- 出世魚とは成長に伴って名前が変わる魚で、日本の出世文化に由来する
- ブリやスズキなど身近な魚が出世魚で、地域によって呼び名が異なる
- 縁起が良いとされ、祝いの席で食べられることも多い

成長するにつれて名前が変わる魚がいることを知っていますか。日本では古くから、大きくなるたびに呼び名を変える魚を『出世魚』と呼んできました。スーパーやお寿司屋さんのメニューで見かける魚の中にも、実は出世魚が含まれています。
この記事では、出世魚とはどんな魚なのか、なぜ名前が変わるのかといった基本情報を解説します。さらに、ブリやスズキなど身近な出世魚の具体例も紹介しますので、魚への興味を深めてみてください。
どんな魚のこと?出世魚の基本情報

出世魚は日本特有の呼び方で、成長に応じて名前が変化する魚を指します。ここでは出世魚の定義や、名前が変わる理由について詳しく見ていきましょう。
『出世魚』とは、成長段階で名前が変わる魚のこと
出世魚とは、稚魚から成魚へと育つ過程で、サイズや見た目の変化に合わせて呼び名が変わる魚のことです。たとえば、関東ではブリは小さいうちは『ワカシ』と呼び、成長すると『イナダ』『ワラサ』を経て、最終的に『ブリ』になります。
日本では古くから漁業が盛んで、魚のサイズによって市場価値や調理法が異なっていました。そのため、成長段階ごとに別の名前をつけて区別する習慣が生まれたのです。同じ種類の魚でも、大きさによって味わいや食感が変わるため、名前を分けることで流通しやすくなりました。
出世魚になる条件とは
すべての魚が出世魚と呼ばれるわけではありません。出世魚になるには、いくつかの条件があります。
まず、成長に伴って体のサイズが大きく変化することがあげられます。数cmから1m以上まで育つような魚は、段階ごとに異なる名前で呼ばれやすい傾向に。また、食用として広く流通していることも重要でです。市場に出回る機会が多いほど、漁師や魚屋が名前を使い分ける必要性が高まります。
さらに、日本の食文化と深く結びついていることも条件の一つです。縁起の良い魚として祝いの席で食べられる習慣があると、出世魚として定着しやすかったようです。
なぜ名前が変わるのか?
出世魚の名前が変わる背景には、日本の歴史や文化が関係しています。江戸時代、武士や学者は元服や昇進の際に名前を改めることが一般的でした。この風習になぞらえて、成長とともに名前が変わる魚を『出世魚』と呼ぶようになったといわれています。
魚の名前を変えることで、サイズや品質を明確に伝えられるメリットもありました。漁師や商人にとって、「今日はワラサが獲れた」と言えば、ブリよりやや小さいサイズだと即座に伝わります。このように、実用的な理由と文化的な背景が組み合わさって、出世魚という独特の呼び方が根付いたのです。
出世魚にまつわる豆知識

出世魚には、名前が変わる以外にも興味深い特徴があります。ここでは地域による呼び名の違いや、縁起物としての扱い、出世魚の種類数など、知っておくと面白い豆知識を紹介します。
地域によって名前が変わることもある
出世魚の名前は、実は地域によって異なることがあります。同じ魚でも、関東と関西では呼び名が違うケースが珍しくありません。
たとえばブリは、関東では『ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ』と変化しますが、関西では『ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ』と呼ばれます。これは流通網が発達する以前は、地産地消で消費されていたため、それぞれの土地で独自の名前が定着したためです。
祝いの席に食べられることも多い
出世魚は縁起がよいとされ、お祝いの席で好まれる食材です。名前が変わることが『立身出世』を連想させるため、結婚式や長寿の祝い、新築祝いなどで振る舞われてきました。
特にブリは正月料理によく使われます。脂がのった身は食べ応えがあり、見た目も豪華なので、ハレの日にふさわしい魚といえるでしょう。また、スズキも高級魚として知られ、祝いの膳に並ぶことがあります。
出世魚って何種類ぐらいいるの?
出世魚として広く知られているのは、10種類前後です。代表的なものにブリ・スズキ・ボラ・コノシロなどがあげられます。
ただし、地域や時代によって出世魚とされる魚は異なるため、正確な数を数えるのは難しいです。昔は出世魚とされていたものの、漁獲量の減少や食文化の変化によって、現在はあまり呼ばれなくなった魚もあります。
名前が変わっても出世魚とは限らない
成長に伴って名前が変わる魚はたくさんいますが、そのすべてが出世魚と呼ばれるわけではありません。出世魚として定着するには、文化的な背景や縁起の良さが必要です。
たとえば、マグロは『カキノタネ→メジ→チュウボウ→ダルマ→マグロ』と名前が変化します。現代でこそ人気のマグロですが、江戸時代は『下魚』として人気がありませんでした。冷蔵技術や流通が発達する前は傷みやすい魚の代表格であり、敬遠されていたのです。
出世魚かどうかは、単に名前が変わるだけでなく、日本の食文化との結びつきが重要なのです。
身近でよく知られる出世魚の紹介

