- 頭が透明で、目が回転する。デメニギスは『見ること』に特化した深海魚。
- クラゲのそばで待つだけという、省エネすぎるユニークな狩り方法
- 最新研究で少しずつ正体が見えてきた一方、謎はまだ多い。

『頭が透明な魚がいる』そう聞いたら、ちょっと信じがたいですよね。
その魚の名は『デメニギス』と呼ばれ、丸いガラスのような頭の中に、ビー玉みたいな緑の目が浮かんでいる姿は、まるでSF映画のキャラクターのようです。
しかし、これは実在する魚で、深海600mの暗闇にひっそりと暮らしています。初めて映像が公開されたときは『作り物じゃないの!?』と世界中で話題になりました。
一見奇妙な姿ですが、すべてにちゃんと『理由』があります。
この記事では、まだ謎の多い不思議な深海魚デメニギスの構造・暮らし、そして進化の謎を、できるだけわかりやすく解説していきます。
デメニギスってどんな魚?

デメニギスが初めて発見されたのは1939年といわれています。カリフォルニア沖で採集された個体をもとに『奇妙な頭』を意味するラテン語が名前の由来とされています。
しかし当時の標本は、引き上げ時の水圧差で頭部が壊れており、透明な構造は確認されていませんでした。そのため、長いあいだ『頭が変わった形の魚』程度の存在だったのです。
暮らしているのは光ゼロの世界
デメニギスが暮らすのは、水深600〜800mの深海と言われています。彼らの住む海の世界は、太陽の光がほとんど届かず、温度も低く、食料もわずかです。
そんな過酷な環境で暮らすために、他の深海魚と同じように体の一部を光らせたり、半透明にして敵から身を守るなど、独特の進化を遂げています。
デメニギスの『透明な頭』も、この環境にぴったり適応した結果なのです。
その透明な頭について、次の章から解説していきます。
謎の多い『透明な頭』の秘密

ドーム状の透明な頭の中に光る目が2つ。自然の産んだ奇妙な体はどうして生み出されたのでしょうか。ここでは『透明な頭』について解説していきます。
なぜ『頭が透明』なのか?
デメニギスの頭部は、ゼリーのような透明のドームに覆われています。しかし長い間、この透明な構造を見逃していました。なぜなら、デメニギスを引き上げる際、気圧の差で頭部の膜が壊れてしまうからです。
そのため、デメニギスの頭は元来『不透明』だと思われていましたが、この誤解が解けたのは2004年です。
深海探査機が撮影した映像で、ゼリー状の透明な頭をもつ生きたデメニギスが初めて確認され、世界に衝撃を与えました。
敵にも獲物にも気づかれない『透明の利点』
頭が透明であることで、上から降り注ぐわずかな光を効率よく取り込み、しかも外敵から目の位置を隠すことができるのです。
つまり、深海では『見えること』よりも『見えないこと』が、生き残るカギなのです!
最新研究が明かす『透明な頭』の進化
近年、モントレー湾水族館研究所(MBARI)の探査機によって、生きたデメニギスの高画質映像が記録されました。
その観察から、透明なドーム状の頭は単なる保護膜ではなく、光を効率よく集めるレンズのような役割をもつことが判明したのです。外敵から目を守りながら、わずかな光を最大限に取り込むその構造は、深海で生きるために磨かれた『機能美』と言えるでしょう。
一方で、デメニギスはクラゲを主な食料とする魚類の系統に近いことが示唆されていますが、生態にはまだ多くの謎が残されています。
繁殖の方法や成長の過程、どのような群れをつくるのかといった基本的な生活は、ほとんど明らかになっていません。深海での観察が難しいため、私たちが知っているのは、たまたまカメラに映った一瞬の姿にすぎないのです。
その進化の過程がどのように進んだのか、なぜここまで特異な形にたどり着いたのかは、今も研究途上です。その透明な頭の奥には、これから明らかになる深海の謎が、いくつも隠されているのかもしれません。
動かないようで動く、デメニギスの視界の秘密

デメニギスの頭も特殊ですが、目も深海で獲物を逃さないために特別な構造をしています。その不思議な目の構造について解説します!
上も前も同時に見る、回転する目!?
デメニギスのゼリーのような透明のドームに覆われている頭部の中には、ビー玉のような丸い緑色の目がふたつ、常に上を向いています。
普段は真上を向いて獲物を探していますが、見つけた瞬間に眼球を前方へ回転させて追うことができます。
この『回転する視界』によって、真上と前方の両方を同時にカバーでき、暗闇の中でも死角をつくらずに行動できるのです。
深海の暗闇で上を見て獲物を探しつつ、前方の障害物にも対応することができる、万能な目ですね!
わずかな光を見逃さない、光に特化した視覚
深海に届く光は、ほとんどが青や緑の波長に限られています。デメニギスの目はこの光に特化しており、暗闇の中でもクラゲや小魚のシルエットをはっきりと識別できます。
回転する目の構造と、光を読み取る鋭い感覚。この二つが組み合わさることで、デメニギスは深海という過酷な環境でも生き抜いているのです。
食事は『受け身』が基本?ユニークな狩りのスタイル

デメニギスは、獲物を追いかけ回すタイプの魚ではありません。
流れの少ない深海で、ほとんど動かずに静かに漂いながらチャンスを待ちます。
彼らがよく身を寄せるのは、クラゲの群れの近くです。彼らは、クラゲの触手に絡まった小魚やプランクトンを見つけると、すばやく口に運びます。
自分で狩りをするというより『すでに捕まえている獲物をもらう』スタイルです。一見ずるいようにも見えますが、これは深海では非常に合理的なんです。
深海では食べ物が少なく、エネルギーを無駄に使うことが命取りになります。だからデメニギスは、流れや他の生き物の動きを利用し、最小限の動きで食事を済ませる道を選んだのかもしれません。
深海には、まだ見ぬ『夢』が眠っている

デメニギスを知ると、最初の『奇妙な魚』という印象が少し変わってきませんか?
透明な頭は光を集め、回転する目は死角をなくし、動かずに待つ狩りは省エネ。
彼らの特徴はすべて、深海という極限の環境を生き抜くための合理的な仕組みであり、そのどれもが、シンプルでいて緻密な戦略なのです。それでも、わかっていることはほんの一部です。私たちが知る『深海』は、地球全体のわずか数%にすぎないのです。
宇宙の果てを想像するように、海の底にもまた、無限の可能性が広がっています。デメニギスは、その『未知の扉』をそっと開けてくれる存在と言えるかもしれません。
深海には、まだまだ人類が見たことのない夢と発見が眠っています。次にあなたが夜の海をのぞくとき、その奥に小さなガラスの頭が輝いているかもしれませんね。




