だと思われていましたが、家族や仲間と暮らすことを好むこともあるということも判明してきています。
クリクリとした大きな目が印象的で、枝につかまっている時間が長いため握力が強いのも特徴です。夜行性なので、日中はしっかり眠れる環境が必要です。スローロリスに対してアレルギー反応が出てしまう人もいるため、飼育には注意が必要です。
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日本で飼育可能なサル 2【リスザル】
リスザルは、霊長目オマキザル科に分類されるサルです。体の大きさがリスのように小さいことから名づけられ、中南米の森林を中心に集団で生息しています。
ペット飼育が可能なサルのなかでは、もっとも飼育しやすいとされています(が、あくまで「サルのなかでは」に限ります)。比較的穏やかな性格をしており、感受性が豊かであることも特徴です。
リスザルの魅力は、なんといっても駆けまわったり2m以上もジャンプしたりと見ていて飽きないダイナミックな行動です。
また、好奇心旺盛で、なんでもさわっておもちゃにします。退屈すると非常に強いストレスを感じるため、飼育の際には思い切り運動ができる広いスペースと、リスザルができるだけ飽きることのないような環境の提供が重要です。
日本で飼育可能なサル 3【コモンマーモセット】
コモンマーモセットは、霊長目マーモセット科に分類されるサルです。本来はブラジルの一部地域のみに生息していましたが、現在は人の手によって広まり、世界各地で生活しています。
哺乳類の中で、母親だけでなく父親も子育てに参加する動物はごくわずかですが、コモンマーモセットは、子育てを両親のみならず兄や姉を含めた家族全体で行う珍しい動物です。
小型で愛らしく、繁殖力が高いことから、ペットとしての人気も高いサルです。しかし、家族の絆が強い動物のため、とりわけ単独飼育にストレスを感じやすく、自傷行為を行うなどの問題が出てしまうことも少なくありません。
ただでさえ難易度の高いサル飼育のハードルがさらに上がりますが、ペットとしての飼育の際も、親子やきょうだいなどとの多頭飼育が理想的です。
人獣共通感染症も!サルを飼う際の注意点
ここでは、実際にサルを飼育する際の注意点を紹介します。人間に近しい生体を持つサルは、人獣共通感染症についてもとくに注意が必要です。サルの飼育に関連するリスクや注意点を加味したうえで、お迎えを慎重に検討していきましょう。
サルを診てくれる動物病院は近くにあるか
サルを飼育する前に、近くにサルを診察してもらえる動物病院があるか調べてみましょう。そもそもサルの診療には、獣医師が行う際にもいくつかの高いハードルが存在します。
- サルにはまだ解明されていない生態が多く、学ぶには時間がかかる
- 人獣共通感染症を持っている可能性があるサルを病院に入れることのリスクが高い
こうした問題があるため、サルの診察ができる獣医師は絶対数が少なく、定期的な通院は困難なケースが多いでしょう。自宅周辺に適した動物病院がない場合は、飼育を諦めるか、引越しを検討する必要があります。
栄養疾患にさせない食事管理の必要性
サルは雑食性や草食性の動物ですが、種類によって食性には違いがあります。サルを飼育する際は本来の食性をリサーチしたうえで、栄養疾患にさせない食事管理が必要です。
サルの栄養管理は難易度が高く、プロの飼育員も試行錯誤を繰り返しています。
たとえばペットとして飼育できるリスザルは雑食なので、野生下では昆虫やカエルなども食べます。しかし飼育下ではフルーツばかりを与えられ、病気になってしまうケースが後を絶ちません。
あげてはいけない食べ物
ペットとしてのサルは犬や猫と比べて飼育情報が少なく、危険な食べ物に関連する情報も少ない傾向にあります。新しい食べ物を与える際は獣医師に相談し、健康的な食生活を維持しましょう。
たとえば、サルの好物として連想されるバナナも、虫歯になりやすいという観点からたくさん与えるのは推奨されてはいません。またツツジをはじめとする一部の植物は、消化器疾患や中毒のリスクがあります。
まだわからないことの多いサルを個人的に飼うことの難しさ
本記事で解説したように、サルの飼育はまだ解明されていないことが多く存在しています。飼育情報の量や受診可能な獣医師の数も少なく、さまざまな観点からサルの飼育は簡単ではありません。
個人で飼育するためには、飼主が自力で行う深い学習が必要不可欠になります。SNSやテレビなどのメディアでは、ペットとしてのサルが度々話題になります。しかし実際の飼育では、サルはあまりにも複雑かつリスクが大きい動物なのです。
サルは飼育難易度が高い動物。お迎えは慎重に
今回は、サルの個人飼育について紹介しました。
赤ちゃんの時期は小さくて可愛いサルも、成長とともに体が成長し力も強くなります。身体能力は時に人間を上回り、飼主でさえも大きなケガをしてしまうリスクがあるでしょう。
サルの飼育では、飼主の自発的かつ継続的な学習が求められます。また飼育条件も厳しく、簡単に終生飼育ができる動物ではありません。
サルのお迎えは、飼育難易度の高さを加味したうえで、慎重に検討していきましょう。
サルの本来の魅力は、駆けまわる、ジャンプするなどの高い運動能力や、家族や群れの仲間と仲睦まじく遊んだり子育てを行うなど、高い社会性を持っていることです。
今度のお休みには、動物園などで野生の姿に近い、イキイキとした彼らの姿を見に行きませんか?
以下の記事では、テングザルの生態について飼育スタッフに解説してもらいました。
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