日本近海にはさまざまな出世魚が生息しています。ここでは、スーパーや飲食店でもよく見かける代表的な出世魚を6種類紹介します。それぞれの名前の変化や特徴を知ると、魚選びがより楽しくなるでしょう。
地域によっても名前が違う│ブリ

ブリは出世魚の中でも最も有名な魚です。関東では『ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ』、関西では『ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ』と呼ばれます。
体長が15cm程度の幼魚期はワカシやツバスと呼ばれ、30cm前後になるとイナダやハマチになります。さらに60cmを超えるとワラサやメジロ、80cm以上の成魚になると晴れてブリという名前になるのです。
ブリは養殖も盛んです。養殖されたものを『ハマチ』、天然物を『ブリ』と呼ぶこともあります。
出世魚の代表格│スズキ

スズキは夏を代表する高級魚として知られる出世魚で、関東では『コッパ→セイゴ→フッコ→スズキ』と名前が変わります。関西では『ハクラ→セイゴ→ハネ→スズキ』と呼ばれることが多いです。
幼魚のうちはコッパやハクラと呼ばれ、体長25cm前後になるとセイゴになります。40cm程度に成長するとフッコやハネ、60cmを超えると立派なスズキです。夏が旬で、白身の上品な味わいが特徴です。江戸前の寿司ネタとしても人気があり、洗いや塩焼きにして食べられます。
出世の数が一番多い│ボラ

ボラは出世魚の中でも、名前が変わる回数が最も多い魚として知られています。関東では『オボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド』と6段階も名前が変わるのです。
幼魚期のオボコ、10cm前後になるとイナッコ、さらに成長してスバシリ、イナと呼ばれ、最終的に30cm以上でボラになります。さらに大型の個体はトドと呼ばれ『これ以上大きくならない』という意味から『とどのつまり』という言葉の語源になったといわれています。
逆出世魚ともいわれる│コノシロ

コノシロは『コハダ→ナカズミ→コノシロ』と名前が変わる出世魚ですが、実は『逆出世魚』とも呼ばれています。これは成長するほど価値が下がるためです。
幼魚期のコハダは江戸前寿司の代表的なネタで、酢でしめた身は絶品です。体長10cm程度までのものが特に美味しいとされ、高値で取引されます。しかし15cmを超えてナカズミになると小骨が気になり始め、20cm以上のコノシロになると骨が硬くて食べにくくなります。
そのため、大きくなるほど需要が減り、価格も下がるのです。本来、名前が変わるごとに価格も上がりますが、コノシロは下がるため逆出世魚とよばれています。
実は出世魚の1つ│マイワシ

あまり知られていませんが、マイワシも出世魚の仲間です。『シラス→カエリ→コバ→チュウバ→オオバ』と名前が変化します。
孵化したばかりの透明な稚魚はシラスと呼ばれ、釜揚げにして食べられています。数センチに育つとカエリ、さらに大きくなるとコバ、チュウバと変化し、成魚になるとオオバやマイワシと呼ばれるのです。
ただし地域によって呼び名はさまざまで、単に『イワシ』とだけ呼ぶ地域も多くあります。栄養価が高く、安価でさまざまな料理に使われる庶民的な魚です。
関東では出世魚│クロダイ

クロダイは主に関東地方で出世魚として扱われる魚です。関東では『チンチン→カイズ→クロダイ』関西では『ババタレ→チヌ→オオスケ』と名前が変わります。関西でも出世魚として取り扱われることもありますが、単に『チヌ』と呼ばれることが多いです。
幼魚期の体長10cm程度で、チンチンやババタレ、20cm前後になるとカイズ・チヌ、30cmを超えると成魚のクロダイと呼ばれます。釣りの対象魚として人気ですが、警戒心が強く、釣り上げるのが難しい魚として知られています。白身で上品な味わいがあり、冬が旬の魚です。
出世魚を知って魚をもっと身近に感じよう

出世魚は、成長とともに名前が変わる日本独特の呼び名です。江戸時代の出世の風習にならって名付けられ、縁起物として祝いの席でも親しまれてきました。
ブリやスズキ・ボラなど、身近な魚が出世魚に含まれています。同じ魚でも地域によって呼び名が異なり、それぞれの土地の食文化や歴史が反映されているのです。出世魚について知ることで、魚への興味が深まり、食卓での会話も弾むでしょう。今夜は日本の豊かな魚食文化を楽しんでみてはどうでしょうか。




