- 虫の鳴き声は、正しくは『羽や肢をこすり合わせてだす音』
- 鳴くおもな理由は求愛行動。オス同士の縄張りアピールにも役立つ
- 日本人にとって秋の虫は『聴く文学』。古来より深いつながりがある

リーンリーン・チンチロリンと鳴く、日本の秋の虫たち。猛暑の時期が過ぎて虫の鳴き声が聞こえてくると、少し切ない気持ちにもなりますよね。
今回は、日本に生息する『秋に鳴く虫』の種類や特徴を紹介します。秋の虫特有の文化的なエピソードにもふれていきますので、ぜひ秋の夜長のお供に楽しんでください。
※本記事内には虫の画像が挿入されますので、苦手な人は注意してください
秋の虫は、どうして美しい音で鳴くの?

日本には、約3万種類もの虫が存在するといわれています。そのなかでも秋に活発になる虫たちは、美しい鳴き声が特徴的ですよね。秋の虫が鳴くおもな理由は、メスへの求愛行動です。
オスは鳴き声で自分の存在を主張し、メスをおびき寄せます。また一部の虫は縄張り意識が強いため、オス同士が鳴くごとにより自分の存在を知らせ、お互いにあまり近くに固まらないように位置調整をする役割もあるようです。
何種類知ってる?秋に鳴く虫6選!
ここでは、秋の虫の代名詞でもある以下の6種類の虫を紹介します。
- スズムシ
- キリギリス
- コオロギ
- ヒメギス
- マツムシ
- クツワムシ
鳴き声の特徴や活発な時間帯なども記載していきますので、ぜひ頭の中で鳴き声を思い浮かべながら読んでみてください!
秋の虫の音と言えばこの音色を思い浮かべる【スズムシ】

- 鳴く時期:初秋~秋
- 鳴く時間帯:夕方~夜
- 鳴き声:リリーン・リリーン(メスがいる場合)リー・リー(メスがいない場合)
- 生息場所:住宅地・石垣・田んぼ・畑・林など
秋を代表する虫であるスズムシ。おもに夕方から鳴きますが、涼しい時期になると昼間でも鳴き声を確認できます。
華奢な体格ですが実は気性が荒く、オス同士で縄張りが被ると近づいて争いを始めることも。交尾を終えたオスはメスに捕食されるという厳しいルールがあります。
順番を守って鳴く律儀さ【キリギリス】

- 鳴く時期:夏~初秋
- 鳴く時間帯:昼・まれに夜
- 鳴き声:ギーッチョン・ギーッチョン
- 生息場所:住宅地・道路沿いの植え込み・田んぼ・林など
おもに日当たりの良い草原に生息しており、人の気配を感じるとすぐに逃げる警戒心の強さを持ちます。集団で鳴く際は、ほかのオスと声が被らないように順番に鳴くのが特徴的。
そのため1~2匹程度の鳴き声でも、近くに寄ると何匹ものキリギリスが固まっていることもあります。
メスに聞かせる音色は一味違う!?【コオロギ】

- 鳴く時期:晩夏~秋
- 鳴く時間帯:夕方~朝
- 鳴き声:ヒリヒリ・リーリーリー(メスがいる場合)ヒリヒリ・ヒリヒリ(メスがいない場合)
- 生息場所:住宅地・庭・草原・田んぼ・畑・林など
住宅地・草むら・河原など、さまざまな場所で見かける秋の虫であるコオロギ。街中でよく見かける大型の種類は『エンマコオロギ』という種です。
体が丈夫なため、お子さんの採集や観察にもおすすめです。メスがいる時といない時で、別の虫のように鳴き声が変わるのも特徴的。
美しい光沢が特徴【ヒメギス】

- 鳴く時期:初夏~初秋
- 鳴く時間帯:昼
- 鳴き声:シリリリ・シリリリ
- 生息場所:住宅地・草地・林・湿った場所など
ヒメギスはキリギリスの仲間で、6月頃から秋にかけて鳴き始めます。背中は褐色と緑色に大別され、緑色は美しい光沢が特徴。
キリギリスの仲間ですが、一般的な種よりも湿度が高い場所を好みます。秋の虫とはいえ最盛期は7月頃であり、11月初旬までにはほぼいなくなってしまいます。
絶滅も危惧される秋を代表する虫【マツムシ】

- 鳴く時期:晩夏~秋
- 鳴く時間帯:夜
- 鳴き声:チンチロリン・チンチロリン
- 生息場所:林・草原・河川敷
マツムシは、本来乾燥した草地を好む虫です。河川敷で見られるマツムシは、快適に住める環境を見つけられず、水場に追いやられた個体の可能性が高いです。
秋の虫として認知度は高いものの、年々生息域を追われており、一部地域では絶滅危惧種に指定されているところもあります。
大きな鳴き声はセミにも匹敵!【クツワムシ】

- 鳴く時期:晩夏~秋
- 鳴く時間帯:夕方~夜
- 鳴き声:ガチャガチャ・ガチャガチャ
- 生息場所:林・藪・河川敷など
クツワムシは、夜行性のキリギリスの仲間です。暗い場所を好み、街頭や住宅地の明かりを避けて生息しています。
多くの秋の虫のなかでも、鳴き声の大きさはトップクラス。セミに匹敵するほどの大音量で鳴くため、しばらく鳴き続けると体温が上がりすぎてしまいます。体を冷やすためにしばらく休んでから、再び大きな声で鳴き始めます。
虫の鳴き声の正体は?実は『声』ではない!

虫の『鳴き声』と言いますが、厳密には喉から出している声ではありません。虫の声は、種類によっておもに以下の方法で鳴らされます。
- 羽をこすり合わせる
- 音を共鳴させる
- 体を振動させる
- 外骨格を打ちつける など
たとえばコオロギやキリギリスの仲間は、羽や肢(あし)をこすり合わせて鳴き声を出します。羽のギザギザした部分と爪をこすることで、羽全体が振動して音が出るのです。
同じ虫でも、セミの発音膜のように『鳴き声を出すためだけの器官』を持つ種類もいます。秋の虫の音に想いを馳せる際は、虫ごとの鳴き方の違いもぜひ調べてみてください。
日本人と『秋の虫』は文化的にも深い関係にある

日本人にとって、秋の虫は俳句の季語になるほど身近な存在です。日本人と秋の虫には、文化的にも深い関係があります。ここでは、秋の虫が登場する有名な童謡や俳句についてふれていきます。
童謡『虫のこえ』にもさまざまな虫が登場
あれ松虫が 鳴いているちんちろちんちろ ちんちろりん あれ鈴虫も 鳴き出したりんりんりんりん りいんりん 秋の夜長を 鳴き通すああおもしろい 虫のこえ きりきりきりきり きりぎりす がちゃがちゃがちゃがちゃ くつわ虫 あとから馬おい おいついて ちょんちょんちょんちょん すいっちょん 秋の夜長を 鳴き通すああおもしろい 虫のこえ |
秋の童謡の定番といえば、岡野貞一作詞の『虫のこえ』。1910年が初出の本曲は、誕生から115年以上経過した現在でも小さなお子さんに親しまれています。
歌詞には、本記事でも紹介したマツムシ・スズムシ・キリギリス・クツワムシなどが登場。2番に出てくる「馬おい」とは、キリギリスの仲間である『ハヤシノウマオイ』や『ハタケノウマオイ』を指していると考えられます。
1910年は、第一次世界大戦すら始まる前の明治時代。時代が変わっても日本の虫の音は変わっていないと考えると、ノスタルジックな想いに包まれますよね。
俳句や短歌の素材にも秋の虫は大人気
俳句や短歌の季語としても、秋の虫は度々取り上げられます。
鈴虫を 聴く庭 下駄を揃へあり(高浜虚子:俳句) 来むと言ひし ほどや過ぎぬる 秋の野に 誰れまつ虫ぞ 声の悲しき(紀貫之:和歌) きりぎりす なくや霜夜の さむしろに 衣かたしき 独りかも寝む(後京極摂政前太政大臣:百人一首) |
8世紀に作られた日本最古の歌集『万葉集』にも、スズムシの和歌が登場しています。また清少納言の『枕草子』や紫式部の『源氏物語』など、誰もが知る有名な作品にも虫の鳴き声が描かれています。
江戸時代では、松尾芭蕉や与謝蕪村などの詩人も、秋の虫を季語として多く用いました。秋の涼やかな風のなか、月の下で虫の音を楽しむ……。1,000年以上の時を越えても、私たちには虫の音に風情を感じる感性が受け継がれていることがわかります。
『静』や『間』を慈しむ民族性

私たちがこれほどまでに秋の虫の音を楽しむ背景には、日本人特有の『静や間を慈しむ民族性』も関連しているでしょう。
たとえば、風鈴や鹿威し(ししおどし)などが好例です。風鈴は『チリンチリン』という音に風情を感じますが、絶え間なく鳴り響いていては騒音と大差ありませんよね。
風が吹き、しばらく止み、そしてまたふいに吹く。無音があるからこそ、忘れた頃に鳴る風鈴の涼しい音に、私たちの心は洗われます。風鈴や鹿威しに趣を感じられるのは、音と音の『間』があるからです。
秋の虫の鳴き声も同様です。リンリンと鳴いては、無音の後、また鳴り始める虫の音。その静かな間にこそ、風情や趣の本質が詰められているのです。
四季の移り変わりが豊かな国だからこそ、秋の訪れを感じられる!
日本は四季に移り変わりがある国だからこそ、秋の虫の『季節感』が強調されるという考え方もあります。
日本は、世界でも有数の明確な『春夏秋冬』の変化がある国です。たとえば春は桜や蝶。夏は向日葵やセミ、秋は紅葉にスズムシ。冬は雪や椿のように、季節ごとに象徴的な生き物や植物が存在しています。
秋の虫も、秋に鳴くからこそ風物詩としての役割を発揮します。もし日本が1年中秋の気候であれば、スズムシやキリギリスも『通年存在している、ただの虫』になっていたことでしょう。
季節のメリハリがある国だからこそ、虫たちの声が秋の訪れを感じさせてくれるのです。日本がこれからも四季に富んだ国である限り、虫たちも『音で感じる季節の移ろい』として愛され続けるでしょう。
秋の虫の声は、日本人の心に響く風物詩

今回は、秋に鳴く虫の種類や、日本人と秋の虫の関わりについて紹介しました。
秋の虫の音は、人生の儚さや移ろい、恋の切なさなどにも象徴されます。日本人にとって虫の鳴き声は、単なる自然の音ではなく、感情や哲学と結びついた『聴く文学』のような存在なのです。
ぜひ今夜は、虫たちの声にゆっくりと耳を傾けてみませんか?静けさの間を縫うように響く音に身を委ねると、過去の詩人たちと心がつながるような感覚になるはずです。